シンデレラの夜・6

 
壁に造りつけられた本棚に向かったエドは、一通りタイトルを見ていく。
これは・・・と思う物を抜き出し、軽く、内容を確認する。
役に立ちそうな物を数冊集めた所で、一旦近くのテーブルに運び、読み始めた。
読みながら、感動する。

さすが、レックス・プライスコレクション!
少し検索しただけで、掘り出し物が見つかる。
それでも、そう簡単に賢者の石の真実に突き当たるわけではないが・・・・・・
それでも、興味深い資料が目白押しだ。

『ああ、マジ時間がたりねぇ!!』

パーティが終わるまで、後何時間だろうか?
とにかく少しでも内容を把握すべく、エドは物凄いスピードで本を読み進めていった。

どのくらいの時間が経っただろうか?
エドには珍しく、読書の最中だというのに、意識が本からそれる。
なんと言っても、今自分は身元を隠して入り込んでいる。
いくら物凄い集中力を持っているエドとはいえ、そうそう長い時間我を忘れるわけにはいかないのだ。
時計を見ると、それでも1時間以上の時間が経っていた。

『そういや、大佐は・・・・・』
ふと見ると、テーブルの上にはいつの間にか、何冊かの本が重ねて置いてあった。
それを手にとると、所々に紙が挟み込んである。
そこを開いてみてみると・・・・

「・・・・・・・」

読んで見て、大佐がただ本を集めただけではなく、
要点が書いてあるところにブックマークしてくれたことが分かった。
置いてあった本を次々に手にとって、印の所を読んでいく。
それは、さすがに的確で。
生体練成は専門外だろうに・・・と思う。
わかっていたことだけれど、改めて大佐の錬金術師としての能力高さが分かる。
いつも 『無能』 とからかってはいるけれど、
自在に操るあの焔の練成が、かなり高度なのは分かっていたから。

『だてに 「大佐」 はやってない・・・ってか?』

読み進めながら、ふとさっきの大佐の言葉を思い出す。

『まるで、シンデレラのようですね』
『一瞬で私の心をさらってしまったのにもかかわらす、名前さえ教えてくださらない』

ボボッとエドの体温が上がる。
よくもまぁ、次から次へとあんなキザな台詞を思いつくものだ・・・
自分は男だから、あんな事を言われても、キモチワルイだけだが、
女の人が言われたら、きっと嬉しいんだろうな・・・と思う。
顔を上げ、周りを見回すと、少し離れた本棚の前に大佐の後姿を見つけた。
いつも纏っている青ではなく、黒いタキシードの後姿。
しかも、彼の髪は黒髪で、その瞳は漆黒だから。

『あれじゃあ、真っ黒じゃん』

後姿に悪態をつくものの・・・
均整の取れた体格。
着やせして見えるが、あれでも国軍大佐だ。
それなりに鍛え上げられているのだろう。
実際、さっき腕をつかまれた時も、容易には振りほどけなかった。

『なんか、ずっこいやつ・・・・・』

頭脳明晰
容姿端麗
当然エリートで。
仕事はサボるくせに
それ以外は結構まめだから
面がいいのも手伝って
やたらめったら、女にモテる。
女には憧れの的
男には天敵のようなやつである
だからこそ、不思議に思う。


何で、そんな奴が・・・オレにちょっかい出すんだろう?


もちろん、からかっているだけだろうけど
本気ではないんだろうけど
それだとしても、会うたびに
『愛してる』
などとほざくのは
やっぱりおかしい気がする

『何考えてるか、さっぱりわかんねぇ』

覗き込んでも、何も見えない漆黒の瞳。
彼の 『本当』 は、何処にあるのだろうか?

「そんなに熱い視線を送られると、さすがに照れますね・・・」
「!!!」
「おっと、あぶない」

突然のかけられた声に驚いて、椅子ごと倒れそうになる。
それをロイが腕を伸ばして支えてくれたのだ。
また彼の腕の中に収まってしまったのに焦りを感じ、その胸を左手で押し返した。

『いつの間にっ・・・!?』

ついさっきまで、彼はかなり離れた場所にいたはずだ。
それが何故、目の前にいるのか?!
ボーっと、自分の考えの中に入っていたエドが、近づいてくるロイに気付かなかっただけなのだが、
エドには、彼が突然目の前に現われたように思えた。
想像の中の漆黒の瞳を覗いているつもりで、実は現物を覗いていたことに気がついて、
エドは、顔を赤くした。

「私のことを気にかけてくださっているのですか?・・・可愛い方だ」
「ちがっ・・・!!」

また抱き寄せられるのかと、身を硬くするが
ロイは、エドを椅子にかけさせると、あっさり身を離した。
そして、エドの隣の椅子に腰を降ろすと、片手に抱えた本をテーブルに置く。

「どうです、進んでいますか?」
「え?ハイ・・・・ここにあるのは大体。・・・時間がないので、斜め読みですけど・・・」
「参考になる資料はありましたか?」
「ええ。あ・・・ブックマーク、ありがとう・・・ございました」
助かりました・・・・・そう言うと、ロイは微笑んだ。

「お役に立てて、光栄ですよ」

その微笑に、目が離せなくなる。
大佐もこちらを見つめていて、
2人の視線が絡みついた瞬間。

「ああ、やはりここだったか」

声の方を振り向くと、そこには初老の男性が立っていた。

『シンデレラの夜・6』



エドの心の内をちょっと書いてみたり。
私の中では、大佐はすっげー色男で、エドは結構純情で可愛い子・・・かな?
かっこいい大佐にドキドキvみたいな?(笑)



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