今まで生きてきた中で、三度の絶望を味わった。

一度目は、母さんを失った時。
二度目は、母さんを取り戻そうとして弟の肉体を失った時。
三度目は、全てを取り戻したと思った矢先に外界から切り離された時。

一度目は、錬金術で母さんを取り戻せるかもしれないという思いが、何とかオレを立ち上がらせた。
二度目は、アイツが示してくれた路を進めば弟を取り戻せるかもしれないと、また立ちあがった。

そして三度目・・・・・・
先の見えない路の果てを思い、糸が切れそうになるのを何度も踏みとどまりながら
一つの言葉が、崩れそうな体を支えてくれていた。
彼が言ったあの言葉・・・・・・

―――――まっていろ――――――――

約束通り、彼は自由を取り戻してくれた。
出口が見えなかった路の先に焔を灯して、自分を導いてくれた。
そして今、崩れそうだった体を、抱きとめてくれている。

暖かい体温
鼓動

全てが、まるで夢のように優しい

・・・禁忌を犯したオレは多分神様に嫌われている
憎まれているといった方が正しいかもしれない
それでも、今―――オレはあなたに感謝したいよ。


―――この人に逢わせてくれてありがとうございます。
         ロイ・マスタングにめぐり逢わせてくれて、本当にありがとう―――




・  路の果て  ・ <6>




エドは、未だロイの胸に顔を埋めながら、しがみ付いていた。
涙は後から後からあふれ出て、全然止まってくれない・・・・・
きっと長年せき止めていた栓が、抜けてしまったのだ。
とめどなく流れ出ている涙は、青い軍服に盛大にシミを作っているだろう。
それでも、自分を抱きとめているこの男は、怒る事もなく、
涙を止めるようにとも、言わない。
ただ、黙ってオレを抱きしめながら、好きなだけ涙を流させてくれている。

ああ、そうだった・・・・・この男は優しい人だった。

嫌味の応酬をしたりしていても
奥の方が・・・根底が優しいのを、いつも感じていた
そして、オレは・・・・・・・そんなコイツに恋をしたんだった――――

――――好き――――

あれから3年半経っても、変わらない恋心
いや、ますます好きになっている
好きって言葉じゃ足りないくらい

エドは、ロイの背中にまわしていた手の指に力をいれて、軍服を握り締めた。
そして、涙に濡れた顔をようやく上げた。

「たい・・・・さ」

情けないことに、震える声。
いや・・・・・・大泣きしているのを見られているので、今更だ。
そう自分に言い訳をしながら、彼を見上げる。

「・・・・・エドワード」

ロイも、少し腕を緩めてこちらを見た
名前を呼んだ途端、何か・・・・・苦しそうな?
どこか耐えるような表情で、自分を見つめてくる。
そして、その顔がゆっくりと自分に近づいてきた―――――

ゆっくりと降りてくる顔をみながら
『この光景は、以前どこかで見た気がする・・・・・』
そう、ぼんやりと考える。
『いつ、だっけ・・・・・・・・?』
鼻先が触れそうなほど近づいて―――――思い出した
『ああ、思い出した。確か投獄される前、別れ間際にこれと同じことが・・・・・』

えっ?!
ま、まてっ!!
あの時って・・・・・・・オレが・・・・・・・・大佐に・・・キスした時っ・・・・!?


ギギィ・・・


エドが猛烈に心中で慌てだした時、後から物音が聞こえた。
ロイが動きを止めエドの肩越しに音の元へ視線を向ける。
エドも、首を回して後方を見た。

大総統執務室は、廊下との間に秘書の詰めている秘書室を挟んでいる。
2人はその秘書室の中で抱き合っている為、そこから逃れたいと思う者は
どうしても廊下への扉を開けなければならない。
視線の先に居た男は、背をを丸めてドアのノブに手をかけたまま、気まずそうに視線を泳がせた。

「いや〜、あの・・・・申し訳ない」

お邪魔そうだったから、静かに退室しようとしたんですけど・・・とか
このドア、蝶番に少し油をさした方がいいですよ・・・とか、
視線を明後日の方向に向けながらなにやらブツブツと言い訳をしている。

それを見ながら、自分の体勢を思い出して
エドは勢いよくロイの腕の中から逃げ出した。
ロイはそれを名残惜しげに見送ったあと、ハワードに声をかけた。

「気にするな。・・・・・君には、本当に苦労をかけたな」

ロイの言葉に、ハワードは表情を元に戻して姿勢を正した。

「いえ・・・・・オレ、お役に立てました?」
「ああ・・・・・言葉に表せないほど、感謝しているよ」
「少しは恩が返せたようで、オレも嬉しいですよ」
「返してあまりあるよ・・・・・釣りの分は後日支払わせてもらう」
「はは、ありがとうございます」

どうやら二人は初対面ではないらしい
というか、オレのそばにハワードを寄越したのが、大佐?!
エドは、混乱しながら二人のやり取りに、割って入った。

「なぁ、オレ・・・何がなんだかわからないんだけど・・・・」
「まだ話してないのか?」
「あなたが直接説明した方がいいかと思いまして」
「ふむ、じゃあ・・・もう一人の功労者も呼んで、説明しようか」
「もう一人・・・・・・?」

エドの質問には答えず、ロイは秘書の机の上にある電話で、なにやら指示をだした。
そして、エドに向き直る。

「鋼の、こちらにおいで。ハワードも一緒にきてくれ」

ロイは二人を促して、執務室に入った。
エドは初めて入った大総統執務室を、落ち着かない様子できょろきょろと見回す。
個人の執務室としては破格の広さ。
しかも内装や家具、置いてある小物までなんだか重厚に見える。
ロイは革張りのソファーに座り、2人に座るよう促した。

「かけたまえ」
「う・・・・うん」
「失礼します」

エドは何となく居心地が悪そうに上質なソファーに座り、向かいに座るロイを見た。
彼を見てみても、別れる前と何も変わっていない気がする。
相変わらずちょっと童顔のまま。
自分は結構面変わりした自覚があるだけに、不思議な気がする。
でも、確実に彼も立場は変わったようだ。

「なぁ・・・・・・アンタなんでここにいるの?」
「ここに座る理由は一つだと思うが?」
「やっぱ・・・・・もしかして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大総統閣下?」
「――君に閣下などと呼ばれると、なにやらこそばゆいね」
「・・・・・しんじらんねー。たった3年半だぜ?どんな裏技使ったんだよ・・・・・」

呆然としてそうエドが呟いた時、ノックの音が聞こえた。

「おや、君の言う所の『裏技』の一人が来たようだよ?」
「へ?」

ロイが入室を許可すると、一人の軍人が入ってきた。
こちらに近づいて、ロイの前に止まって敬礼する。
エドはその姿をまじまじと見つめて、驚いたように目を見開いた。

「あ、あんた・・・・・なんで・・・・・・?」

男はエドの方に視線を向け、薄く笑った。


今回であっさり終わろうかと思いましたが・・・・・
やはり、ハワードのこととか、何となく張っていた伏線とか(笑)なんとかしないといけないのでもう少し書きます!
もうちょっとだけお付きあいください――――


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