あの時の口づけ――――
言われた途端、思い出して――――ぶわっと体温が上がった。
そうだ、あの時・・・・・約束を交わした後、大佐はこう言ったんだ。
「では、誓いの口づけをもらっていいかい?」
はい?
そう問い返す前に、唇を塞がれた。
真っ白になる頭。
そんな長い時間ではなかったはずなのに、唇が離れるまでとんでもなく長く感じた―――
離れてすぐに、ノックの音がして―――
不機嫌そうに大佐が入室を許可をした。
テロ予告が入ったと、下士官が告げる。
彼は眉間に皺を寄せつつ、ため息を吐き・・・・部屋を出て行く。
部屋を出る間際、耳元にオレにだけ聞こえるように、そっと呟いた――――
「すまない―――また、後で」
ドアが閉まった後、ズルズルと体が床に落ちる。
そこでやっとこれがファースト・キスだったのを思い出したのだった―――
『約束』・・・・・・7
あの後、爆発騒ぎがあり、司令部はしばらく慌しくなった。
そのため、あのキスの真意をロイに尋ねることも出来ずに、エドワードは旅に出た。
その後も数度、司令部を訪れたけれど――――何だか今更のような気がして、聞けなくて。
無理矢理『あれは服従を誓わせるための儀式』などと自分を納得させて、今に到っていたのだ。
だが、どうやらそれは間違いのようで・・・・・目の前の男の顔には落胆の色が見えた――――
「あれで、全てが伝わったのかと思っていた」
ロイはそう言ってエドを見つめた。
エドも、困惑の表情で彼を見つめ返す。
「あれも、『契約』の一つだと・・・・・・そう思っていたのかね?」
うん。とは、口に出せなくて。
でも、視線が居たたまれなくて、無理矢理それを外して足元を見た。
そんなエドの様子を眺めて、ロイは瞳を閉じた。
「―――――私にとっては、永遠の愛を誓う、誓いのキスだった。
だが、君にとっては・・・・・・未来を奪い去る、契約のキスだったのだな」
ピクリ、と。エドが体を揺らす。
「鋼の。真実がわかったところで――――――
君は、私のことをどう思う?・・・・・契約などではなく、恋愛対象として愛せるか?」
『そ、そんなこと急に言われたって・・・・・・』
嫌いではない。
尊敬だって・・・・・・実はしている。
だけど、『愛せるか?』なんて、すぐにはわからない。
だって、プロポーズされたって事実だけで、いっぱいいっぱいなのだ。
正直、恋愛経験だって殆どないし・・・・・・どうしていいやら、わからない。
「いや・・・・その。アンタさ、モテるし・・・・・別に、オレじゃなくったって」
戸惑いつつ、口からつい出たのはそんな言葉。
ロイの顔が曇るのが見えて、慌てる。
そんな、捨て犬みたいな顔しないでくれ!!
落胆して、尻尾と耳がたれてしまったような男が、なんだか可哀想な、可愛いような気がして―――。
で、つい・・・・・言ってしまった。
「あっ・・・でも、約束したし。側にいるってことでは変わりないよな?・・・ケッコン、してみるか?」
言ってから『うわ、オレ・・・なに言っちゃってんだ?!』と、自分で慌てる。
了承しちゃってどうすんだ、オレっ!!
かあっと赤面するのを感じて、俯いた。
目的の為には手段を選ばないこの男が、『本当かい?!』と嬉々として告げるだろうことを予測して、
そう言われたら、『いや、ごめん!間違い!!』と否定しようか?などとぐるぐると考える。
だが、しばらくの沈黙の後、彼から寄越されたのは―――別な科白。
「いや、もういいよ」
男の声色に―――ハッ、と顔を上げた。
「―――言ったろう?私が欲しいのは、契約なんかじゃないんだよ」
そんな約束が、欲しかったわけじゃない―――――
男の声は、怒りに満ちたものではなかった。
静かな、悲しい声色。
こんな、大佐は知らない
こんな、ロイ・マスタングは知らない
エドは目を見開いて、彼を見つめる。
ロイはその視線を振り払うように、数歩進んで、振り向いた。
「エドワード。―――あの約束はなかったことに」
『約束・7』終わり・・・8に続く
私もこんなロイ・マスタングは知りません。きっと偽者なんだと思います!(きっぱり)
次回は・・・『鋼の騙されるな!そいつは偽者だ!!私が本物のロイだっ』 『なるほど!その嫌味なタラシ顔は確かに!!』
を、お送りいたします。(嘘です。・・・だってシリアスに耐え切れなくて・・・笑)