『きれいだな・・・・・』
翌朝―――
目を覚ましたイルカは、薄っすらと目を開けた途端、視界に飛びこんできたものをぼんやりと見つめた。
朝日を受けて、キラキラと輝くそれは、とても美しくて。
目が覚めたと思ったが、未だ夢の中なのか?と軽く混乱したまま、キラキラと光るそれに手を伸ばした。
触れてみると、どこか覚えのある手触りで、気持ちいい。
『この手触り、どこかで・・・・・・ああ!』
出勤途中にある、古びたアパート飼われてる犬!あいつの手触りにそっくりだ。
名前は確か・・・・・
「・・・惣一郎さん」
キラキラと光る毛を撫でながらそう呼んでみる。
すると・・・
「・・・この状況で他の男の名前を呼ぶのは酷いと思うんだけど」
もそりと動いた犬が、拗ねたような声でそう呟いた。
その声に、イルカは首を傾げる。
『あれ?惣一郎さんって喋れたのか?忍犬だったっけ!?』
それにやたら毛艶がいいなぁ・・・白い毛な筈なのに、銀色に光って見える。
そう思いつつ撫でていた手を引くと、キラキラと光る頭が動き、顔を上げた。
ぼんやりとそれを見つめていたイルカは、突如覚醒したようで・・・その瞳を大きく見開く。
その黒い瞳に映っていたのは、白い犬・・・ではなく、銀髪の上忍だった――――
・ この腕に花を ・ <7
>
「ねぇ・・・『ソウイチロウ』さんって、誰?」
不機嫌そうなその声には、覚えがある。
イルカはしどろもどろになりながら、答えた。
「・・・惣一郎さんは、出勤途中に毎日会う・・・・・」
「へぇ、毎日その男に会うの」
「あ、いや、男って言うか・・・名前からするとオスだとは思いますが」
「オス?」
「犬なんです」
「・・・なーんだ、犬なの」
でも、それじゃあ俺、犬に間違えられちゃったの?
男じゃなくて良かったけど、それはそれで複雑だな・・・もしや、俺に犬の匂い染み付いてる?
あからさまにホッとした様子の後、複雑な顔で自分の髪をつまんで見つめる男。
・・・完全に覚醒したイルカは、呆然としながらその秀麗な顔を見つめた。
目は覚めたが、状況が全くわからない。
―――混乱した頭で考える。
『これ・・・確か、はたけ上忍だよな?』
昨夜、はたけカカシに呼ばれて、バカ高そうな料亭に行った。
そして、その時見せられた素顔が確かこの顔だった・・・・・
それは、思い出せたが・・・その先がわからない。
いったい、何故にこの上忍が俺の隣で寝ているのか?
『確かやたら酒を進められて、つい飲みすぎて・・・その後は?』
窓にはめられた障子をみると、朝日の明るさ―――もう、夜は明けている。
つまり、あの後・・・・・寝てしまったと言う事だ。
それに気がついて、イルカは慌ててガバリと起きあがる。
酔った後の介抱を上忍・・・しかも、写輪眼のカカシにさせるなど、とんでもない事だ。
「すみませんっ、はたけ上忍!!俺、酔っぱらってしまって・・・っ」
とりあえず謝罪!!
そう思って早口に謝罪の言葉を述べると・・・のんびりとした声が聞こえてきた。
「あー、それはかまいません。かまいませんけど・・・それ、かなり目の毒なんですけど?」
「は?」
「ま、俺としては嬉しい限りなんですがねぇ」
それって、なんだ?
イルカは首を捻りつつ、カカシに指差された自分の胸元を見て・・・・・悲鳴をあげた。
「うわっ!?」
見下ろした先には、女性のハダカ。
つんと上向いた、形のいい胸。そのトップはぷっくりとした、可愛いピンク。
カアッと頭に血が上って、慌てて両手で鼻の辺りを覆った。
『や、やべぇ・・・自分の体見て、鼻血出しそうだった・・・・・』
元々このテの刺激に弱いイルカは、一月以上たった今も女体化した自分の体に慣れなかった。
女体になったのを隠すために、一日のほとんどを変化して過ごしていたというのもあるが・・・。
実は、女になった当初風呂場の鏡に映った体を見て鼻血を吹いてしまい、それからは風呂に入るたびに毎回わざわざ変化して、なるべく裸を見ない様にして過ごしているのだ。
顔ごと写ったのは割と大丈夫なのだが、どうにもパーツだけをみたりすると未だにのぼせそうになってしまう。
『うう、情けねぇ・・・モテない人生長かったからなぁ(涙)』
そう心の中で涙していると、少し笑いを含んだような声が聞こえてきた。
「・・・・・ふつう、隠すのは鼻じゃなくて、ムネなーんじゃない?」
「え、あ、そうですね・・・・・」
そう言われりゃそうだ。
もっともなツッコミに、腹の辺りにたまっていた布団を胸まで引っ張りあげた。
その仕草にまたくっくっと可笑しそうに笑ってから、カカシも横たえていた体をゆっくりと起こす。
「アナタ、おもしろいねぇ」
―――色々と行動が予想外で。
そう言いながら前髪の辺りをかきあげたカカシを見て、イルカはひいっっと心の中で叫び声を上げる。
何故なら・・・起きあがったカカシの上半身もまた、ハダカで。
しかも、髪をかきあげる仕草が強烈に男の色気をかもし出している。
秀麗な顔、完璧なバランスの鍛えあげられた肉体―――――まさに、パ―フェクト。
同じ男でも目を奪われずにはいられないほどだ。
―――イルカは思わず、呆然と呟く。
「あ、アンタ・・・何で朝っぱらからそんなに色気垂れ流してるんですかっ!?」
「は?垂れ流しって・・・・・アナタねぇ」
「さっさと隠してください!!こんなもん朝っぱらから晒しちゃいけませんよ!?爽やかな朝日の下に相応しくありません!!」
「・・・人をワイセツブツのようにいわないでくださーいよ。それを言うならアナタの方でしょ?」
朝っぱらそんな格好見せつけられたら―――止まんなくなるでしょ?
「は?」
「それとも、誘ってるの?」
カカシの言葉に戸惑っているとキラキラの銀髪が近づいてきた・・・と思っていたら、押し倒された。
そこで遅れ馳せながら、やっと事態が飲みこめてきた。
昨日あのまま料亭に泊まって。
布団は一つで。
でもって・・・・・・・・・・二人とも、ハダカで。
――――サアッっと一気に青ざめながら、恐る恐るカカシを見上げる。
「え、あの、は、はたけ上忍!!」
「・・・昨夜言ったでしょ?カカシって呼んで?」
ちゅ・・・と、頬にキスされてカアッと頭に血が上る。
そのまま今度は唇に向かって降りてきたカカシの唇に、パニック。
咄嗟に腕を突っ張ってその唇が降りてくるのを阻止しながら、イルカは叫んだ。
「ま、待ってくださいっ!!」
「・・・なに?」
「そのっ、昨夜俺達って、まさか・・・・・・・?」
伺う様に見上げると、カカシはきょとんとイルカを見下ろして。
そして、先程より更に色気を滴らせた視線を寄越してから、にこりと笑った。
「・・・昨夜は素敵でしたよ、イルカせんせv」
―――頭の中が、ホワイトアウト。
『やっぱり、俺・・・・・・・・・やっちまった?』
先ほどからの立て続けの衝撃に、頭の中がチカチカする。
『とうちゃん、かあちゃん――――ごめん』
俺、婿にもいけない体になっちゃった上に、今度は嫁にもいけない体になりました―――
―――今度は、ブラックアウト。
ぐらりと、体が揺れる・・・・
「ちょ・・・イルカ先生!?」
上忍の焦った声を聞きながら、気が遠くなっていって。
とうとう、イルカの意識は闇に溶けて途切れたのだった――――――――