「准将――――少し、話がしたいんだけど」
2人の間にしばしの間、流れていた沈黙。
それを破って声をかけると、沈黙を続けていた男は一つ息を吐いたようだった。
「そうだな。・・・・・・私も話したいことがあるよ―――――沢山」
そう言って、彼は手招きをした。
それに誘われるように、彼の傍らに進む。
二人で、夕日に背を向けて、並んで手すりに背中を預けた。
『約束』・・・・・・6
「あのさ・・・・・なんていったらいいのかわかんねーけど・・・・ごめん」
エドは、気まずそうに視線を足元に落として、小さな声でそう言った。
「・・・・・・ああ」
「本当に、わかんなかったんだよ。プ、プロポーズ・・・だなんてさ」
「何故?」
「―――――だってさ、オレの中でアンタは『女好き』ってインプットされてんだよ。
誰が、男で子供のオレに求愛するだなんて思うんだよ?」
「私としては、散々口説いてきたつもりだったんだがね・・・・・・」
ロイは遠くのほうを見つめながら、疲れたようにそう言う。
「そりゃあさ、『好きだ』だのなんだのって言葉は、いっぱいもらった気がするよ。
・・・でもさ、からかってると思ったんだよ」
だって、アンタはオレにそんなこと言いつつ、デートとかしてたじゃねーか。
そう言うと、ロイは少し眉を跳ね上げた。
「・・・・いっとくが、君を好きだと自覚してから、女性とは付き合っていないぞ?」
「前回来た時、女と腕組んで歩いてたじゃねーか」
「前回・・・・?ああ、あれは将軍のお孫さんの案内を頼まれただけだ!」
「・・・それ以外だって、いっつも女には愛想振り撒いてるし、道歩くたびに女に手紙もらってたし?」
「声をかける女性を冷たくあしらって歩けとでも?手紙だって、別に私が頼んだわけじゃない!」
「その割には随分と嬉しそうだったじゃねーか!!・・・・・オレにも、見せびらかしてたし?」
冷たい視線を向けつつそう言うと、ロイはきまり悪そうに視線を逸らした。
「あれは・・・・・・君が、あんまりつれないから・・・・・・・」
「から?」
「――――――妬いてくれないかと、思って」
ロイの告白にエドは目を丸くした。
この、タラシの代名詞のような男が。
常に女から熱い視線を向けられる、伊達男が。
こんな子供に妬いて欲しくて、そんな子供じみた真似を―――――?
あっけにとられたエドだったが、段々おかしさがこみ上げてくる。
耐え切れずに、エドはプッと噴出した。
「――――――ばっか、じゃねぇ?」
「煩い!!・・・・・そう言う君は、なんだ?!鈍すぎるのにもほどがあるぞ!!」
「うっ・・・・・うっさい!惚れられた経験なんてないんだから、仕方ないだろ?!」
「・・・・・・・・」
本当に、鈍い。
彼に思いを寄せていたのは、自分ばかりではなかった。
まあ、あんななに口説きまくっていた自分の思いさえ届かなかったのだから、
遠巻きに見つめる視線など、気づくわけもないか―――――
本当に鈍い思い人をしげしげと見つめつつ、ロイはそう思った。
「大体さ、アンタいつからオレの事好きだったわけ?」
「・・・・・・自覚したのは、約束を交わす1年前位かな」
「そういや・・・・アンタがやたらオレに絡んでくるようになったのって、そのぐらいだっけ?」
「絡んでって、君ね・・・・・」
「でさ・・・・・・いつ、け、結婚なんてこと、考え出したんだよ」
「好きだと自覚してから、ずっと一緒に居たいとは思っていたよ。
世間的に認められる仲ではなくても、それでも―――――――側に居たいと思っていた」
「・・・准将」
「悶々とそんな事を考えつづけて一年経ったあたりに、あの噂を聞いた」
市民団体が大総統に直訴したというその内容を聞いたら、
頭の中がそれでいっぱいになってしまった――――――
更に、大総統が前向きに考えている事を知り、その思いは加速した。
「君を口説きつづけてはいたが、君が良く理解していないのは薄々気づいてた。
それでも可能性を見つけた途端、とても我慢出来なくなってしまって。
その話を聞いた三日後、君が来た日に・・・・・プロポーズしたんだ」
「たった三日後?!・・・・・だって、まだ施行もされてないし、どうなるかわかんなかったんだろ?」
エドは驚きの声を上げる。
「――――焦っていたのかもしれないな」
「は?何で、焦るんだよ?オレそんときってまだ14だろ?誰とも結婚なんてするわけないじゃん?」
「もちろんまだ君は結婚など出来る年ではなかったが、誰かに盗られるのではないかと心配になった」
「・・・・・誰にとられるっつーんだよ?」
オレ、好きな女なんかいなかったぜ?
そう首を傾げるエドに、ロイは首を振った。
「同性でも結婚できるかもしれないと聞いて、焦ったといっているだろう?
君は自覚がないようだが・・・・・男性から恋愛対象に見られやすいタイプなんだよ。
そんな輩が、一斉に君を狙い始めるんじゃないかと、気が気じゃなくなったんだ」
「え・・・・・ええっ?!そ・・・・・そ、なの??」
驚くエドに、苦笑して。
ロイは言葉を続けた。
「ああ。だから、約束が欲しかった―――。
唐突な申し出だったし、君の自覚は薄いし。
受け入れられるか心配だったが、とにかく我慢が出来なくなってしまって。
とにかく自分の思いを伝えようと思った」
だから、君からOKをもらった時、とてもとても幸せだったんだ――――
ロイはその時を思い出すように少し微笑んで。
でも、すぐ顔を曇らせた―――――
「でも、それは私の独り善がりな思いだったのだな――――」
ロイは苦しそうに、そう呟いた。
エドはきまり悪そうに、視線を逸らして答える。
「・・・確かにさ、勘違いしてたオレも悪かったけど、オレ、好きとも嫌いとも返事してね―じゃん?
色恋以外の意味で了承したとは思わなかったのか?」
「言葉ではもらえなかったが、私の気持ちは伝わったと思ったんだよ」
――――何故なら、あの時の口づけを、君は受け取ってくれたじゃないか?――――
エドを真っ直ぐに見つめて、ロイはそう言った。
『約束・6』終わり・・・7に続く
この話のロイ、ヘタレ過ぎです・・・・・;
でも、一応チュ―位はしていたようです(笑)