厳粛な空気の中、バージンロードをアルフォンスの腕につかまって進む。
神聖なるこの場所の、誰もがまっさらな気持ちになるだろうこの絨毯の上。
だが、その上を歩いているオレが感じているのは――――背徳感。
それは神へ感じているのではない。
・・・偽りのこの儀式を、心から祝福してくれている弟や仲間へ感じているのだ。
「兄さん・・・幸せになってね。ロイ義兄さん、よろしくお願いします」
オレの腕を放した後、弟の肩が震えた。
鎧の体からは、涙など流れはしない・・・・・だが、オレには泣いていると分かった。
『ごめん・・・・・・アル』
これが本物であれば、すまないと思う気持ちと共に、幸せも感じることが出来るだろう。
アルの涙が、悲しみだけの涙ではないと・・・わかるから。
―――――――だが、これは偽り。
・・・弟の流れぬ涙が、痛い。
『理想の結婚』
<その3 ”結婚式”>・・・6
今度はロイと共に同じ絨毯の上を進む。
彼の腕へつかまった指先が、冷たくなっていくのを感じた。
胸に広がるのは、幸せではなく―――――罪悪感。
エドは、歩きながらぎゅっと目を閉じた。
『ごめん・・・・・・な』
その時、冷えた指先に何か温かいものが触れた。
目を開けると―――ロイの腕につかまったオレの指先に、白い手袋をした手が重ねられていた。
男の顔を見上げる―――
ロイはこちらを視線を向けると、柔らかく微笑んだ。
それは―――まるで安心させようとするような、優しい微笑み。
同時に、重ねられた指に・・・少し力が加わったのが分かった。
『・・・ベール、つけてるのに』
何で、オレの不安がこの男には分かるんだろう――――?
なんか、悔しい。
悔しいけど・・・・・お陰で、縮こまった体から少し力が抜けた。
力を取り戻した足で、また進む。
『・・・共犯なんだから、罪悪感も半分コでいいよな?』
罪悪感の半分をロイに押し付けることに決めたら、気持ちが軽くなった。
そして、祭壇の前で歩みを止めたエドは、真っ直ぐに十字架をみつめた――――
******
先ほどとはうってかわって―――リラックスした気持ちで、前を向いて立った。
静かな教会内に響く・・・牧師の言葉が、耳の中を通り過ぎていく。
元々、あまりっていうか・・・全然、信者じゃないし。
嘘っこウエディングなので、感動してその言葉に聞き入る・・・という気にもなれない。
『あ・・・でも、この牧師の声のトーン、なんか心地良いなぁ。』
枕元で本でも読んでもらったら、速攻寝そうだ。・・・クソ大佐も、こんな声ならよかったのに。
何でアイツ、あんな物騒な声してやがんだ?アレのせいで、どれだけ辛酸を舐めさせられたことか!
・・・・・チクショウ、思い出したら腹立ってきた!!
結婚して一緒に暮し始めたら、一発間違った振りでもして喉仏つぶしてやろうか!?
いや、それ・・・・・・加減を間違ったら、死ぬな。・・・そりゃ、流石にマズイ。
―――声が悪くなるクスリとか、売ってないかな〜〜〜〜〜?
・・・そんなことを考えていたら、ついつい黒いオーラが出そうになった。
いかんいかん・・・いくら信じてないとはいえ、神前でブラックオーラはマズイだろ。
平常心を――――と、軽く息を吸ったとき、隣からロイの声が聞こえた。
「誓います」
お、いつの間にか誓の言葉になってたのか。
んじゃ、次はオレの番だよな?
――――そう思っていると、程なく牧師がお決まりの文句を言ってこちらを見た。
「・・・・・誓います」
声が少し小さくなったのは、もちろんはにかんでいるのでも、感激に声を詰まらせているのでもない。
ワリきったといっても、どうにも不本意で――――声がぶすくれそうだったから。
だが、そんな声色を参列者に聞きとがめられる訳にはいかないので、牧師に聞こえる程度の小さい声にしておいた。
「それでは、指輪の交換を」
差し出された指輪はシンプルなもの―――それをみて、心底ホッとした。
選んでいた時は、あまりに居た堪れなさにモーローとして、肝心のブツを見ていなかった。
・・・あの婚約指輪のようなハデなのを寄越されないで、本当によかった!
だって、婚約指輪と違い、結婚指輪は常に身につけなければいけない物だろう?
正直、全くはめたくはないのだが・・・ラブラブ設定なんだから、セントラルにいるときぐらいは身につけろとか言われるに違いないし。
それでも、あんまり女くさいデザインだったら断然抗議する所だったが、男がしても不自然じゃない品だった。
これなら、嵌めてても大丈夫!
・・・・・あれ、指?・・・練成の時マズくないかなぁ、これ?
そんな事を考えらながら――――交換終了。
ココは、ぐっと来る場面なそうだが・・・少しは、感動したような演技をするべきだったか?
まぁいいか、どうせ顔、ベールで隠れてるしな?
『えっと、これで終了―――――かな?』
んで、後は外に出てブーケを投げて、ライスシャワーくぐって、皆に挨拶してー。
エドは、昔故郷で見た結婚式を思い出しながら、次の手順を考える。
――――だが、儀式はまだ終わってはいなかった。
「では、誓いのキスを」
あ、まだ残ってたのか。
んーと、誓いのキスってのはどんなだったっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ハタ、と。エドの思考が一時停止する。
『キ・・・・・・ス?』
その意味を理解した途端―――エドはすうっ・・・と、血の気が下がるのを感じた。
めめめ、めんもくありません!また長くなってきたので一旦切らせてください〜(涙)
あああ、ホント嘘吐きだ。(激汗)
『後○回で終わり』とか、言わなきゃいいんだよね・・・いや、書いたときは終われると本気で思ってんですけどね(遠い目)
ところで、夫婦になって初めての作業が『罪悪感の半分コ』ですか?(笑)いや、まだ式の途中だから夫婦じゃないか。