ロイエド一年間・・・・『1月・・・また新しい一年が・2』



「ああ、中尉。丁度いいところに・・・・・これを持って行ってくれないか?」
「・・・はい」


電話の後、リザが執務室に入室すると、ロイは書類の束を差し出した。
普段は溜めまくって巨塔を作っている書類。
だが、今はその影は見当たらず、今しがた差し出した書類が最後なのが窺える。
いつもなら手放しで喜ぶ筈の最後の書類を、リザは酷く複雑な心境で受け取った。
なぜなら、これはエドが姿を消してからひと月もの間、ロイが淡々と業務をこなしてきた成果なので、
何か裏があるような気がして、どうにも気分がスッキリしないのだ。
そんな複雑な思いをとりあえず胸に押し込めて、リザは退室しようとロイに背を向けようとした。

その時――――

「そう言えば、中尉」
「はい?」
「―――――――あの子は、元気だったかね?」


今の電話・・・・・彼女だったんだろう?


「!?」

そう言ってこちらを見つめるロイに、リザは驚きに目を見開いて―――
そして、次にスッと目を細めた。
睨まれて、ロイは苦笑したように、付け加える。

「そう睨まないでくれたまえ・・・・・・・別に、盗聴していた訳ではないよ?」

もしや、この部屋の電話で電話内容を盗み聞きしていたのか?と、睨みつけたリザは、
即座に否定されて、でも疑わしげな表情のままじっとロイを見つめた。
刺さる視線に益々にが笑いしながら、ロイは綺麗になった机の上に肘をつき、手の甲に顎をのせた。

「先ほど、書類が出来上がったから君を呼ぼうと思ったんだが・・・・・・
通り掛かったヒュリーが、君は『親戚の女の子』からの電話を受けていると言っていたんだ」

君に、ここに電話をかけて来るような親戚、しかも女の子などいたかな・・・と考えてね。
『ああ・・・彼女か』と思った。
そう言って、ロイ一度目を伏せてから、もう一度じっと彼女を見つめた。


「あの子、だったんだろう?」


今度は、確認するように強い視線で聞かれて、リザはため息を吐いた。
『どうやら誤魔化しは効かないようね』―――そう思いつつもリザは肯定の返事はせず、ただひと言返した。

「・・・・・『あの子』は、元気でした」

その答えに、ロイはフ・・・・・と、笑いの形に表情を緩めた。

「そうか・・・・・因みに、電話は今日が初めてかい?」
「・・・はい」
「ふむ。ここに電話をかけて来れるくらいの心境まで回復したと言うことか・・・・ならば」


そろそろ、いいかな。


続けられた言葉に、リザはギョッとした。
なぜなら、今まで静かに淡々と業務だけこなしていた男の瞳に、狩りをする黒豹のような光が見えたからだ。

「―――なにをなさる気です?」
「なにも?――――ただ、少し休暇をもらえないかな。この頃働き過ぎでね・・・・・疲れたんだ」

書類も『丁度』片付いていることだしね?
綺麗になった机の上を、人差し指でコツリと叩いてみせる男に、リザの表情が忌々しげに歪む。
やはり、嫌な予感は当たった。
先ほどアルと『此方でそのうち再会をお膳立てしようか』と話し合ってはいたが、
この男が、そんなものを大人しく待っている訳なかったのだ。

『どうしようかしら』

確かに彼女はこの人を好きみたいだけれど・・・
弟の為にその気持ちを封印しようと必死になっている彼女に、今会わせてもいいものだろうか?
先ほどまでは『もう一度何とか会わせてあげよう』という気持ちにはなっていたけれど、
こんな獲物を狩るような目をされては、彼女をまた追い詰めてしまうのでは・・・と心配になる。

「大佐、もう少しだけ――――――」

待ってはいただけませんか?
そう続けようとした言葉は、突然の強いノックの音で途切れた。
ロイの許可と共に、ファルマンが飛び込んでくる。

「また、爆発がありました。規模は前回と同じ小さなものです」

その言葉に、忌々しげにロイの顔が歪む。
一週間程治まっていたこの事件は、どうやら終わりではなかったようだ。

「死傷者は?」
「でていません。ゴミ箱がひとつ吹っ飛んだだけです・・・・・ただ」
「ただ?」
「爆弾を仕掛ける場所と周期に法則みたいなものが感じられました」
「では、次の予測が付きそうだということか?」
「はい」

厳しい顔で見つめるロイに、ファルマンは頷いた。

幹部を招集してくれ。
その言葉に、ファルマンが敬礼をして出て行く。
それを見送ってから、リザはロイを振り返った。

「・・・・・休暇は、どうやらおあずけのようですね」
「―――――――――――人の恋路を邪魔するとは、無粋な犯人だな」

リザの言葉に、ロイは憮然とした表情で、腕を組んだ。


捕まえたら、黒コゲにしてやる!


そう物騒な科白を言う男に、
『程ほどに、お願いします』と返すと、リザは事件の資料を取りに出て行った。



******



そして、数日後・・・・一月の終わりの日。


「では、行け」
「「「 はっ 」」」

男達は敬礼をすると、次々に外に出て行く。
全員を見送って、部屋に残ったのはロイとリザ。

「これで捕まえられるといいのですが」
「是非そう願いたいね・・・・・こんな茶番に付き合ってる暇は私にはないからな」


さっさと片付けて、会いに行かねば。


誰に・・・・・・などとは、聞かずもがな。
どうやら休暇予定を返上するつもりはないらしい上官に、リザは内心でため息を吐く。
『事件はもちろん速く片付けたいけれど、またひとつ悩みの種ね』
事件が解決したら、早速アルフォンス君に連絡を取らなくては――――――
リザがそんな風に考えている横で、ロイはじっと地図を見つめた。

「なにか・・・・・・・・気に入らないな」
「は?」
「私も出よう。残っている者を何人か連れて行く―――集めてくれ」
「・・・大佐が現場で指揮を取られるのですか?」
「いや、先ほどとは別の場所で気になる所を見つけた」

そのまま立ち上がって部屋を出て行くロイの後を、電話で指示を出してからコートを持ってリザが追う。
既に外で車を待っているロイに追いつくと、彼の肩にコートを着せ掛けながら、リザは問い掛けた。

「どちらに向かわれるのですか?」


ロイが答えたのは、先ほど兵を向かわせたのと、真逆の方角だった―――――



『1月・・・また新しい一年が・2』




ロイ登場。
なにやら事件の匂いはしてますが、私がそんなサスペンスな内容など書ける訳もないので、あくまでも匂ってるだけです(苦笑)
詳しい事件の詳細とかは出てきません・・・そっち方面(サスペンスとか、アクションとか)の期待はしないでくださいね!
(だって・・・・・・・これ、ただのロイエド恋物語なんですもん・・・汗)
一月は二月に繋げるためのお話になっちゃうので、サクサク終らせて二月に行きたいです〜!



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