「・・・・・・ええっ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
思わず、また大声をあげてしまい、慌てて両手で口を塞ぐ。
「どうかな、お嬢さん?」
「・・・・・・・」
聞きなおされるも、あまりの驚きに、二の句が次げない。
「私はあなたが気に入ってしまったよ・・・・・・」
ニッコリと笑う伯爵に、眩暈がする。
『よ、嫁って何?!・・・・気に入ったって・・・・もしやこのジジイの嫁?!』
混乱するエドの顔色から何かを感じとったのか、伯爵は苦笑した。
「ああ、もちろん私ではなく 『息子の』 だから安心してくれ」
そっか、よかったーv・・・・って、よくねぇ!!
「えっと、でも・・・・・私なんかには相応しくないかと・・・・・?」
速攻否定したいところだけれど、機嫌を損ねて 『閲覧許可』 まで取り消されては敵わない!
何とか自分を落ち着かせて、遠まわしに断る作戦に出る。
「いやいや、あなたほど相応しい人はいないよ?」
笑いかけられて、顔が引きつる。
「私はさっきも言ったように、ここのコレクションには心血を注いできた」
いくら伯爵の財力をもってしても、ここまで集めるのは容易ではなかったのだ。
今、やっと自分でも納得できるようなものになったのだが・・・
長い年月を掛かった分、自分も年をとっていた。
何とかここまできたが、不安も年をとるほどに大きくなって。
私にもしものことがあったなら、誰がここを愛し守ってくれるだろうか?
誰か引き継ぐ者がほしい・・・・・そう思うようになっていったという。
「息子さんが、いるんじゃ・・・?」
そう問うエドに、伯爵は寂しそうに首を振る。
「あやつは、ここにまったく興味をしめさんでな・・・」
彼の息子は興味を持つどころか、ここには近寄りもしないという。
「バカ息子だが・・・・・責任は私にもあってね」
錬金術にのめりこんでいった自分は、若い頃息子を省みることをしなかった。
放って置かれた息子は、いつしか錬金術もその本も、嫌っていったようだった。
それに気付いて関係の修復を試みた頃には、時既に遅く。
何とか親子関係は問題なくなったのだが、やはり錬金術には抵抗があるらしく、ここには近寄らない。
そう言うと、伯爵は寂しそうに笑った。
「・・・・・・」
何となく、自分の父親を思い出して、エドは黙り込んだ。
「このところ、パーティを開くたびにここを開放するようになったのも、後継者が欲しかったからだ」
以前は忙しいのもあって、よほど親しい者でもない限り、ここに他人を入れることも無かった。
しかし、今は後継者が欲しくて、たびたび開放するようになっていった。
自分の気に入った者にならば、ここを任せても良いかもしれない。
ただし、やはり他人に譲り渡すのは、寂しいものがある。
それで、無駄だと思いつつも、『理想の嫁』を求めてこんなパーティなど、開いてみたのだ。
「あなたとは、お目にかかったばかりだが・・・腕前は申し分ないし、本を愛してくれそうだ」
直感だが、あなたには任せてもいいと思う。
しかも、嫁に来てもらえば、この本たちが外に出て行くことも無い。
私には、これ以上ないほどの幸せだ。
そう、伯爵はいう。
だから、前来た時は門前払いだったのか・・・・・
って言うか、じゃあ今ならこんな格好しなくても、入れたかもしんないってこと?!
『そういう事は、早く言ってくれよ・・・・・・』
エドは、ぐったりしながら、伯爵をみつめた。
「でも、息子さんが私を気に入るとは・・・・」
思えません。と続けるまえに、伯爵はまた口を開く。
「あなたなら、きっと息子も気に入る!」
「・・・・・・・」
何を根拠に?!
エドは少々強引な伯爵の言いように、顔をひきつらせる。
「錬金術は使えないが・・・奴は商才には恵まれたようでな」
まかせた事業は、すべて成功させている。
「あなたは資金を気にせずに、研究者としての生活に没頭してくれてかまわない」
息子は家を守り、あなたはここの本たちを守る。
「国家錬金術師に匹敵する待遇を約束しよう」
どうかな?悪い話ではないだろう?
そう伯爵はエドワードを見つめた。
『これって、玉の輿ってやつなんだろうなぁ』
地位も財力もある名家に嫁ぐ。
しかも、自分の研究し放題。金の心配なし。
『もしや、オレって女だったら、こんなに苦労しなくて済んだのか?』
国家錬金術として、危ない橋を渡ることもなく。
戦争に借り出される恐怖を持つことも無く。
自分の好きなことをしながら
この年でも弟を養うことができる。
息子は顔も知らないけれど・・・・。
伯爵の顔や、壁に掛けてある夫人だと思われる肖像を見るかぎり・・・そうひどくないだろう。
商才があるって位だから、バカじゃないだろうし?
まさに、ハッピー人生?!
だが、あくまでも女ならの話だ。
・・・・・もちろん女だったとしても、人に頼りきりの人生はごめんだが。
「・・・・・折角のお話ですけど・・・・」
ごめんなさい。
そう頭を下げた。
「何故かね?マスタング君とは、なんでもないんだろう?」
そうチラリと伯爵は大佐の方を見る。
「もちろんです!!」
速攻否定すると、大佐は苦笑いを浮かべたようだった。
「何も、今すぐにと言うことでは無いんだ。息子に会って、気に入ったらでかまわないよ?」
「いえ・・・・すみません。それでも、お受けできません」
会ったからって、自分が女になるわけじゃなし?
エドは、おもわず苦笑いを浮かべた。
それでも、伯爵は諦めきれないようだ。
ため息をつきつつ、なおも食い下がる。
「それでは・・・・・誰か、好きな人でもいるのかな?」
「え・・・・・・・?」
好きな人?
オレに好きな人なんて・・・・・
『いない』
そう言おうとした時。
―――何故だか、大佐の顔が思い浮かんだ―――
『何、考えてんだ、オレ!!』
しかも、本人はすぐ隣にいるのだ。
カーッっと、顔が赤くなっていくのが、自分でもわかる。
落ち着こうとすればするほど、鼓動は早くなる。
『オレが、大佐を好きなわけ無いじゃん!!』
確かに、大佐は自分を口説いてくるけど。
たらしのアイツにとっては、挨拶みたいなもんなんだ!
そんなの、本気にしたら後で辛い目に・・・・・
そこまで、考えて・・・・・ハッとした。
それは、あくまでも『大佐がオレをどう思っているか』って話だ。
相手が自分を好きって前提じゃないと、その人を好きになれないってのは・・・・・
『やっぱりおかしいよな・・・・・』
じゃあ、オレは?
大佐の気持ちとかは関係なく・・・・オレ自身はどう思ってる?
意地悪で傲慢で。
側にいるとからかわれるけど
・・・・・それでも一緒にいられると、なんだか嬉しくて。
だけど、2人きりになると
途端に、胸が苦しくなるんだ。
苦しいから、目をそらしたいのに、そらせなくて・・・
―――いつの間にか目で追いかけてる―――
『これって・・・・・・』
今度は体ごと熱を持ったように熱くなる。
『好きな人』 といわれた途端、黙り込んでみるみる赤くなっていくエド。
それを、伯爵は顔に落胆の色を浮かべて見つめた。
「・・・・・どうやら、いるらしいね」
大切に思っている人が?・・・・・伯爵はため息をつく。
「・・・・・はい」
今、気付いたばかりだけど
「たぶん・・・・・好きなんです」
恋愛なんて、よくわからないけど
「きっと・・・・・・」
アンタの事が。
エドは、そう言って俯いた。
『シンデレラの夜・8』
軽い話だったはずなのに、いつの間にエドの告白話になっちゃったんだろう・・・?(謎)