上官の冷えた視線に、ダラダラと嫌な汗を掻きつつ、ハボックは敬礼をした。


「も、もちろんであります!先ほど、大総統閣下から荷物が届きましてっ」


急ぎお持ちしたしだいであります!
どこか裏返った声でいつもは使わぬ口調を使い、ハボックは叫ぶようにそう言いきった。
しかし、当の上官殿の冷たい視線は緩まない。
それを察して一同が更に冷や汗を流す中・・・ロイは二言目の言葉を紡ぐべく口を開きかける、が。
ロイより一瞬先に響く、声・・・・・・・その主は、ロイの腕の中のエドワード。


「大総統から・・・?つーか、何でアルまで」


ロイの腕の中におさまったまま首を傾げる兄に、アルはしどろもどろながら返事を返した。

「あ、あはは・・・宿に帰ったら兄さんが居なかったからここに来たんだけど・・・。
折角司令部に来たんだから、義兄さんにも挨拶しようと思って。
で、皆と一緒にここにきたんだけど・・・・・・・・・・その〜、邪魔して・・・ゴメン」
「は?邪魔って・・・・・うわっ!?」

チラチラとこちらを見ながら、申し訳なさそうに身を小さくする弟の言葉を聞いて・・・
エドは、やっと自分の今の状況を思い出す。
慌ててロイを突き飛ばすようにしてその腕の中から逃れたエドは、
真っ赤になりながらも、すごい勢いで弁明し出した。

「ち、ちがっ!アル、違うんだよ!?
お、お兄ちゃんは別にこんなとこで不埒な行為をしていた訳では決してなくって!!」
「そうだとも。不埒なことではなく、二人の愛を確かめ合っていただけなんだよ?」
「ばっ!・・・・・・・・・・アンタは余計な事いうなっ!!」
「いや、余計なことではなく、真実をね・・・・・」
「だからっ、もう口を開くなっ!!」

湯気が出そうなほど赤くなりながら、手でロイの口を塞ぎに掛かる。
身長差があり塞ぎ切れなくて悪戦苦闘するエドを、ロイは楽しげに見下ろしながらなおも喋る。

「・・・私の口を塞ぎたかったら、手の平なんかより唇で塞いでくれた方が効果的だと・・・」
「わーっ、わーっ!!も、頼むから・・・・ホント、しゃべんなっ!!」

『演技でやっているとはいえ、弟の前でこれ以上はいたたまれない!!』
そう心の中で叫びつつ、涙目で背伸びしてなんとか口を塞ごうとするエドと。
そんな彼に楽しそうに笑いかけながら、さりげなくまた腰を抱き寄せるロイ。
複雑な表情で見つめるその他一同。
―――――そんな中、アルはまた申し訳なさそうに呟く。


「ホント、お邪魔してすみません・・・・・・・」


恥ずかしがって大騒ぎしているのは兄なのだが、ここに居るのがいたたまれないのは、自分も同じ。




『理想の結婚』 <その3 ”結婚式”>・・・2




「ん・・・この箱は君宛だな?」
「え?あ・・・ほんとだ」

一通り騒動が収まった後。
部下たちは『さっさと仕事に戻らんか!』と追い出し、執務室にはロイ・エド・アルの三人が残った。
『僕も宿に帰りますからっ』と慌てるアルを『遠慮はいらない』と引きとめたのは、ロイ。
・・・・・落ち着きを取り戻したエドが『ぶん殴りてぇ』という目で睨み出したからだ。

三人でソファーに座り、談笑しながら(エドは未だに睨んだままだが)届いたばかりの荷物の封を解く。
その箱は厚みこそ十数センチほどだがサイズが大きく・・・平べったく大きな物だった。
自分宛になっていたのだが、包み紙を開いて出てきた白い箱にはエドワードの名前。
箱の上にあった普段軍で使用する茶封書はロイ宛だったのでそれを取り、箱は彼に渡す。
封書を開いて中の手紙を確認しようとしていると、突然隣から絶叫が聞こえた。


「な、ななな、なん〜〜〜〜〜〜〜!?」


訝しげにロイはエドを振向き、呆然と目を見開いている彼の表情を見て、箱に視線を移す。
そして――――

「・・・・・・・・・ほう、これは」
「すごい!兄さん・・・きれいだねぇ!」
「・・・・・・・・・・ど、どうしてオレにこんなものが!?」

三人の目の前の箱の中には、純白のレースやらパールやら、フリルやらが詰まっている。
―――もとい、それらがついた『服』が入っていた。
・・・・・・・・それは、どう見てもドレスで。
エドはわなわなと震えた後、ごくりと唾を呑みこみ・・・意を決したようにソレに手をかけた。

「も、もしや・・・・・やたら派手なタキシードってことも・・・・・・・・」

一縷の望みをかけ、そおっと引っ張り出して持ち上げるが、
ひらりと広がったシルエットは、現実逃避する余地もないほど完璧にドレスの形をしていて。
しかも、同じく純白のベールもセットになっていると言う事は、ウエディングドレスで間違いないだろう。
僅かな望みを断たれたエドは、ヘナヘナと力なく床に崩れ落ちた。

「大丈夫か?」

苦笑を浮かべたロイに手を貸してもらいながら何とか立ちあがったエドに、アルが何かを差し出す。
それは、白い封筒で。

「これ、箱の底に入ってたんだけど・・・・・・」
「え?」

弟の手から引っ手繰るようにそれを受け取り、バリバリと封筒を破いて開ける。
中から出てきたのは、金箔でふちどられた白いカード。
そこには、書いた者の豪胆さが分かるような力強く、しかも流麗な文字が並んでいた。
その文面は―――――



≪約束通り祝いを贈らせてもらう、当日の晴れ姿を楽しみにしているよ。  キング・ブラッドレイ≫



固まって動かないエドの横から文面を盗み見て、ロイが思い出したように呟いた。

「そう言えば・・・閣下は君に祝いを下さるといっていたな。・・・それがこれか」
「へぇ、大総統閣下がですか?」
「ああ、そうなんだ。先日婚約の報告に行った時に、祝いを下さると約束してくださったのだが・・・
まさか、ウエディングドレスとは思わなかったなぁ。良くこんな短期間に用意できたものだ。
でもさすが閣下からの賜り物、極上品だな。・・・これなら私のエディにも相応しい」

ひとごとなロイとアルは、にこやかにそんな会話を交わしている。
そんな二人の横で、死刑宣告でも受けたように顔色を悪くしていたエドだったが・・・・・
突如、ぶち切れたように叫んだ。



「何が祝いだっ!あの、クソオヤジ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」



バリバリとカードを破り捨てて、靴底で踏みにじる。
次にウエディングドレスに手を伸ばしたエドだったが――――届く寸前横から奪われた。

「ダメだよ、兄さん!!こんなに綺麗なのに破こうとするなんて!」
「くっ・・・返せ、アル!!こんなもんオレが着れる訳ねぇだろ!?」
「ドレスに罪はないでしょ?折角大総統がくれたんだし・・・・・」
「なんだと!?お前、あのクソオヤジの肩を持つのか!?
お前は、兄がこんな情けない格好で晒し者になっても平気なのか!!」
「・・・・・・・僕、兄さんは似合うと思う」
「なっ!(絶句)・・・・・・ア〜〜〜〜〜〜ル〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

エドが怒りの矛先をドレスから弟に変えて、拳を繰り出そうとした時。
突然背後から腕が伸びてきて、エドの体は後ろからふわりと抱きしめられた。


「エディ・・・・・・・・・・そんなに嫌なのかい?」


聞こえてきたのは、魅惑の低音。
ぎょっとして首だけ振りかえると、自分を抱きしめている男の顔が見えた。
・・・・・・一瞬悲しげな顔・・・に見えるが、眼の奥に意地悪な光が見える。
エドはにわかに顔色を変えて身をよじった。

「ちょっ、バカ、なにすんっ・・・・・」
「どうしても嫌か?」
「い、嫌に決まってじゃねえかっ!!こんなひらひらの・・・っ」
「どうしても嫌だというなら仕方ないが・・・・・・でも、私もこれを着た君の姿が見たい」

じたばたと暴れて逃れようとするが、ロイは決して離してくれなくて。
『ヤバイ・・・・・!きっとこの後”アレ”がっ!!』
次に出されるだろう『この男の武器』を察知して、エドは身構える。
その『期待』に応えるように、ロイは後ろからエドの耳元に唇を寄せた。



「エディ、お願いだ・・・・・私の為に、着て欲しい」



ホワイト・アウト。

唇が僅かに耳に触れる状態で耳内に直接吹き込まれた、その言葉に・・・・・
身構えていたのにも関わらず、エドの脳内は目の前の純白のドレスよりも更に真っ白状態に。
普段より威力のあるその強力技の炸裂に、しばし放心。
―――――そして、エドの眼前に色のついた映像が戻った時、最初に見えたのは・・・青。
同時に聴力も戻り、ロイが自分に話し掛ける声が聞こえた。


「嬉しいよエディ!アルフォンス、エディが了承してくれたよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・・え?」
「良かったですね!・・・・・・・嘘じゃなく、絶対似合うから!兄さん♪」


ところで・・・・・・もう、そっち向いてもいい?


おずおずと言ったアルの言葉に、焦点が合い出した瞳を声の方に向けると・・・そこには弟の後姿。
意味がわからず、頭を上に動かすと・・・・・間近に、憎たらしい笑顔。

「ん、どうした?そんなに見つめて・・・キスのおねだりかな?」

でも、それは後にしたほうがよくないかい?アルフォンスが困っているよ。
―――クスリと笑われ、今度こそ完全に頭が覚醒する。


「ばっ、何言って!!・・・そもそも、何でこんなに近くアンタの顔がっ・・・・・・え?」


――――そして、やっと気がつく事実。
また、あのマジカルボイスにやられて朦朧としてしまい・・・
良い悪いの判断のつかぬ頭で返事をさせられ、
あまつさえ、その後膝の上に横抱きに座らせられて、抱かれていたのに気がついて。
エドの喉から出たのは――――――――――――またしても、絶叫だった。

「ぎゃ〜〜〜〜〜〜!!は、離せ!ア、アル・・・違うんだ!お、お兄ちゃんは別に不埒なことはっ」
「そうだとも。不埒な事ではなく、愛を深め合っていただけ・・・・・・・」
「だからっ、もう余計なことは言うな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!(泣)」



「・・・・・・・・うん、分かった。とりあえずもう少し後ろ向いてるよ」



やっぱり、さっき無理やりにでも少尉達と退出すればよかった・・・・・
再びいたたまれない思いを味わいながら、ちょっと後悔する弟だった。




久々の更新です!!(間が大空きしちゃってすみません;)
また、頑張って更新していきたいと思います♪
エド、ますますロイの声に弱くなってます・・・・・・耐性は未だつかないようです(笑)


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