「はぁ〜〜〜」

イルカは、大きなため息を吐きながら、アカデミーに向かって歩いていた。
忍であり、元来・元気者。
いつもならきびきびとした歩みなのだが、今日の足取りはとてつもなく、重い。
その原因は、先程まで一緒にいた銀髪の上忍のせいに他ならない。


「なんでこんな事に・・・・・」


重い足取りで、時々ヨロヨロとよろけつつ、イルカはそれでもアカデミーを目指した。




・ この腕に花を ・ <9 >




昨日、はたけカカシに誘われて飲みに行った。


彼は交際の申しこみの返事を聞くため。
自分は、交際の申しこみを断るため。
・・・確かにやり辛いミッションではあったが、なんとかなると思っていた。
なぜなら、自分には切り札があったから。
これさえ言えば、さっさとこの話はなかったものになると思いつつ、彼の元に向かったのだが―――

店構えから、驚かされ。
気力を振り絞って中に入ると、切り札を出す前に酔わされ。
気がついたときには、裸で一つ布団に寝ていた。
真っ青になったものの、それは未遂とわかって、ホッとしたが―――
その後に、もっと青くなる事態が待っていた。


切り札が、効かない。
いや、効かないというか・・・信じてもらえない。


自分が男だと告白してみたが、体が完全な女体なので全く信じてもらえず・・・反対に交際を断るために嘘を吐いたと思われる始末。
それほどまでに自分を受け入れるのが嫌なのか?と、自分を卑下しだした彼を慰めていたら、『嫌悪がないなら付き合って』とまた振り出しに逆戻り―――

あの後・・・逃げ道を塞がれたことに焦りつつ、気力を振り絞って自分が男だということをもう一度持ち出そうとしたが―――悲しい顔をされ『もう、その話は聞きたくありません』と話を振ることさえ拒否されてしまった。
そして、最後には『おためし・・・って感じで構いませんから・・・・・ね?』と、半ば強引に付き合いを了承されられた。


『た、ただし!俺が了承しない限り、体の関係はナシですからね!?』


せめて!と、それだけは釘を刺したが。
内心では『とんでもないことになった』と、滝のような冷や汗を掻いていた。
彼はそれでも嬉しそうに頷いて了承し『このまま、ここで朝飯食っていきましょ』と、大変魅力的な誘い(だって、高級料亭の朝飯だよ!?多分、この先二度と食べられない!)を寄越したが・・・
とにかくあの場を逃げ出したいと言う気持ちが勝って、『アカデミーに行かなければならないので』と、クリーニング済みの忍服が届いたと同時に、に逃げ出してきた。


「ああ、これからどうすれば・・・・・」


そう暗い声で呟いて顔を上げると、何時の間にかアカデミーの前に着いていたのに気付いた。

「とにかく仕事するか・・・」

カカシから逃げ出したくてアカデミーに向かったが、逃げ出す口実だけではなくて、本当に仕事が詰まっている。
先日卒業生を送り出したので、新学期が始まるまで授業はない。
だが、今年度の後片付けと、次年度の準備がある。
子供達は春休みとはいえ、教師は結構忙しかったりするのだ。

「あの人のことは、後で考えよう」

空転している思考にそう区切りをつけ、アカデミーの校門をくぐろうとしたイルカだったが。


『まて・・・・・アカデミーはマズイんじゃないか!?』


昨日、きっぱり『断る』と言ったんだった!!
―――その事を思い出して、イルカは固まった。
女性教諭達とモテないトリオの仲間に、『断る』と約束して、『必ず』と念を押された・・・

『タナゴとウグイはオレだけ恋人が出来るのが寂しいってだけだろうから、いいとして・・・他の先生方は・・・」

――――ショック、だよなぁ。
・・・実はタナゴとウグイの方がショックは大きいかも知れないのだが(笑)、イルカはそう思いつつ頭を垂れた。

「なんて言おう・・・」

一応付き合う事になってしまいましたが、おためし期間なので安心してください?
どうせものめずらしいだけですよ、すぐに飽きると思いますから?
体の関係はナシってことにしましたから、そのうちあっちから断ってきますよ?
―――色々といい訳を考えて・・・・・・・・・・イルカは、ガックリと肩を落とした。

「こんなのダメだよな・・・ここは素直に謝るしかない・・・か」

それに至るまで色々経緯があったのだが・・・自分は確かに約束を破ったのだ。
彼女達を裏切ってしまったことには変わりないない。素直に謝るべきだ。
自分は子供達にいつも言ってきかせているじゃないか『嘘はダメだ。正直に謝りなさい』って。
・・・・・けど。


『・・・・・・・・こわい(激汗)』


あの女性教諭達の盛りあがり方を思い出して、冷や汗がこめかみを伝う。
『やっぱり付き合う事になりました』などと言ったら・・・いったい、どうなるか。
想像してから、イルカはゾッと体を震わせた。

「きょ、今日のところはとりあえず帰ろうか・・・・・な」

今日は今朝からショック続きだったし、アカデミーも各自の仕事だから後でその分頑張ればいい。
『今日だけ、休もう。そうしよう!』
そう思いつつ、くるりと体を反転させたイルカだったが。

「ああ、イルカ先生。おはようございます」
「こ、校長先生」
「ここで会うのは珍しいですね。・・・じゃあ、一緒にいきましょうか?」

にこりと笑う校長を呆然と見つめた後。
イルカはただ一言、「はい・・・」と弱弱しい返事を返したのだった――



******



「では、イルカ先生。来年度の準備宜しくお願いいたしますね」


にこやかに笑う校長に見送られながら、イルカは職員室のドアの前に立った。
・・・青い顔をして。

『どうしよう・・・』

今からでも逃げるべきか・・・?
いや、そんなのやはり一時凌ぎに過ぎない。



どうせ、いつかはバレる事だ―――



心を決めて、両頬をパンと叩いて、ドアを見つめる。

『しっかりしろ、イルカ!男だろ!?』

いや、アンタ女だから。
・・・そうツッコミが入りそうな科白を呟いて、ガラリと戸を開ける。

「おはようございます!」

大きな声を挨拶をして、前を見て。
そして――――固まった。



「おはよう、イルカ先生。待ってたわ。」



目の前には、『待ち構えてました』といった様子で女性教諭達がずらりと並んでいた。
―――ごくりと、唾を飲みこむ。




どうやら・・・『いつか』どころか、すでにバレバレなようだった――――






この話、イルカ先生苦労物語になってきた;


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