あの後・・・・・・大佐と二人揃って中尉に怒られた。



部屋や備品が壊れたのは、エドが修復するので大して怒りをかわずにずんだのだが、
如何せん、綺麗に揃えられた巨塔のような書類を部屋中に散乱させて汚したのが不味かった。
いつもはエドに優しいリザも、さすがに『しつけ』とばかりに、ちょっと窘めた。
(もちろん挑発したロイの方は、血の気が引くほど壮絶に叱られたのだが)
でもリザを慕い、懐いているエドはかなり凹んだ。

『うう・・・これも馬鹿大佐のせいだ・・・・・』

片付け終わったらもう昼近くになっていた為、軍の食堂で昼食を取ることにしたエドは
食堂のテーブルに突っ伏しながらため息を吐いた。
だが、やはりため息を吐いた場所が悪かった―――――
昼食時間が近づいた為、集まりだした兵士達に見咎められて、あっという間に囲まれてしまったのだ。

「どうしたんですかっ」
「何か悩みがあるなら、自分がお聞きします!」
「アホ!国家錬金術師のエドワードさんだぞ?!お前ごときが聞いて解決できるものか!!
・・・・・・理由はわかりませんが、辛い事があるなら是非思いっきり自分の胸で泣いてください!」
「ドサクサに紛れてヌケガケするな!!」

などと、大変な騒ぎになっている。
いつもそれにいちいちツッコミを入れて怒鳴り散らすエドだったが・・・・・
今の彼の頭の中は『大佐への報復』を考えるのに手一杯だった。
ワイワイと騒ぐ外野の声も聞こえず、ただひたすらに『大佐をやり込めるにはどうしたらいいのか?』
を真剣に考えつづけるエドワードだった。



『アイドル!?』・・・・・・2



「大佐・・・・・・・・いい加減エドワード君をからかうのはお止めになられたらいかがですか?」

銃口を突きつけられて、いつもの3倍のスピードで書類を決裁しつつ・・・・・・・・
ロイはリザの小言を延々と聞かされていた。

「彼が身長の事でからかわれるのが嫌いなのを良くご存知のはずでしょう?」
「ハイ・・・・・」
「しかもこの頃の、自分への周囲接し方の変化に戸惑って苛立っている所です。
後見人として、からかうより真面目に相談に乗って上げなくてはいけない立場ではないのですか?」
「オッシャルトオリデス」

副官のもっともな小言に、素直に(?)返しながら、ロイはふと・・・・・手を止めた。

「・・・・・君のいう通り、そろそろ事態を収拾した方がいいかもしれんな」

口調が変わった上官に、リザも銃口を下ろし答える。

「はい。少しこの頃度を過ぎているようですし」
「ああ。ストーカーまがいの行為までされているのではな、放っておくわけにも行くまい」

恋愛事は、『好意』の範囲ならかまわないが、その好意が突如として凶暴に変化する事もある。
あの鋼が簡単にどうにかされることはないだろうが・・・・・・・・・・
ここの者は彼が両手を合わせて練成を行う事を知っているし、体格差もある。
奴等とて軍人。隙を突かれたり、複数でこられたらさすがにあの子もキツイだろう。
そう言うと、リザも深く頷いた。

「そうですね、只でさえ同性からの求愛に彼は困惑しています―――――――
彼が傷ついたりする前に収拾していただきたいです」
「ふむ・・・・・・鋼のは今、どこにいるかな?」
「先ほど食堂に向かったようですが」
「それはちょうどいいかもしれんな・・・この機にさり気なく釘を刺してくるか」
「それがよろしいかと」

事、恋愛がらみのため、おおっぴらに押さえつける命令を出すのは得策ではない。

今は昼食時のため、食堂にはかなりの兵士達が集まっている事だろう。
そして、そんなところにうっかり足を踏み入れたエドが囲まれているだろう事も容易に想像できる。
だが、今はそれが都合がいい。
自分がその囲いを分け入って彼の側に座り、ギャラリー共に聞こえよがしに一言いえばいいのだ。

『この頃付きまとわれて困っているそうじゃないか?
風紀を乱すような者がここにいるとは信じがたいが、不都合がある時は言いたまえ。
―――――――――厳重に処分しよう』・・・・・と。

ギシ、と革張りの椅子を鳴らして、ロイは立ち上がった。

「では、早速昼食をとってきても?」
「はい。いってらっしゃいませ」

滅多にない副官の『休憩を取る事に対しての激励』を受けながら、ロイは食堂へと向かう。
長い廊下を歩きながら、ロイは笑い混じりに呟いた。

「だがなぁ、あの金の野良猫が素直に私を近づけるかな?」



******



執務室内の二人の会話も知らず、エドはいまだに『大佐を凹ませる計画』を熱心に考えながら、
昼食に頼んだトマトソースのスパゲティをフォークでかき回していた。

『正攻法じゃ敵わないし、隙を突くにしてもアイツ・・・アホ大佐の割にはあんまり隙がねぇからなぁ。
でも、闇討ちなら――――――』

だんだん考えが危ない方向に向いた辺りに、周囲がざわついているのに気がついた。
顔を上げて、エドはビクリと肩を揺らした。

『うわ!!いつの間にこんなに囲まれてたんだ!?って、あれ?』

自分の考えに入り込んでいる間に囲まれてるのに気づいて驚いたエドだったが、
その人垣が割れるように退いて、大佐が食事の乗ったトレーを持って近づいてくるのに気がついた。
この光景を見て―――――――――エドの両眼がキラン☆と輝く。
一度俯いていやらしい笑みを浮かべた後、
エドは立ち上がり・・・・・・・満面の笑みで、ロイに手を振っていた。


「大佐ぁ!こっちこっち!一緒に飯喰おうぜー♡」


周りのざわめきが増した中、面食らったように黒髪の大佐は金色の少年を見つめ。
そして、またゆっくりと彼に近づいていった。

『アイドル・2』終わり・・・3に続く。



ご、ごめん・・・・・次こそは!(汗)


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