二人同時に唖然と見つめられて、エドは少し怯む。


『あれ・・・?』


でも、なんと続けてよいか分からず、エドも困惑気味に二人を見上げた。
三人で押し黙って見詰め合う様は、ハタから見ると――――かなり異様。
しばしの沈黙の後、口を開いたのはリザだった。


「エド君・・・何を言っているの?」
「えっと、だから・・・こんなに反対するのは、中尉が大佐の事を好きだからなんじゃないか・・・と」
「―――知らなかったよ中尉、君が私の事を・・・・・」
「あなたは黙っててください。」

口を挟んだロイをばっさり切り捨てて、リザはソファーに座るエドの前へと進む。
腰を落として、なるべくエドと近い視線にして、彼の肩に両手を置き顔を覗きこんだ。
戸惑ったように見上げてくるエドに、リザは語りかける。


「そんなわけ・・・・・」


そんな訳ないでしょう?
―――そう続けるはずだった言葉を、リザは途中で不自然に切った。
その僅かの間に彼女の考えたこと。それは―――――


『もしかして、ここは頷いておいた方がいいのかしら?』


何をどう騙されたのかは分からないけれど――――――
今、この子が大佐の口車に乗せられているのは明白だわ。
その辺は後で大佐にじっくり説明していただく事にして、まずは少年を救い出すのが先決。
私がここで頷けば、優しいエド君のこと・・・・・この選択を一時無効にするかもしれない。

リザがそう考えをめぐらせている横で、ロイは彼女の横顔を見つめて眉を寄せた。


『中尉・・・・・まさか、捨て身な作戦を?』


確かに彼女は私の為に自分の命をもかけてくれるだろうが、それとこれとは別。
彼女が私に異性として好意をもっているかどうかなど、返事を聞かずとも分かる。
それは、先ほどの切り捨てられ具合から見ても明らかだ。
だが、恋愛に疎いエドワードには良く分からないだろう。
――――今ここで彼女が頷けば、彼はこの計画自体を破棄してしまうかもしれない。
彼のことだ。事情を話して協力・・・などとは、思わないだろう。
慕っている彼女の『想い人』と、仮とはいえ夫婦になるなど良く思わないだろうから。


『マズイな・・・』


ロイは顔を顰め、次のエドの言動を見守る。
三者三様の思惑が交差するなか・・・・・エドはじっとリザを見つめた――――




『理想の結婚』 <その2 ”攻防戦”>・・・9




ロイとリザが心の中で色々と考えをめぐらせている最中、
エドは不自然に言葉を切ったリザに、ショックを受けていた。


『中尉が言いよどむなんて・・・・!』


どんな質問にも、すっきりきっぱり答えてくれる中尉が。


『やっぱり、大佐の事・・・好き、なんだ』


知った事実(本当は事実ではないが)に、エドは唖然として。
でも・・・・・と、思った。

二人が、お互い支え合う大切な者同士だというのは、分かっていた事。
まさか、恋愛感情でなんて思ったこともなかったけど、よくよく考えれば・・・ありえる。
オレから見れば、相手に少々・・・どころじゃないけど、問題アリなのがなんだけど・・・
でも、彼女なら大丈夫だろう。
大佐の浮気性も妻が中尉じゃ発揮できるわけがないし。
大変な男だが・・・中尉なら、添い遂げられるだろうと思う。
・・・・・・だから、彼女が大佐で良いって言うなら、応援してやりたい。


姉のように慕っている中尉――――――幸せになってもらいたい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だけど、今は。


今は、アルフォンスの事がある。

情報うんぬんなどの特典も少しは惜しいが、
それより、今はアルの正体がバレそうだと言う問題がある。
アルのことを疑っているという准将。
・・・・・黙らせるのには、やはり大佐がそいつより上に行くのが手っ取り早い。
もちろん、いずれは大佐も昇進しそいつより上に行ける可能性もあるかもしれないが、
―――――事は急を要する。
大佐が今すぐ昇進するためには、オレとの結婚が必須。
中尉と大佐が結婚したのでは、叶わぬことなのだ―――――


『どうしよう・・・・・中尉に事情を話して、協力してもらおうか?』


『仮』だという事を告白して、とりあえず結婚させてもらって。
それで、表向きはオレが伴侶だけど、後は二人で普通に夫婦生活をおくってもらって・・・・・。
――――――――――そこまで考えてから、エドは首を横に振った。


『中尉に、そんな愛人みたいな生活させる訳にはいかない・・・・・』


確かに、アルの事が露見するという事は、大佐にも害が及ぶかもしれない事態。
事情を話せば、彼女の事・・・・・きっと協力してくれるだろう。

だけど・・・・・・・・・女の人にとって、結婚は特別なものだろう?

その人によるかもしれないが、大抵は愛する人とただ暮らせればいいというものではなく、
純白のウエディングドレスに身を包み、神の前で永遠の愛を誓うのを夢見るものではないだろうか?
――――そして、何よりも皆に祝福された幸福な花嫁になるべきなのだ。
間違っても、仮とは言え既婚者の裏の伴侶となり、世間に認められない花嫁になって良い訳がない。

中尉のためを思えば、この結婚は白紙にするべきだ。
―――――――だけど、それじゃアルフォンスが!

・・・・・・ロイの意見を全く考慮に入れていない考えだが、
(エドからすれば、あんなすばらしい女性を断る男なんか居るわけがないと端から思っている・笑)
勘違いのまま、板ばさみに揺れる心。

そして、答えを出せずに苦しげに俯いてしまったエドを見て、今度はリザが驚いていた。


『エド君、こんなに苦しそうに・・・・・』


・・・・・騙されて、仕方なしに承諾させられた結婚ではなかったのかしら?
今までのエド君の大佐に対する態度を思うと、彼が大佐を愛していたなどとは思えない。
先ほどの二人のやりとりもどこか芝居がかっていたし、絶対何か言いくるめられていると思う。
だからこそ反対していたのだけれど・・・・・・この顔は。

悩むエドの表情に、リザは困惑気味に彼を見つめる。
――――――――――暫らくしてから、エドもリザを見上げた。



「中尉、ごめん。中尉が大佐を好きだったなんて知らなくて・・・オレ、どうしたらいい・・・だろ」



首にかけてあったタオルを外し、それをぎゅっと握り締める―――――

泣きそうな顔で見上げてくる彼に、
『本当に大佐が好きなの?』と真意を問いただそうと彼を顔を改めて覗きこんで。


そして、彼女は一点を見つめ――――――息を呑んだ。


「・・・・・・・・・・・エド君」
「え?あ、あの・・・・・」

厳しい顔になったりザに、エドは思わず怯む。

「あなた・・・・・・・本当に大佐を?」
「え・・・・・・?」
「―――――――――無理やり、なのではない?本当に合意なの?」
「え、あ・・・うん。無理やりでは、ないよ。・・・・・・オレが決めたことだ」

確かに頷くしかない状況だったが、大佐は無理に押し付けた訳じゃない。
結局頷いたのは自分の意思だった。



「・・・・・・・・オレも、大佐が必要なんだ」



中尉にとって大切な人。
でも・・・・・・・大佐との結婚は、今のオレにも必要なことなのだ。

どう決着をつけて良いか分からず、エドは再び黙り込んだ―――――



******



・・・・・たっぷりの沈黙の後、リザは深いため息を吐く。
そして、かがめていた姿勢を戻し、諦めたように笑った。


「あなたがそう言うなら、仕方ないわ。――――反対を撤回します」


どうやら、あくまでも『賛成』とは言いたくないようだ。
それでも――――――彼女らしからぬ回りくどい言い方ではあるが、結婚を了承した。

「え!でも・・・それじゃあ、中尉が・・・・・・!」

それでは、中尉が大佐を諦めるという事だろうか?
苦笑しながらも結婚を了承してくれたリザに、今度はエドが戸惑いながら聞き返す。
焦るエドに、リザは事も無げに返した。

「え?ああ・・・・・・・勘違いしているみたいだけど、
私が女性として大佐に好意を持っているなんて、ありえないから」
「へ!?・・そ、そうなの?」
「あたりまえじゃないの?私はもっと誠実で勤勉で女グセの悪くない人がいいわ」
「・・・・・・・中尉、その言い方はあんまりじゃないか?」

黙って二人のやり取りを見ていたロイだったが、
さすがに『私は君の上官なのだが・・・』と口を出した。

「それは申し訳ありません―――――――――――ですが、大佐」
「な、なんだね?」

『やぶへび』と言う言葉を思い出したロイだったが、後の祭り。
大切に見守っていた少年を奪われた副官殿は、通常より8割増しの氷の視線でロイを見つめた。

「こうなってしまったからにはもう仕方ありませんが・・・・・エド君を大切になさってくださいね」
「・・・・・・それは、もちろんだとも」
「彼の幸せの為、私も及ばずながら協力させていただきます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・協力?」
「彼が泣きを見ないように、最大限に協力させていただきます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最大限・・・・」

顔を引きつらせるロイに背を向け、
エドに『新妻の心得』ならぬ、『ロイのしつけ方』を教授する事を力強く約束するリザであった。



******



「・・・・・・ともかく、とりあえず終わったな」


リザが席を外した執務室で、ロイはぐったりとソファーに身を預けてそう呟いた。
どうやら、リザに言われた事に少々ダメージを受けているらしい彼の隣で、エドは首を傾げていた。


「オレ・・・・・何がなんだかわかんなかったんだけど」


最初は、中尉が大佐を想っていると思わせるような雰囲気だったのに、
何故だか彼女は突然驚いたような顔をしてそれを撤回し、最後には結婚を了承した。

「・・・彼女は最初、君にそう思わせる事でこの結婚話を白紙にさせようと考えていたんだと思うよ」
「えっ!?じゃあ・・・・・何で急に撤回したんだ?」

聞き返すエドを横目でチラリと見つめて・・・・・ロイは呟いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・役に、たったな」
「は?なにが」

きょとんと聞き返すエドに、ロイは意味深に笑った。

「備えあれば、憂いなし」
「・・・・・もっと、はっきり言えよ!!」
「まぁ・・・・・・・女心は変わりやすいということだ。覚えておきたまえ」

誤魔化しの笑顔でそう言うロイに、納得できずにエドは食って掛かるが・・・
リザが書類の山を抱えて入ってきたので、仕方なく彼は宿へと帰っていった。



******



「あ、兄さん帰ってたんだね!お帰り」
「おう。お前もお帰り・・・・」

ペットショップを堪能していたらしい弟は、夜になってからやっと宿に帰ってきた。
帰ってからずっと寝ていたエドは、まだ眠い目を擦りながらも、それに気づいて身を起こす。
タンクトップだけでは肌寒さを感じたらしく、シーツを体に巻き付けてこちらを向く兄に、
アルは矢継ぎ早に色々質問をしだした。

「まずはおめでとう!ところで・・・大総統怒ってなかった?大佐、降格しないで済んだ?」
「ん?ああ・・・怒るどころか、あのおっさん・・・・・ノリノリだった」
「へぇ、話しが分かる人なんだねぇ!ヒューズさんとかには、会った?」
「オレは会ってないけど、大佐が会って話してきたみたいだ。アームストロング少佐にも会ったし」
「そっかー、良かったね。東方司令部の皆にも報告したの?中尉、居なかったけど」
「・・・・・中尉は、今日は出勤してたよ。ちょっと反対されたけど、最後には認めてもらった」

そこまで話したエドだったが・・・・・中尉の名前が出て。
先ほどロイに誤魔化されてうやむやにされたことを思い出して、再びムッと口を尖らせた。
『何が共犯者だ・・・・・あのクソ大佐』
共犯であるはずなのに隠し事され、なんだか面白くない。

むぅ、と・・・眉を寄せるエドに向かいあうように座っていたアルは、
突如機嫌が降下しだした兄を見て、首を傾げた。

「兄さん・・・・・大総統には、問題なく了承してもらえたんだよね?」
「ああ」
「でも・・・・・なんか、うかない顔してるけど?」
「あ?・・・・・・・・・・・・ちょっと、疲れてるからな」
「そう?まぁ、セントラルへ往復してきたんだから、疲れるよね」

アルはそう返しながらも、内心で再び首を傾げる。
『疲れてるっていうより、なんか拗ねてるような・・・・・・・?』
怒ったら暑くなったのか?不機嫌そうにシーツを脱ぎ捨てる兄を見つめたアルだったが。
――――突如、驚いたような声を上げた。

「あっ!」
「・・・・・?なんだ?」
「えっ、いや・・・・・あのっ」
「なんだよ?」

エドが眉を寄せて聞き返すと。
アルは何処かもじもじとしながら、なぜかチラチラとこちらを窺っている。
その様子にますます顔を顰めながら、エドは先ほどより強い口調で聞き返した。

「はっきり言えよ!」
「え・・・っと、あのさ・・・・・・・兄さん、今日も大佐のとこに泊まってきても良いよ?」
「は?」
「離れてるの、寂しいんでしょ?司令部の話が出たら、なんだか拗ねたみたいな顔になってるし・・・
こっちに帰ってからは、あんまり一緒に居れなかったんじゃない?」
「お前、何言って・・・・・」
「僕には気を使わなくていいからさ!そうしなよ、うん!!」

何処か照れたような弟に、上着とコートを渡されたと思ったら・・・・・部屋を追い出されてしまった。

唖然と、閉められてしまったドアを見つめたエドだったが、腹が減っているのに気づき――――
出たついでに食事でもしてこようかと思い立ち、階段を降りる。
だが、階下のレストランに入る直前。
髪がぐちゃぐちゃなのを思い出して、階段下にある洗面所に入った。

―――――――――――そこで、鏡に映った自分を見て、彼は大きく目を見開いた。


「な、なっ・・・・・・!?」


鏡に映っているのは、髪を結んだまま眠ってしまって、凄い頭になってしまっている自分。
・・・・・だが、問題はそこじゃなくて、その下の・・・・・・肩に近い首の辺り。

エドの首に付いていたのは、赤い鬱血―――――――――――いわゆる、キスマーク。

『虫刺され』と言い訳するには涼しいこの時期に、くっきりはっきりついているついていたそれは、
あろうことか・・・・・・・・・・複数、ついていた。


『き、気づかなかっ・・・・・!これ、いったい誰がつけ・・・・・?」


そこまで考えて、考えるまでもないことに気づく。
『備えあれば憂いなし』
執務室で意味深に笑った男の顔が脳内によみがえる―――――

『あのヤロウ〜〜〜!じゃ・・・もしや、中尉があの時驚いた顔をしていたのって!?』

ホテルでは朝の騒動に動揺していて、ろくに鏡も見ずに出てきた。
それゆえ自分では気がつかなかったのだが――――――――
彼女には、執務室で冷汗を拭うために緩めた襟もとからこれが見えたのだ。
・・・だから、『無理やりではないのか?合意なのか?』と厳しい顔で問い詰めたのだろう。
それに対して、自分は『合意だった。彼が必要だ』と・・・・そう返して。
その答えを聞いて、彼女はしぶしぶながらこの結婚を了承してくれた。

その事に気がついて、エドの顔はかぁっっと赤く染まる。

思い返せば、帰ろうと司令部の廊下を歩いていた時、出会った兵士達がじろじろとこちらを見ていた。
ロイの側近達にも、『・・・・・一人身の前であんまりみせつけんなよ?』などと、複雑な顔で言われた。
・・・・・・・アレはどう考えても、これが皆にも見えていたってことで。

その上、アルフォンスに――――まで。



「・・・・・・・・・・・あんの、クソ大佐〜〜〜〜〜〜!!!」



エドはそう叫ぶと、凄い勢いで夜の街に走り出ていった。



******



「起きろ、クソ大佐!!」


今は、まだロイが眠るには早い・・・いうなればお子様のお休み時間。
だが、さすがのロイもセントラルから帰ってからの書類攻撃に疲労困憊だったようで、
すでにベットに入って寝息を立てはじめたところだった。

うとうとと気持ち良くまどろんだ辺りの不法侵入者に、ロイは不機嫌そうに薄目を開ける。
――――そこには、ロイの枕もとに立ち、怒りの形相で怒鳴りつけてくる婚約者が立っていた。

「なんだね・・・・・君は。折角気持ち良く寝ていたのに」

髪をかきあげながら、軽く睨んで見るが・・・
どうやら怒りに燃えているらしいエドは怯むことなく、反対に睨み返してきた。
仕方なく、ロイは億劫そうに上体を起こした。

「てめぇ、どういう了見だ!!」
「なにがだね?」
「これだよっ!」

襟の留め具を外し彼が指差した先には、赤い痕――――ホテルでつけておいた、キスマーク。
『なるほど、アレか・・・・・』
ロイはあくびをかみ殺しながら、答えた。

「何か、問題が?」
「なにかって・・・・・!」
「役に、たっただろう?」

それがなければ、中尉を納得させるのは難しかったのではないかね?
しれっとそう言われ、うっと言葉に詰まる。
だが、確かにそうかもしれないが・・・・だからってこんな事を許せる訳がない!!

「そ、それはそうかもしれないけど・・・・・でも、黙って勝手にこんなもんつけられるのは!」
「ならば・・・・・・・・・君に断りを入れてからの方がよかったかい?」
「へ・・・?うわっ!?」

逆に問い返された言葉に彼を見つめると、一瞬の隙を突かれて腕を強く引かれ、
エドはロイのベットに倒れこんだ。
うつぶせに倒れこんでしまった体を捻り、体勢を変えようと仰向けになった途端
・・・圧し掛かるように抑えつけられる、体。


「おいっ、てめぇいきなり何を・・・・・!」


自分の上に乗っかる男を見上げると、ずいっと目の前に漆黒の瞳が迫ってきた。
そのあまりの近さに息を呑むと・・・・・間近で響く、低音。

「・・・・・・・・君にことわってからつけたほうが良かったか?
君の意識のあるうちに、君の目の前で――――――――こんなふうに?」

言うと同時に、黒髪が顔に触れるのを感じる。
そして、首筋にかかる―――――――吐息。
かあっと顔が火照って、頭の中が真っ白になりそうになる。


「起きている時の方が、いいんだろう?」


耳元で聞こえた意地悪な声に、たまらずエドは叫んだ。



「大佐っ、やめっ・・・・・・これなら、寝てる時の方がまだましだっ!!」



叫んで、ぎゅっと目を瞑る。
だが・・・・・何の感触もないまま離れて行く体温を感じて、エドは恐る恐る目を開けた。

目の前には、先ほどより少しだけ身を離し、不機嫌そうにこちらを見るロイの姿。

「・・・・・・・そういう事だ。私の選択は間違ってなかっただろう?」
「うっ・・・」

言い負かされて、悔しげに言葉を詰まらせるエドの上で、ロイは再びあくびを一つ。

「とにかく、この話はこれで終わりだ。・・・私は眠い」
「わかったよっ!・・・・・・ちょっとどけ、オレは帰る!!」

悔しそうにそう言うエドをちらりと見て、ロイは提案する。

「泊まって行けば良いだろう?婚約者なのだし」
「誰がこんな性格の悪い男のとこなんかっ!!」
「今帰るとアルフォンスに喧嘩したのかと疑われるだろう?・・・書斎の本、読んでもかまわないから」
「マジっ!?なら、泊まってく!!」

コロリを変えたエドを解放してやり。
書斎の場所を教えると、彼は早速とばかりに部屋から出ていった。




「・・・・・・ったく、騒がしい」


それを見送り、ロイはため息をつきつつ、シーツを引き寄せ、目を瞑る。

『やはり怒られたか』

だが、鋼の腕で殴られるは回避できて良かった・・・・・と。またあくび。

キスマークをつけたのは、エドの寝言への腹いせと、後で役立つかもしれないと思ったから。
だが・・・・・・・・・・実を言うと、一つだけのつもりだった。
それなのに、複数つけたのは―――――



『やってみたら、なんだか楽しくてやめられなくなったから。
・・・・・・・・・・なんて言ったら、君はますます怒るだろうなぁ』



またうとうとと眠りの中に入りながら、ぼんやりとそんな事を考えつつ・・・・・あくび。


『それにしても、眠い・・・・・・』


ホテルでは枕が替わったせいか、良く眠れなかった。
軍人たる自分。いままではこんなことはなかったのに?

その不可解さに首を捻りつつ――――――今度こそ、眠りに落ちるロイだった。




やっと『攻防戦』終わりです!長かった・・・・・;
次回から、結婚式のお話に行きたいと思います。


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