ロイエド一年間・・・・『1月・・・また新しい一年が・1』



「あ、中尉?オレ!!新年おめでとう!!」


宿の電話を借りて――――エドは元気な声で電話口に話し掛けた。
電話の相手は、ホークアイ中尉。

イーストを出てからひと月経ち、1月も、もう数日で終わり・・・と言う頃、
エドはやっと彼女宛に電話をかけることにした。
東方司令部にはしばらく近づかないと心に決めたエドだったが、
自分の相談に乗ってくれ、心配してくれる彼女だけには連絡をすると約束していたから。
―――本当は、手紙にしようかと思っていたのだが・・・・・どうにも筆不精の自分。
便箋の前で一晩中うなってみたものの、3行しかかけず・・・諦めて電話にすることにしたのだ。
司令部に電話をするのは緊張するのだが、姉のような彼女の声を聞くのはエドにとっても嬉しい事。
だが、ロイにバレると困るので、『鋼の錬金術師』ではなく『リザの親戚』と偽って電話口に呼び出していた。

「・・・つっても、もう一月も終わりだけどな。
明日にでも西方に行こうと思ってるんだ、だからその前にのびのびになってた新年の挨拶だけでもと思って。
え?うん、大丈夫元気だよ!!無茶なんてして無いって!
食事もちゃんと摂ってるから。ここの宿屋の女将さん・・・料理上手いんだぜ!!
ちゃんと料理修行してきたとかで、デザートだって手が混んでるし、オレにも優しくしてくれ―――」

そこまで話してから、エドは言葉を途切れさせた。


『もしもし?エドワード君?』


そのまましばし意識を飛ばしたようにぼーっとしていたエドだったが、
リザに電話口から呼びかけられ、ハッとしたように受話器を握りなおした。

「ご、ごめん・・・大丈夫。うん・・・本当に元気だから心配しないで!うん―――あ、アルにも代わるな!」

エドは近くに居た弟を呼ぶと、受話器を渡す。
そのまま部屋に引き上げていく姉の後姿を見送ってから、アルは話し始めた。

「お久し振りです、中尉」
『元気そうね、アル君。ところで・・・今、エド君の様子がちょっとおかしかったんだけど、何かあった?』
「・・・さっき、電話している横を新しい宿泊客らしき人が通っていったんですよ」
『宿泊客?』
「若い―――――黒髪の男性です」
『・・・そう』

ため息と共に告げられたアルの言葉に、そうひと言だけ答えると、リザも眉を寄せたのだった。



******



「あれ?兄さん・・・もう帰ってきたんだ」


先月、リゼンブールにて―――――――
ロックベル家の家の前で薪割りをしていたアルは、此方に歩いてくる姉の姿を見つけて呟いた。

『一緒にクリスマス・イブを過ごそう』

そう、大佐に誘われていた姉。
付き合ってはいないものの、大佐は姉を愛してると公言して憚らないし、
いつも憎まれ口ばかり返してはいるが――――姉もあの人を意識しているのがありありで。
そんな二人の仲を応援してやるつもりで、イーストシティに姉一人を置いて自分はリゼンブールに帰ってきた。
さぞや楽しい夜をすごしたであろうから、少しからかってやるつもりでアルは帰ったばかりの姉に声をかけた。

「兄さん、シティのクリスマスはどうだった?大佐のことだから、すごいレストランを予約してたんでしょ?」

そう言って反応を待ったアルだったが、姉は答えを返すことも、照れて暴れることもしない。
俯き加減の顔を覗いてみると――――――暗い顔。

「兄さん・・・・・何かあったの?」
「――――食事は大佐とじゃなく、中尉と食べた。中尉の焼いたケーキ、すごく美味しかったよ」
「え!?なんで?大佐――――――忙しかったの?」

驚いてそう聞くと、エドは顔を上げて此方を見上げてきた。


「アル・・・・・オレさ、しばらくイーストシティには行かないようにしたいと思うんだ」


姉の言葉にしばし呆然としたアルだったが、我に返って焦ったように聞き返す。

「えっ・・・・・なんで?大佐と喧嘩でも、した?」
「いや。ただ、行きたくないだけ。・・・ほら、まだ他にも調べていないとこいっぱいあるし、いいだろ?」
「まぁ、それはいいんだけど・・・・・」
「んじゃ、明後日にでも出かけようぜ。――――南方に石の噂があったから、そこに行こう」

疲れたから、寝る。
そう言って会話を強引に終わらせると、エドはロックベル家の玄関ドアに消えていった。

予想外の展開に呆然とするアル。
どうしようか・・・大佐に電話して訳を聞いてみようか?―――そう考え出した時、
ウィンリィがこちらに走ってきた。

「ウィンリィ?」
「アル、アンタに電話!・・・リザさんから」
「リザ・・・?中尉!?」
「しっ!!エドには内緒でアンタを呼んでって言われたのよ!」

その言葉に、慌てて口を押えて頷くと、小走りでアルは家の中に入っていった。



******



――――電話でリザに事の顛末を聞いたアルは、ガックリと肩を落とした。


「まさか、そんなことになっているなんて・・・やっぱり離れなきゃ良かった」


『自分が近くにいたら少しはフォローしてやれたのに』と落ち込むアルに
電話口からリザの慰めの言葉が届く。

『あなたのせいじゃないわ。ただ、エド君が少し心配ね・・・・・。
―――エド君にも私には連絡くれるように言っておいたけれど、あなたも連絡くれないかしら?』

確かにエドも連絡をくれると約束してくれたが、心配をかけたくないと元気な振りをするに違いない。
正確な状況をあなたから報告してほしい――――そう言うリザに、アルは頷いた。

「分りました。その方が僕も安心ですし、相談したいことも出てくると思いますから、是非お願いします」

そうして、リザとアルはエドに内緒でこっそりと連絡を取り合うことになったのだった。



******



「兄さん、僕の前では元気な振りはしているんですけど、時々ぼーっと外を眺めたりしてるんです。
そして、さっきみたいに黒髪の・・・大佐と似た容姿の人を見ると、変になっちゃって。
大佐じゃないと分ると、すごく辛そうな顔をするんです。・・・見てるこっちまで辛くて」
『そう・・・・・・・やっぱり、彼女・・・大佐が好きなのね』
「間違いないと思います。ただ、自分ではまだ認められないみたいですね」

そっちはどうですか?そう聞かれて、リザは苦笑した。

「あの人は大人だから・・・彼女みたいにはならないけれど、やはりかなり落ち込んでいるわ」

いつも攻めの姿勢のあの男。
恋愛事は総じてスマートに進めているようだが、やはり押しは強く・・・たまに強引とも取れるアプローチも。
だからといって失敗することもなく―――そんな時も、相手に嫌われるどころか必ず落としてきた。
だが、そんな彼も今回は勝手が違うようで。
・・・いつものように無理にエドワードの居場所を確認したり、呼び戻したりせず、大人しくしている。
どうやら、自分の存在が彼女を苦しめていると悟って、珍しく苦悩しているようだ。


かといって、諦めた様子は微塵もない。


今は待ちの姿勢に徹して、事態を好転させるチャンスを探っている・・・というところか?
落ち込んでヘタレることもなく、ただ静かに淡々と業務をこなしている。
エドのように時折切なげな瞳で窓の外を眺めてはいるが、仕事を滞らせることもなくて、リザとしては助かっていた。

『でも・・・・・いつまでこの状況が保たれるか、少し不安ね。
もしかして、そのうち開きなおって――――――強引に彼女を追い詰めだすかもしれない』

何てったって、無駄にご自分に自信がある方だから。
ため息混じりにそう言うリザに、アルは思わず笑った。

「いっそ、その方がいいんじゃないですか?
――――姉さんの自覚を待ってたら、いったいいつまでかかるか分ったもんじゃないですし」
『でも、こじれる可能性も大よ?それに、彼女が傷つくかもしれない事態はなるべく回避したいわ』
「それは、そうですね・・・・・でも、どうしましょう?
このままな状況が続いちゃうと、兄さん・・・いろいろと危険なんですよ。
この前も黒髪の人をぼーっとみてたら、電柱におでこぶつけそうになったし、
視線に気付いたその男の人に、あやしげな目で口説かれたりしてたし・・・
あ、本人カラまれたと思って暴れてましたけどね」

大佐の事に気持ちが半分持っていかれてしまっている姉は、前にも増してトラブルメーカーで、
益々目が離せなくなってしまったのだと、アルはため息を吐いた。

『そうなの・・・・・しばらく見守っておこうと思ったけれど、やはり何か手を打った方がいいかしらね?
でも、この頃こっち、ちょっと立てこんでいて―――――少し待ってくれるかしら?』
「なにかあったんですか?」
『この頃シティのあちらこちらで爆発騒ぎがあるのよ・・・
小規模なものばかりで今のところ怪我人もないけれど、テロか愉快犯かもまだ分っていないの。
ただこのまま続くと軍の面目丸つぶれだし、批判も大きくなってくるから、早急に対処しなきゃなの」

それで、大佐も色々と忙しいし、今は二人の為に何か仕掛ける訳にもいかないわ。
申し訳なさそうに言うリザに、アルは慌てたように声をかけた。

「え、そうなんですか!?もちろん、そんな時に無理していただかなくていいですから!
こっちは僕がフォローしておくから大丈夫です!」

でも、爆発騒ぎなんて危ないなぁ・・・中尉も気をつけてくださいね?
心配げにそう聞くと、『大丈夫よ』と言う凛とした声が返ってきた。
そして、また連絡を取り合うことを約束して、アルは受話器を置いたのだった。



******



「アル?――――長かったな?」

部屋に戻ると、本を読んでいたエドが顔を上げた。
本を読んでいたのにも関わらず、こんなに簡単に自分が戻ったのに気がつくとは・・・・・
やはり、どうにもいろいろと姉は集中出来なくなっているようだ。
内心でため息をつきつつも、アルはそんなことはおくびにも出さずに明るい声で返した。

「うん、中尉とブラックハヤテ号の話で盛り上がっちゃって!それに―――」
「それに?」
「え・・・・っと、西方に行ったら何か中尉にお土産買おうと思って、好きなものとか聞いてたから」
「あ、そうだな!いつも世話になってるし・・・・・でも、今度行くの、山奥だぞ?買う所あるかな?」
「そ、そうだね。でもさ、すぐじゃなくてもいいんだし、街に出たときとか?いい物見つけたら買えばいいよ」
「そうだな〜」

何がいいかな〜、食べ物かな?アクセサリーとかもいいかも・・・
そんな風に笑う姉にホッとして、アルは小さく息を吐いた。

『危ない、危ない・・・余計なこと言う所だったよ〜。
イーストシティで爆発騒ぎなんて聞いたら、益々心配で悩んじゃうかもしんないしね。内緒にしとこう』

アルは内心でそんなことを考えながらも、
『バレッタとかは?西方には綺麗な色の焼き物でそういうのを作ってくれるって聞いたよ?』
などと、明るい声で姉に返したのだった。



『1月・・・また新しい一年が・1』




ず、ずいぶんと間が空いてしまって申し訳ないです(汗)
ひと月経っても、お互いに浮上できていない様子・・・
早く会わせてあげたいですねぇ(人事みたいに)
丁度月が合ったことですし、ひと月にお題ひと月分更新していきたいなと。(あくまで、希望;)



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