「さて、じゃあそろそろ出かけるか・・・」
「へ?どこへ!?」
「さきほど少佐に伝言を頼んでおいただろう?――――ヒューズと待ち合わせているんだ」
「今度は中佐かよ・・・・・」
ベットに突っ伏して枕に顔を押し付けたまま、エドはくぐもった声で嫌そうに呟く。
「そうだよ」と答えながら彼を見ると、その小さな体は全身で『疲労困憊』と言っているようで。
更に聞こえた幼い婚約者の重いため息に、ロイは苦笑したのだった。
『理想の結婚』
<その2 ”攻防戦”>・・・6
「こちらでございます」
にこやかに案内された部屋を見て、エドは絶句した。
ここはセントラルにある有名ホテル。
今回はプライベートなため、軍管轄ではなく民間のホテルに二人は宿を取った。
人目がどこにあるか分からないため、当然ツインの部屋にチェックインするつもりで居たのだが、
生憎、部屋が開いていなかった。
だが、ロイがオーナーと顔見知りだったために、代わりに・・・・と提供されたのが、この部屋。
そこは、俗に言う『スイートルーム』。
しかも、新婚カップルをターゲットにした造り。
甘い内装に、天蓋付のでかいキングサイズのベット。
部屋中そこここに飾られた花達が甘い匂いを漂わせ、
計算されて設置された照明がしっとりと室内を照らす。
まさに、新婚の新妻がうっとりとしてちょっと大胆になってしまうような、そんな部屋。(笑)
そんな部屋に案内された二人。
室内を見た途端、無言で回れ右をするエドの首根っこを捕まえて、
『案内はここまでかまわないよ』
ロイは案内係の者にそうにこやかに言って、エドを室内に押し込めてドアを閉めた。
「もう少しましな部屋はねえのかよ!?」
二人きりになった途端、そう食って掛かるエド。
だがロイはにべもなく首を振った。
「三ツ星ホテルのスイートルーム。十分に『まし』だろう?」
「そう言う意味じゃねぇ!!」
「我侭な婚約者殿だな。・・・予約無しにきたのだから、泊まれただけでもよかったじゃないか?」
やれやといった風に首をすくめて見せるロイに、エドはますます逆毛立てて怒鳴った。
「こんなところに泊まらなくても、宿ならいっぱいあんだろ!?」
「君の旅とは違うんだ。警備上の問題もあるし、安宿なんかに泊まるわけにはいかんだろう?」
「へーへー、さすが大佐様は高級なところにしかお泊りにならないんでしょうねぇ?」
皮肉をたっぷりの口調でそういうエドに、ロイも負けずに皮肉な笑みを浮かべた。
「ああ。硬いベットはどうにも良く眠れなくてね」
「けっ!中尉に残業言い渡されて帰れなくなって、結局仮眠室で夜明かしする奴が良く言う!」
「おや、知らんのかね?司令官用の仮眠室のベットは一般兵のとは違って寝心地満点だ。
今度招待するよ、私の腕枕付で」
「いらん!」
「つれないね―――――――それに、どこに目があるか分からんからな。
こんな部屋に泊まった方が『らしい』だろ?」
何しろ、婚約したてのラブラブカップルなのだからねぇ?
そう言って胡散臭い笑顔を見せるロイに、エドは再び食って掛かろうかと口を開きかけるが、
言葉はその口から出ることなく、『もうそんなやり取りも疲れた』といった様子でベットに寝そべった。
「・・・腹、減った」
「レストランに食べに出るかい?」
「も、そんな元気、ない・・・・」
「おや、このホテルのレストランはお勧めなのだが。じゃあ、今日はルームサービスでもとるか」
受話器を取って、ロイがエドを振り向く。
「何が良い?」
「なんでもいいよ、もう。・・・・・・任せる」
「賜りました、お姫様」
「誰が、姫かっ!?」
がばりとベットから身を起こして睨んでくるエドに、ニヤリと笑う。
「なら、マイ・スイート?」
「・・・・・・今、鳥肌たったぞっ!?」
「おや、空調はちゃんと効いている筈なのだがねぇ」
「もう!!さっさと頼め〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「はいはい」
―――――そんなこんなで、ルームサービスの食事を取って。
おなかが膨れたお陰で少しは気力が戻りかけたエドだったのだが、『出かける』と言われ、脱力。
そして、冒頭の会話に戻る。
「・・・・・どこで待ち合わせだって?」
ベットにつっぷしてぐったりとしながらも、そう問い掛けるエドにちょっと考え込んでからロイは答えた。
「―――いや。ヒューズには私だけが会いに行く。君はホテルで休んでいていいよ」
「そう、良かった―――――――正直、もう限界」
枕から顔も上げずにそう言うエドに、ロイは苦笑する。
体力なら、かなりある筈の彼なのに・・・と、思うのだが。
『まぁ、疲れてるのは体じゃなくて、精神的に・・・・・なのだろうな』
コートを羽織ってから、ロイはベットに近づき、するりとエドの頭を撫でた。
「では、行ってくる。いい子にしていたまえよ?」
「頭なでんな!・・・心配しなくても、もう逃げ出す気力もねえよ」
頭だけ動かして、拗ねたようにそういう彼に笑いつつ、ロイは部屋を出ていった。
******
「しかし、あいつを騙すのは、骨が折れそうだな・・・・・」
悪友であり親友であるあの男は、飄々とした雰囲気とは裏腹に、頭の回転が速くとても聡い。
しかも自分を知り尽くしているのが、また厄介だ。
とても簡単に騙されてなどはくれないだろうなと、ロイは眉を寄せた。
「さて、どうしたものか・・・・・」
そう呟きながら、ロイはホテルで用意してくれた車に乗り込むと、夜の街に消えていったのだった。
全然進んでなくて、すみません;
必要ないかなと思いつつも、この連載やたらロイとエドをラブラブさせたくて仕方なくて(笑)
じゃれあってないで、早く次に進みなさいって感じですよねぇ;