返事を・・・・・と問うと、言葉に詰まった彼。



『思いは通じ合っている筈なのに何故返事に詰まるのだ?』と訝しく思い覗き込む。
すると、彼は自らこちらに身を投げ出すように抱きついてきた。
ぎゅっと抱きついて顔を押し付けてくるエドワードは、

――――――――――――凶悪に、可愛い。

こっちも抱き返して唇を奪ってしまおうかと思ったが、
なんだか思いつめたような顔で見上げてくるので、じっと我慢して次の言葉を待つ、と。

真っ赤な顔で
目を潤ませて
すがるようにこちらを見つめて
薄桃色の唇が言葉を形作る―――――――――

「ロイ」

え?

「ロイ・・・・・・・愛してる。オレもアンタの側にいたいよ」



幻聴かと、疑った。
聞き違いではないと理解した途端、体中の血が沸騰するような感覚に陥る。


――――――もう・・・・どうしてやろうか!?・・・と、思った。



『約束』・・・・・・18



「ん・・・ぅ」

静まり返った室内に、くぐもった声だけが響く。

「ん・・・ふっ・・・・ん、んん〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

それが、段々苦しげに変わって、
ポカポカと胸を叩かれて・・・・・・・仕方なくロイは唇を離した。

「はあっ、はぁ・・・・・・・・」
「大丈夫かい?」
「は・・・・・だいじょうぶ・・・はぁ・・・かいじゃねー・・・だろ、この・・・・・・・・・・・・・・エロ准将!!」

抗議の声をあげてはいるものの、酸欠で力が入らないらしく・・・・・・
こちらの腕に体を預けたまま、金の瞳が睨みつけてくる。
だが、そんな仕草は逆効果だと、まだ彼は知らない。
只今婚約したばかりの婚約者の可愛らしい姿に、ロイはご満悦で彼の髪にキスを落とした。

「私たちは今めでたく婚約したんだ、階級でなく名前で呼んでくれたまえよ?」


さっきみたいに。


耳元で息を吹き込むように囁くと、腕の中でビクリと体を震わせて、また顔を真っ赤に染め上げる。
白い肌が染め上がる様は、艶かしくて―――――。
ロイは堪らず、また抱きしめる腕に力を込め、彼の髪に顔を埋めた。

「ちょ・・・・苦しいって!!」
「・・・・・・これでも手加減しているのだが?」
「どこがっ!!」
「さっきから愛し過ぎて抱き殺しそうなのを必死で押えているんだよ」
「っ!! バ、バカなことばっか言ってないで、ちょっと離せって!」
「嫌だ。・・・・君、今誓ったばかりじゃないか?生涯私の側にいると」
「それはこういう意味じゃねーだろうがっ!!
だいたい、ち、誓いのキスってのは、こんなのじゃねーだろ!?」

エドは抗議の声と共に腕を振り回した。



******



『誓いのキスをもらっていいかい?』

彼の言葉に瞳を閉じると、落とされる柔らかい唇。
以前一度だけ贈られたものと、同じ感触。
只、前よりも熱い・・・・・・・
唇同士を合わせただけのキスなのに――――――蕩けそうに熱くて。
意識が飛びそうになった時、静かにそれは離れた。

名残惜しいような、ホッとしたような・・・・・・複雑な気分の中。
『ああ、今・・・・・こいつと誓い合ったんだな』と、痺れた頭のままでぼんやりと思った。
リゼンブールで、近所のお兄さんの結婚式に参列した時、
2人が交わしていた誓いのキスは、確かにこんな感じだった―――
あれより長い気がしたのは、ぼーっとしていたせいだろう。
そう思いつつ、ロイを見上げると・・・・・・

「んんっ!?」

離れたばかりの唇が、またこちらのそれを塞いできた。
終わったとばかり思っていたエドは、不意打ちにパニック状態。
抗議の声を出す隙間も与えられず、始まる猛攻撃。
経験もないのに、心の準備もないまま追い上げられて・・・もう、虫の息。
真っ白の頭に、熱いという感覚だけが駆け巡る。
蕩けそうになりながらも・・・・・・・息が苦しくて、
彼の胸を震える手で叩いたら、やっと唇が離れて息が出来た。

息苦しくて酸欠状態で・・・・・・・でも、甘い甘いキスだった。



******



『初心者なんだから、手加減しろよっ///』

そう思いつつ睨み付けると、ロイは堪えた風もなくニヤリと笑った。

「すまないね。我慢できなかった」
「しろよ!」
「――――というか、もうするつもりもないし?」
「げ・・・・・」
「当り前じゃないか?今まで散々待ったんだ。いくら忍耐強い私でもこれ以上は無理だよ?」

そう言って、もう一度ロイはチュッと音を立ててエドの唇を吸った。

「だって、もう私たちは婚約者同士だろう?」
「こ、婚!?・・・・・まあ、そう・・・かなぁ」
「そうだよ♪・・・じゃ、そういうことで」

言うが早いか、抱き上げられてしまった。
―――――――しかも、お姫様だっこである。

「のわっ!?な、なんだ?いきなりなにすんだ、この馬鹿!!」
「言っただろう?」
「だから、何が!?」
「我慢、出来ないと」
「!!」

たっぷりと色気を含んだ視線で見つめられ、さすがの鈍いエドもどういう状況か察したらしい。
顔面蒼白で、ダラダラと冷や汗を垂らすエドのこめかみに、ロイが優しく口付ける。

「安心したまえ、『ここで』なんて言わないから・・・・・家に帰ろう?」
「い、家?」
「そう、私の・・・・・いや、これからは君の家でもある」


君の家でもある――――


その言葉に、温かいものがこみ上げてくる。
根無し草だったオレに帰る家が出来たんだ・・・・・そう思ったらなんだか幸せで。
幸せ過ぎて・・・・・・涙が出そうになった。

「エド?」

抱き上げられたまま、肩口に顔を押し付けてくるエドの顔を覗き込む。
涙を耐えてる震えが伝わってきたが、そこに悲しみではなくて温かいものを感じて―――
ロイは微笑むと、彼の髪にもう一度唇を寄せた。

「少し落ち着いたら、もう少し広い家に引っ越すのもいいな・・・・・・
大きな部屋を一つ書庫にして、壁一面に本棚を造らせて・・・そこを本でいっぱいにしよう」
「・・・・・・・」
「アルフォンスの部屋も用意するから、彼も一緒に暮らせばいい。
ああ、今度は世話をする人も家もあるのだから、猫でも犬でも好きなのを飼いなさい」
「准将・・・・・・・」
「ロイ、だろう?」
「ロイ」
「なんだね、エド?」
「好き」
「!」

柔らかく微笑んでこちらを見つめるエドに、ロイは目を丸くして。
次に『まったく君は・・・』と、小さく呟いて・・・少々顔を赤くしてため息を吐いた。

「これ以上煽ってくれるな・・・・・・・家までもたなくなるじゃないか?」


苦笑し、理性と格闘しつつも・・・・・・嬉しさと愛しさを込めて、もう一度エドにキスをした。




何度引っ越そうと
どこに移り住もうと

――――――――これからは、私が君の家。



『約束・18』終わり・・・19に続く



バカップルです・・・果てしなくバカップルになりそうです・・・・・;
攻めロイ本領発揮!!なはずが、最後またエドにやられてしまいました(笑)


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