アイツのくれた言葉が、体の中に染み込んでいく。
こちらから言おうとしたら遮られて
やはり、もう遅いのかと・・・・・・涙が出そうだった。
だが、止めたのはどうやら自分から言いたかっただけなようで
相変わらず大人のくせに我侭な奴・・・・・と、少し呆れた。
でも、嬉しい。
アイツに愛されていると知った時と同じように・・・・・体中に歓喜が湧く。
いや、目の前で求められている分、あの時より大きいだろう。
だけど、オレってやっぱり鈍いのかなぁ?
あの時より激しい歓喜な筈なのに、じわじわと染み込んでいくような感覚だなんて?
それとも嬉しすぎて、どこかが麻痺してしまったんだろうか?
こいつの視線が悪いのかもしれない・・・・・痺れるような甘さを含んだ漆黒の視線が。
それでも、どんどん染み込んでいって、オレを満たしていく。
言葉が体に少しづつ染み込んでいくたびに、
ぽっぽっと、染み込んだ部分があたたかくなるような、そんな幸福感。
―――――ああ、やっぱりオレはこいつが好きなんだ。
そう、思った。
そして―――――自分でもビックリするほど、素直な気持ちで微笑んでいた。
『約束』・・・・・・17
エドがふわりと笑ったのを見て、ロイの顔にも笑みが浮かぶ。
頬を覆っていた両手を滑らせて彼の背中に回し、軽く引き寄せる。
「今度はちゃんと伝わったかい?」
「ああ」
「じゃあ、返事を聞かせてもらえるかな?」
「へん・・・じ・・・・・?」
「そう。――――ずっと、私の側にいてくれるかい?」
そこまで言われて口を開きかけてから、エドは言葉に詰まった。
答えはイエスに決まっているけれど・・・・・・・・
なんて言って了承すればいいのか、言葉が浮かばない。
女の人なら、こんな時はしおらしく『はい』というのかもしれないが、
―――――――――――――俺がやったら気持ち悪い気がするし。
でも、照れくさいからといって『しかたねぇな』というのは、あんまりにも可愛げがない。
いやっ!可愛いく思われたいなんて気色悪い事思ってるわけじゃねーけどっ!!
でも・・・・・・このまえ、あんな風にすれ違った後だし・・・・二の舞は避けたい。
俺が言っても可笑しくなくて、ちゃんと了承を伝える言葉って・・・・・なんだろう?
「・・・・・・エドワード?」
こちらの戸惑いが伝わったようで、彼は訝しげに覗きこんでくる。
先ほどは彼も嬉しそうな顔だったのに、その顔が段々心配げに歪められて・・・・
『ダメだ!!このままじゃ、また誤解される!!』と慌てる。
焦ったエドは咄嗟にロイに抱きついた。
『どうしよう・・・・・・』
抱きついたもののどうしていいやら分からずに、
赤くなっていく顔を彼の胸に埋めた時・・・・・・弟の言葉を思い出した。
『あれで・・・・・いいかなぁ?』
恐る恐る顔を上げて彼を見つめる。
目があって――――――ドキドキと鼓動が早くなる。
『ちきしょう・・・・・コイツの視線って、やっぱり凶悪だ』
こちらを見つめている漆黒の瞳、長い睫毛・・・・・・・端整な顔立ち。
別に顔で好きになったわけではないけれど、それは思わず見とれてしまうほどで。
そんな男に、熱い視線を送られて平気でいられる筈がない!
好きだと自覚してしまったから、余計に。
『うん。・・・小細工しないで、ストレートに自分の気持ちを言った方がいいよな?』
意を決して、エドは唇をきゅっと噛む。
――――顔が熱い、きっと真っ赤だ。
恥ずかしくて、なんだか泣きそうになる。
『・・・・・・結局どんな言葉を選んでも、恥ずかしいには変わらないんだなぁ?』
そう思いつつ、軽く息を吸ってから、口を開いた。
「ロイ」
ファーストネームを呼んでみたら、驚いたような顔
「ロイ・・・・・・・愛してる。オレもアンタの側にいたいよ」
言い終わって、もう一度顔を伏せて反応を待つ。
『あれ?』
落ちる沈黙。
返って来ない、反応。
『や、やっぱり可笑しかったのかな??それとも年上に呼び捨てってのがマズかったとか?』
さっき弟に言ったら、『それは僕じゃなく彼に言え』みたいに返されたので、まんま名前を入れ替えて。
それに、素直に『側にいたい』と言う科白をプラスして言ってみた了承の言葉。
なのに、相手からは反応なし。
『もしや、やっぱりオレが言うとキモチワルイとか?・・・それにしたって、何とか言えよ!!』
少々ムカつきつつ顔を上げると―――――
呆然と、固まる男。
「准将?」
驚きつつ、今度はいつもどうり階級で呼ぶと。
彼は、自分の顔を片手で覆いつつ、顔を背けた。
彼の顔にはしる、朱。
・・・・・・言っとくが、この前みたいに夕刻じゃない。
もちろん夕焼けなど出ていなくて―――――――つまり、それは。
なんだかこっちまで恥ずかしくなって、また顔が赤くなっていく。
そんなオレに長い指の間からチラリと視線を寄越して、
彼は顔を覆っていた手を外し、伸びた手が今度はオレをぎゅっときつく抱きしめた。
抱きしめて、人の肩に頭を乗っけた男が・・・・・ため息ともなんともつかない息を吐いて言った。
「君って、凶悪だ」
さっきロイに対して思っていた言葉を、そのまま返されてしまった。
「馬鹿言ってんな!それはオレじゃなくアンタの方!」
「自覚がない分、君の方がたちが悪い」
肩から顔を上げたロイはクスリと笑い、もう一度エドと視線を合わせた。
「了承してくれて嬉しいよ」
「っ!・・・・・・うん///」
「―――――誓いのキスを、もらっていいかい?」
あの時と、同じ科白。
前は言うが早いか、答える前に奪われてしまったが、
今回はこちらの答えをじっと待っている。
が。
今回こそ別に待たなくてもいいだろ〜〜〜〜!!と、怒鳴りたい。
だって、そんな蕩けそうな顔で言われて、嫌なんて言えるか!?
しかも『嫌じゃない』って・・・・・アンタ、わかってるんだろっ///
やっぱりコイツって―――――底意地が悪い。
『これ以上恥ずかしい科白を言わせられて堪るか!!』
エドはそう心の中でそう叫びつつ―――――返事をしないで黙って目を閉じる。
目を閉じていても、アイツが密やかに微笑んだのが分かった。
そして、唇に柔らかい感触が落とされた―――――