夕日がブラインドから差し込む夕暮れ時の執務室。
薄暗く、そして夕日がうす赤く室内を照らしている。
そんな中、あの男は突然切り出した――――
「君、目的を果たし終えたら、どうする?」
「は?なんだよ、やぶからぼうに・・・・・・・」
「答えて欲しい」
「・・・とりあえず、国家資格は返上してリゼンブールに帰る・・・かな」
「ずっと、リゼンブールに?」
「う〜ん、とりあえず目的ないしな・・・・・故郷にいるのが一番いい気がするよ。
・・・・・・そしたらアンタの嫌味な顔、もう見ることもないな?」
からかうようにそう言ってみると、なんだか大佐が息を呑んだ気がした。
訝しく思いつつ、その顔を見つめる。
少しの沈黙の後、ロイは口を開いた。
「私は――――君と繋がりがなくなるのは、寂しいな」
「は?」
「エドワード」
ドキリ、とした。何で・・・いつもは呼ばないファーストネームなんかで呼ぶんだろう?
真剣な表情で、漆黒の男は告げる。
「目的を果たし終えたら、君の残りの人生を私にくれないか?」
『約束』・・・・・・5
――――この男は、何を言っているのだろう?
何故かバクバクと煩くなっていく心音を聞きながら、必至に考える。
目的を果たした後。
つまり、アルとオレの体を取り戻した後。
軍属でなくなるだろう自分。
軍属でなくなったら、この男との繋がりはなくなる。もう会う事もなくなるだろう。
それを、大佐は『寂しい』といった。
友人として・・・・・・会えなくなるのは寂しいということなのだろうか?
でも、会う事はなくなるだろうとは思うけど、会う気さえあれば、会えるはずだろう?
いや、違う―――
『残りの人生をくれ』
そうこの男は言った。
残りの人生・・・・・・大佐の傍らに居ろと?
何を求めて?
『いや、考えるまでもない・・・・・・か』
この男の欲するもの。追い求めている野望。
それは、大総統の椅子。
そのために、オレにも力を貸せ・・・・・と?
「・・・・・いつ元に戻れるかなんて、わかんないんだぜ?」
一年後か十年後か・・・・・・・・場合によっては一生果たされない事だって、有りうるのだ。
そんな不確かな未来を、今から約束してもしょうがないだろう?
そう言って肩を竦めて見せる。
だが、彼は真剣な表情で言い募った。
「それでも構わないよ、約束がほしい―――。
もちろん、私だって早く目的が達成されるよう、協力は惜しまないから」
『なるほど・・・・・』
そういう事か。
元に戻る為の資料・文献・エトセトラ。
約束をくれるなら、代価を用意するということか?
つまりは、等価交換。
目的を果たし終えたら、軍と手を切るつもりだった。
だが・・・・・・・オレは一刻も早くアルを元に戻したい―――――
オレの未来が、どれほどの価値のものかわからないけれど。
全て差し出しても、今のオレは元に戻る為の手がかりが欲しいんだ。
ならば、迷うことなど何もない。
しばしの沈黙の後、エドはロイを見つめた。
「いいぜ、約束するよ。―――――目的が達成されたら、その後はアンタの望むままに。」
「エドワード――――」
「ただし!早くその時が来て欲しいなら、アンタも気合入れて協力しろ」
「それは、もちろん」
そう言って嬉しそうにロイは笑った。
エドは内心の葛藤を振り払うように、不敵な笑みを返した。
その時は、内心の動揺のせいか・・・違和感を感じることが出来なかった。
目の前の男が幸せそうに微笑んだなんて・・・・・・・気づきもしなかった。
大佐の顔が少し赤い気がしたのは、夕日のせいだと思ってた―――――
『約束・5』終わり・・・6に続く
勘違いで、すれ違い(苦笑)