『ど、どうしたら・・・・・・・どんな顔したらいいんだよっ?!』

咄嗟に背を向けてロイの視線から逃れたものの、それは不自然だろうと後悔する。
だが、まともに顔が見れないんだから、どうしようもない。

さっきはあふれる思いに自然に抱きついてしまったが・・・・・・
抱きしめられて、こちらも抱きついて、胸の中で大泣きして―――――
思い出せば出すほど、恥ずかしい!!恥ずかしすぎる!!!

しかも、別れる前には大告白大会を繰り広げてしまっているのだ。
告白して・・・・・・キス(しかも自分から)して。
それも思い出して、またボボッと体温が上がる。

『だ、だって・・・・・もう会えないと思ったから』
だから、大胆な行動に出てしまったのだ。
心の中で言い訳してみるものの、相手に自分の気持ちを知られてしまったという事実に変わりない。
エドは、上がる体温に思考を奪われて、パニックに陥りかけた。
『ああ、もう〜〜〜〜!!何を話せばいいんだよ?!』
混乱する頭で、辺りを見回した時・・・・・・ふと、大きな大総統用の執務机が目に入った。

『そういえば・・・・・アレ、今でも入ってるのかな?』




・  路の果て  ・ <9>




「鋼の」

突然かけられた声に、自分の考えに入り込んでいたエドは飛び上がりそうになった。
慌てて振り向くと、ロイが自分のすぐ後まで来ていた。

『うわっ!?いつの間に〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!って・・・・・・あれ??』

自分を見下ろす瞳になにやら不穏な色を見て・・・・・・エドは動きを止めた。
なにか・・・・・・怒ってる??

「たい・・・・・・大総統?」
「今、何を考えていた?」
「えっ・・・・?」
「誰のことを考えていた?」

ロイの問いの意図が分からず、エドは首を傾げながら、正直に話した。

「?・・・・・・・今、考えてたのはあのバカでかい机のことだけど?」
「机?」

不機嫌そうな顔をしていたロイは、エドの言葉にますます顔を顰めた。

「そう。ちょっと引き出し、開けていい?」
「引き出し??・・・・・まぁ、特に今は重要な物は入ってないからいいが・・・・・」

ロイの返事を待ちきれないように、足早に机に近づく。
そして勢いよく一番下の引出しを開けた。

「あれ?」

目当ての物が見つからず、沢山付いている引出しをくまなく開けては閉じる。
それでも探し物は見つからず、エドは首を傾げた。

「ない・・・・・」
「・・・・・・いったい、何を探してるんだね、君は?」

訝しそうに近づいて来て問い掛けるロイに、向き直る。

「甘いお菓子が入ってない」
「・・・・・・・・ああ、それか」
「大総統になったばっかりだから、買い置きしてねーの?
それとも・・・・・やっぱり大総統が菓子持ち歩いてるのって、カッコ悪いと思った?」
「いや・・・・・・君と離れてから、甘い菓子を食べなくなったんだ」
「えっ?!あんたが??」

あれほど甘味中毒だった男が甘い物を絶ったなど・・・・・にわかには信じられない。

「なんで?・・・あっ、もしかして虫歯?!それとも・・・・・本当に糖尿になっちゃった?!」
「・・・・・・・君ね」

食べすぎで、健康を害してドクターストップでも食らったのか?
真剣に、そして心配そうに問い掛けるエドに、ロイはガックリと肩を落とした。
何でこの場面でこんな色気のない会話になるんだ・・・心中でそうぼやきながらエドを見つめた。

「いや、違うよ・・・甘い菓子を美味しいと感じられなくなってしまってね」

食べるのを止められたわけじゃなくて、食べたくなくなってしまったんだ。
そう答えるロイに、エドは驚きつつ更に言い募ろうと口を開きかけた。
が、開きかけた口にロイの長い指が押し当てられた。
柔らかい唇に、自分の人差し指を当てて黙らせたロイは、真剣な表情で口を開いた。

「そんなことより、君に聞きたい事がある」



******



先ほどとうって変わっての真剣な表情に、エドは開きかけた口を閉じた。
唇に触れられたことで心臓が飛び跳ねたが、騒ぎ立てる雰囲気ではないのを感じて、ぐっと抑える。
エドが黙ったのを確認して、ロイは指を離し姿勢を元に戻した。

「・・・・・何?」
「君は――――ハワードの事が好きなのか?」
「はっ?」
「今、抱きついていただろう・・・・・」
「へ?・・・ああ、感謝の気持ちを伝えたいと思ったら、自然に―――。・・・妙な意味はねーよ」
「本当に?」

念を押して聞いてくるロイに少々カチンとくる。

「言っとくけど、オレはホイホイと好きな相手を変えるほど器用でも、尻軽でもねーよ!!」

アンタじゃあるまいし、とっかえひっかえなんてできるわけが・・・・・
そうブツブツと呟いて、ハタ、と気付いて口を閉じる。

『ちょっと待て、オレ!これじゃあ『今でも好きです』って告白しちゃったようなもんなんじゃ?』

おそるおそるロイの顔を覗き見ると・・・・・
驚いたような顔で此方を見ている。
それが、目があった途端蕩けるように表情が緩んで、ふわりと微笑んだ。

ボン!!

そんな音がして、とうとう自分が爆発してしまったような錯覚に陥る。
もちろん音もしていないし、爆発なんてするわけがないのだが・・・・
とにかく熱が上がりすぎておかしくなってしまったのは、確かなようだ。
それでも何とか足を動かして、彼に背を向ける。

『あの顔は、反則だろ・・・・・・』

エドが真っ赤な顔で瞳を潤ませながら、心の中で猛抗議していると、
後からふわっと抱きしめられた。

「それは・・・・・・あの時の君の告白は、まだ有効だと考えていいのかな?」

耳元で囁かれる声に、エドの体が震える。
そのまま硬直したように固まってしまった彼の緊張を解すように、ロイはエドの髪を撫でた。

「答えてくれないか?」

金色の頭に優しく口付ける。

「エドワード・・・」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ///」

抱きすくめられて、甘い声で囁かれ、髪を撫でられ口付けられて―――
そこまでは何とか耐えたエドだったが、
二つ銘ではなく、名前で呼ばれ・・・・・・・降参するしかなかった。

「・・・・そうだよっ!今でもアンタのことが好きなんだ!!」
「エドワード」
「ずっと・・・・・・・好き・・・・・・・・だよ

勢いをつけて怒鳴るように言った言葉は、だんだん小さくなり・・・最後は消えそうなほど小声になる。
俯いてしまった彼の体を自分の方に向き直らせて、優しく顔を上向かせる。
戸惑いながらも、泣きそうな顔で見つめてくる金色の瞳を覗き込んだ。


「君が、好きだ」


潤んだ瞳が大きく見開かれる。

「君がまだ私を好きでいてくれて、嬉しいよ」
「大総統・・・・・」

華奢な体を、抱きしめる。

「もしかして、君は昔の恋心など棄ててしまっているかもしれないと・・・不安だった」
「そんっ・・・」
「それでもいいと思っていた。君さえ取り戻せたら・・・後は自由に生きてくれればいいと」

だが・・・・・甘い考えだったと思い知る。

「君がハワードに抱きついた時、体中の血が沸騰するかと思った・・・・・」
「え・・・・」
「幸せでいてくれさえすればいいと思っていた筈なのに・・・・・・・
他の者に触れるのさえ我慢できないほど、君を欲する自分を自覚されられたよ」

ゆっくりと抱きしめ、腕に力を込める。

「本当に、君がまだ私を好きでいてくれてよかった・・・・・もう、とても手放せそうにない」

ロイは目を閉じて、エドの金糸に顔をうめた。



『な、なんか・・・・・ものすごいこと、言われてる???』

耳元で、熱く囁かれる言葉に、エドは呆然とした。
これは、現実の事なのか?・・・・・都合のよい夢を見ているのではないだろうか??
それでも、痛いくらいに抱きしめてくる熱い腕に、これが幻ではないと思い知らされる。
嬉しい・・・・・・はずなんだけど、まだ心が追いつかないらしく。

エドは只々、体をロイに預けたまま呆然としていた。


す、すみません・・・次こそ終わりとか言っておきながら・・・続く。(オイ)
構成上、ページを改めたかったのと、どうせなら『]』で終わろうかと(笑)
次回こそ絶対終わります!!(←嘘ばっかついてるので、信じてもらえなさそうだ・・・汗)


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