「じゃあ、ホークアイ中尉は今日はお休みなんですか?」
「ああ、久々に実家に帰るとかいってたが」


歩きながらのアルフォンスの問いに、ハボックは頷いた。
二人の後ろには、ブレダ・ファルマン・ヒュリーもいる。

「残念だなぁ・・・会いたかったのに」
「だな。でも、ブラックハヤテ号はいるぞ?」
「え、ほんとに?!」
「つれていけないから、中尉が居ない間僕が世話する事になったんだ。裏庭にいるからね?」
「うわ〜い!後で会いに行かなきゃ!」
「それにしても、エドの奴なかなか執務室からでてこねぇな?」
「また喧嘩して無いといいですね」

ロイの側近達4人とアルフォンスは、廊下を歩きながらそんな話をしつつ、和気藹々と笑いあう。

側近達はエドワードのファンクラブ(?)のメンバーではないが、この兄弟をとても可愛がっていた。
一週間前に旅立ったばかりの兄弟が再び訪れたのには少々驚いたが、
『よく来たな』と笑顔で出迎えて、早速とばかりにかまっていた。
エドワードがロイの執務室に行った後も、仕事の為揃って外に出ていたのだが、
そろそろ休憩にお茶でも・・・と、戻ってきたのだ。

だが――――――


ドカッ・バキッ・ガッタ―――ン!!


突然執務室から聞こえてきた大きな物音に思わず足を止め、揃って顔を見合わる。
そして、今まさに『自分たちが案じていた事態が執務室内で起こっている』のを予想して、
皆、一様に沈痛な面持ちでこめかみやら額やらをおさえたのだった。




『理想の結婚』 <その1 ”共犯者”>・・・7




「大佐!エド!何やりあったんだか知りませんが、いい加減にしといてもらわないと・・・・・」

緊急だとばかりに、ノックもせず執務室のドアを勢いつけて開けたハボックだったが、
『オレが中尉に怒られます!!』と、続く科白を言い終わらないうちに言葉を詰まらせた。
ハボックの後にいた他の者達は、そんなハボックの様子に首を傾げつつ、
隙間からそれぞれ室内を覗き込み・・・・・・


――――――皆、絶句した。


室内は思ったほどは荒れてはおらず、せいぜいソファーの位置が変わった程度。
いや、訂正―――ソファーの用のテーブルがなぜかひび割れているが、それは予想範囲内だ。
皆が絶句した訳は一つ。
破壊された物のせいではなく、中にいた人物の状態が尋常ではなかった為だ。


「・・・・・・・あんたら、何してんスか?」


皆が絶句する中、先に我に返ったのは最初にそれを見たハボックだった。
でも、その声には戸惑いの色が濃い。
だが、それも無理からんことだろう。


なぜなら―――
目の前には、ソファーに座ったロイと、そのロイの膝をまたぐようにして座ってるエドがいたのだから。


「に・・・・・・兄さん?」

見られた当の二人もなにやら唖然とした表情でいたのだが・・・・・・
弟に呼びかけられたエドは、急にハッとしたように慌て出した。

「ア、アルっ!あのな、これはっ!!」

言い訳の言葉を口にしつつ、慌ててロイの膝の上から降りようとしたエドだったが、
急に腰あたりを何かに押えられ、遮られた。
ギョッとして首を回してみると、自分の腰を押えているのは、いつの間にか回されていたロイの腕で。
そのまま体を引き寄せられて、ロイと密着しそうになって・・・・・・・・・
エドは慌てて両手をロイの胸につっぱり、それを止めた。

「大佐っ」

訳がわからず、非難を込めた声で彼の名を呼びつつその顔を見ると、
そこには思いがけず―――――――艶っぽく自分を見つめる瞳。
思わず心拍数が跳ね上がった時に、ロイの口からこれまた艶っぽい声が吐き出される。

「エディ」
「!?」
「丁度いい機会だ―――――みんなにも知ってもらったらどうだろうか?」

私は、秘める愛では我慢が出来そうにないよ?
切なげにそんな事を言われ、パニックに陥りそうになりながらも―――エドはあることに気がついた。


『エディ・・・・・って』


つまり、もう始まってるって事か?
瞳でロイに伺いを立てると、ニヤリと返ってくる笑い。

『心の準備もなしかよ!』

心中でロイを罵倒しながらも、ここまできたらヤルしかない!!と腹を括った。
『エ、エディ??』などと呟き、動揺している面々の視線を感じながら、
エドは軽く深呼吸をして口を開いた。


「でも・・・・・・・・・いいのか?――――――ロイ」


「「「「「ロイッ!?」」」」」
今度こそ裏返ったような声が響いたが、それを無視してロイは返事を返す。

「かまわんよ。隠してこそこそと付き合うのは嫌だ―――――むしろ、みんなに知らしめたいんだ」


君はもう私のものだと・・・・・・ね?


タラシ全開な笑顔で微笑むロイを見て、側近達はヒィッと悲鳴を上げる。
そして―――エドも心の中で同じように悲鳴を上げていた。


『鳥肌立ちそう・・・・・・!』


ゾワゾワとした、予想以上の不快感に顔色を悪くするエド。
ごめんなさい、やっぱりさっきの了承はなかったことにっ!!
――――そう口にしそうになった時、戸惑ったような弟の声が聞こえた

「に、兄さん・・・?あの・・・・・それって、どういう―――――?」

恐る恐ると言った感じに声をかけてくる弟に、ピクリと肩を揺らすと、
エドはへこたれそうになる自分を叱咤しつつ――――――――
『これはアルの為・これはアルの為』と呪文のように心の中で呟きながら振り返る。

「アル・・・・・・・その、ごめんな?」
「ごめんって・・・・・・・もしや、その・・・大佐と?」
「う、なんと言うか・・・・・・」

大佐が好きなんだ。とか、
彼を愛してるんだ。とか。
こんな時言うべき言葉はいろいろ浮かんではくるものの、とても口から出せなくて。
でも、ラブラブぶりを見せ付けなくてはならないとの焦りから、エドがとった行動は―――――


「・・・・・・・・・・・・こう言う訳だから」


エドはロイの首に自らの手を絡ませると、彼の体にぴとっっと、己の身をすり寄せた。
(言葉よりもそっちの方が恥ずかしいと思うのだが、本人は体で示す方が得意な行動派なのだ・笑)

だが―――――効果はてきめん。

なにせ・・・頬を羞恥に染め、泣きそうな顔で瞳を潤ませて許しを請うように見上げてくる様は、
その気も無かった側近達や実の弟から見ても――――――――――凶悪に可愛くて。
もう、誰しもが無条件で『いいよいいよ、だから泣かないで!!』と言たくなるほどなのだ。

だが、他の者より免疫のある弟だけは『どうしても確認しなくては!!』と力を振り絞った。

「本当に・・・・・・・大佐のことが好きなの?」
「・・・・・・・・・・・・うん」
「そ、そっか・・・・・・・・・」

どうして?とか、
いつから?とか、
選りによって、何で大佐!?・・・・・・とか。

いろいろ聞きたい事はあるけれど、さすがのアルも限界だったようで。
『ぼ、僕。先に宿に帰ってるから』と独り言のように呟くと、フラフラした足取りで部屋を出て行った。

「あ―――――。俺らも・・・・・とりあえず、失礼します」

ショックの色がありありと見える顔面蒼白な男達も、程なくそれに続いて。
―――――――そして、また執務室は二人きりになった。



******



それを見送ってから―――――
ロイは『なかなかやるじゃないか』と、誉め言葉をかけてやるべく、腕の中の金色に目をやる。
だがそこには、いまだに自分にくっついたまま放心状態になっているエドがいた。
・・・・・・・・・・どうやら、弟の反応が予想以上にショックだったらしい。


『全く・・・ブラコンだなぁ。君は』


ため息をつきつつ、抱きしめなおして髪を撫でてやる。
ロイの胸に顔をくっつけて、ぼーっとそれを甘受していたエドだったが・・・・・・
突然我に返ったらしく。
烈火の速さでロイの膝から飛び降りると、一気に壁際にまで走り去り、そこにへばりついた。

「あ・・・あんた、なにしてっ・・・・・・」
「君が呆けているから、慰めてやってたんじゃないか?」
「・・・・・・・・・つか、何でアンタはそんなに平然としていられるんだよ・・・・・・」

なれないスキンシップに、もうへとへとなエドはガックリと床に膝と手を付いた。

「経験値の差だな。それにしても、手間が省けてよかったじゃないか?」

君の攻撃を避けていたら、偶然あの体制になっただけなんだがねぇ。ナイスタイミングだったな?
そう言って笑うロイに、ますますガックリとへたり込んだエドは、とうとう床にぺたんと座り込んだ。
こんなんでこれから先の展開についていけるのだろうか?との不安が押し寄せる。
何てったって、これから表向きには本当に『結婚』しなくてはならないのだから。

そんなエドを面白そうに眺めていたロイだったが、彼が本気で落ち込んでいると知ると、
苦笑して立ち上がりヘタリ込むエドの前でしゃがみこんだ。
床に片膝をついて彼の頬に手を添えると、エドの体がビクリと震える―――――


「既に後悔かい?エディ?」
「・・・・・・・・」
「でも、これは君が言い出したことだ。
――――私は別にあのメンバーになら本当のことを話してもかまわんのだから」
「・・・・・・・わかってるよっ、そんなこと!!」

頬に添えられた手をピシャリと跳ね除けて、キッとロイを睨みつける。
そして、エドはすっくと立ち上がって――――膝をついたままのロイを見下ろした。

「やってやるよ。今更逃げたりしねぇ」
「―――――――その意気だ」



では、今度こそよろしく頼むよ?――――――――――共犯者?



立ち上がって、片手を差し出すロイに・・・・・・
エドはふて腐れた顔をしながら、せめてもの報復にと右手で思いっきり握り返してやったのだった。






そしてこの日から、二人は秘密を共有する『共犯者』となった。




やっと『共犯者』がおわった!!
って、その@で既に7回って;・・・・・・・どうなっちゃうんでしょう?この連載。(大汗)
そのAのタイトル、何にしようかなぁ〜♪


  back      next    小説部屋へ