シンデレラの夜・4

 
後から来てなんだ?! といった周りの男達の視線をものともせず、ロイは輪の中に進み出る。
堂々とした態度、しかもかなりの美形ときては、不満があるものの誰もそれを口に出せないようだ。
無意識に道を空けてしまった彼らをキレイに無視して、エドの前にロイは立った。


『何でこんなとこに大佐が〜〜〜〜〜〜〜?!』


内心の動揺を隠し切れずに、エドは大きく目を見開く。
ここは東方ではない。セントラルなのだ。
女装に抵抗があったものの、知り合いには合わずに済むと高をくくっていたエドだった。
が、目の前に立っているのは、紛れもなく・・・大佐。
知り合いの中でも、よりにもよっていちばん会いたくない奴に出会うとは!!
エドは、自分の不運に眩暈がした。

そこで、ハッと気がついた。
よくよく考えれば、プライス卿は 『軍の上層部にコネがある』 と噂の人物ではなかったか?
ということは・・・・・
軍服を着ていないので気付かなかったが、この中にもっと軍関係者が居る可能性が高いのでは?!
その事実に呆然とロイの顔を見詰めた。
顔色が変わったエドを見て、ロイは首を傾げた。

「私の顔に何かついてますかな?・・・・どこかでお会いしたでしょうか?」
「いいえっ、知りません・・・・わっ」

咄嗟にエドは知らんふりをした。声も変え、どうにか女言葉で返す。

『まだ、気付かれてないんだよな?』
大佐にこんな格好を見られるなんて!!
ばれたら最後、どんなにからかわれるか・・・・・

『いや、それともいつものセクハラに拍車がかかる?!』

以前、エドがロイの家に泊まりこんだ事があったのだが、
それ以来、なにかとロイは口説き文句のような言葉を、自分によこすようになっていた。
最初は 『新手のイヤガラセか?!』 と憤っていたエドだったが、
この頃は、紡がれる言葉の中に真剣さを感じるようになってしまい・・・・・

エドワードはかなり戸惑っていた。

『女好き』 と噂の彼だ。
自分にそんな台詞を言ってくるのは、からかっているとしか思えない。
そうに違いないハズなのに。
何故か彼は、時々苦しそうな顔で自分を見つめるのだ。
その顔を見るたびに、自分の心もざわついてくる。
もやもやと渦巻く胸の奥に、どうしていいかわからなくなる。

彼は自分のことをどう思っているのだろう?
自分は彼をどう思っているのだろう?

考えようとすると、頭に血が上るような感覚が襲ってきて、いつもそこで思考を停止してしまう。
答えを導き出すことも出来ずにいるエドワードは、
ロイの前に立つたびに、早くなる鼓動を持て余す日々が続いていた。

そんな気持ちの時に、大佐と女装姿でなど会いたくなかった。
バレる前に、一刻も早くここを離れなければ!
しかし、どうやって・・・・・?

『やっぱり、ここはトイレってことにでもして・・・』
そう考えて、口を開こうとしたその時―――

「しかし、残念だな・・・・」
ロイはため息をついて、頭を振った。
「えっ?」
思わず、エドは聞き返してしまう。

「こんな素敵なお嬢さんを目の前にして、誘うこともできないとは・・・・」
わざとらしいほどの鎮痛な面持ちで、ロイは眉間に手を当てる。
「・・・・・・は?」
「このパーティにいらしたということは、あなたもお目当ては伯爵様のご子息でしょう?」
「・・・・お目当て?」
わけのわからないエドは、鸚鵡返しのように、言葉を繰り返す。
「おや、知らないわけはないでしょう。今日はご子息の伴侶を探す為のパーティですよ?」

「!!!」

ア、アルの奴、騙したな?!
エドの顔が蒼白になる。
『あいつ、兄貴を嫁に出す気か〜〜〜〜〜〜?!』
青くなったり、赤くなったりしているエドを、ロイは面白そうに眺めた。

「その様子だと・・・ご存知なかったようですね?」
「・・・ただの、誕生日パーティとしか、聞いていなくて・・・・・」
ちょっと探し物があって・・・珍しい本が読めると聞いたので、来たんです。
バレないよう、なるべく顔が見えないよう俯きながら言う。

「お若いのに、ここの本に興味が?」
若い女性が興味ありそうな物はなかったが―――――
なにせ、ここにある本は、錬金術関係が大半ですよ?
そう首を捻るロイに、思わず身を乗り出して尋ねる。

「錬金術が大半?!」

今の危機的状況も一時忘れる。
『膨大だと噂のここの本が、ほとんど錬金術に関する物だって?』
それなら賢者の石の手がかりも見つかるかもしれない!
エドの心は、あっという間に、まだ見ぬ本の元に行ってしまった。
蒼ざめた顔から、たちまちワクワクした顔に変わっていく彼女に、ロイは小さく笑った。

「・・・ああ、錬金術に興味がおありなんですね?」

それならば・・・とロイは手を差し出した。

「ご子息がお目当てでないのなら、私がエスコートしてもよろしいですか?」
書庫にご案内して、よろしければお探し物もお手伝いいたしましょう。
私は国家錬金術師です。お役に立てると思いますよ?
そう言って、ロイはニッコリと笑った。

その言葉に、今まで二人の会話を呆然と聞いていた取り巻きは、やっと我を取り戻した。
そして、一斉にエドに詰め寄る。
「いや!エスコートは僕にさせてください」
「いや!!私が探し物をお手伝いします!」
「いいや、私が!!」
迫ってくる人の波に恐怖を感じ、エドは後ずさった。

男達とエドの間に、ロイがすっと割って入る。

「おや、この中に錬金術に精通した方がおられるのかな?」
彼女の探し物を手伝うと言うのであれば、それなりの知識が必要だと思うが?
そう、皮肉っぽく笑うロイに、皆言葉に詰まる。
この中には、女遊びに精通している者は居るだろうが、
錬金術の 『れ』の字も知らない者ばかりなのである。
悔しそうに一同、ロイを睨むものの・・・・・・
どこをどうみてもこの男に負けているのが一目瞭然なので、誰も二の句が告げない。
勝ち誇ったように、ロイは薄く笑った。

「では、お嬢さん。お手をどうぞ?」

大佐と一緒にいるのはバレる危険性が大なので、本当の所・・・一緒に居たくない。
しかし、このままこんな所に居るわけには行かないのだ。
とりあえず、この手を取れば書庫に行ける―――
エドは少しためらったものの、生身の左手でその手を取った。

『うまくやれば、バレずに文献探しを手伝わせる事もできるかも・・・』

なにせ、膨大な量である。
探すのだけでも時間がかかるだろう。
それを読むとなれば・・・・・時間がいくらあっても足りないくらいだ。
一応貸し出しを願い出てみるつもりだけれど、身元も明かせないのでは、貸してもらえる確率は低い。
ここは、利用できる者は利用するのが得策だ。
そう、決心しロイを見あげる。
そんなエドに、ロイはにこやかに微笑んだ。

「では、行きましょうか?」

差し出されたロイの腕に、エドは自分の腕を絡ませる。
そして二人は書庫へと向かって行った。

『シンデレラの夜・4』



たらしの大佐を書きたかったんです(それだけか?!)
さぁ、これから本探しだ!
どうしよう・・・・・?(笑)



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