ロイエド一年間・・・・『1月・・・また新しい一年が・3』



「兄さん。僕、汽車の中で食べられる物、何か買ってくるよ」


アルが売店に向かって歩き出すのを、エドは『ああ、わりぃ』とだけ言って見送った。
列車が少し遅れているとアナウンスがあったのがついさっき。
駅のホームで列車が来るのを待ちながら、エドは自分のトランクの上に座ってボーっとしていた。

『次は西方か・・・・・』



また、遠くなる―――――



何となく浮かんだその言葉に、エドはギョッとして我に返った。
『何から遠くなるってんだ!!』
心の中の声を否定するように、ぶんぶんと頭を振ってから・・・・・急にフッ、と力を抜いた。
肩を落としてうな垂れながら、思う。

『ばか、みてぇ・・・・・・』

しばらくあの男に会わないと決めたのは、他ならない自分だ。
約束をはじめて破った今月・・・・・・後ろめたさは確かにある。
だが、こんなに心をかき乱されるのは、後ろめたさだけなのだろうか?


『大佐が好きなの?』


姉のようなあの人の言葉が、浮かぶ。


『好き・・・・・・なわけ、ないよ』


だって、オレは男として生きてるんだ。
これからだって、男として生きていくんだ。


『好きになんて・・・・・・なれないよ』


目をつぶって、コートをぎゅっと握り締めた時、此方に近づく足音に気がついて、慌ててエドは視線を上げた。
チラリと足音の先を見つめて、エドは眉を顰めた。
見つめた先には、見慣れた―――――青。
軍服を着た男が二人並んでこちらに近づいて来る。
二人でなにやら楽しげに談笑している所を見ると、こっちに用があるわけじゃなさそうだ・・・・
エドは視線を外して俯き、彼らが通り過ぎるのを待つ。

二人の軍人はやはり通りがかっただけなのだろう。
エドを気に留めることなく前を通り過ぎていく―――――
が、自分の前を彼らが通り過ぎた刹那、エドの瞳が大きく見開かれた。


目の前を彼らが通り過ぎた後―――――――香った残り香。


それは、あの男がいつもつけていた、香り。
その香りが引き金になったように、エドの脳内にロイの記憶が溢れ出す。

練兵場で
執務室で
公園で
先月―――――裏路地で。

あの胸に抱きしめられた時に、香ったオードトワレ。

特にいつもは気にしたこともなかったのに、嗅いだ途端あの男と同じものだと分った。
堪らずエドはぎゅっと目を閉じる。


思い出させないでくれ!!


そうエドが心の中で叫んだ時、彼らの声が聞こえた。

「そういえば、今東方で爆発騒ぎが頻発してるそうだ」
「へぇ、相変らずあそこも物騒だな・・・」
「東方司令部に俺の従兄弟がいるから、心配になってここに来る前に電話入れてみたんだ。
今までは小規模のものばかりだったんだが、ついに大きなのがあって、司令官が巻き込まれたって・・・」

「!!」

エドは聞こえたその言葉に、瞳を大きく見開いた。

『東方司令部の司令官って・・・・・』



――――大佐!!



「兄さん、お待たせ。サンドイッチ、兄さんの好きなツナもあった・・・・・兄さん?」

紙袋を抱えて戻ってきたアルは、姉に視線をやった途端、感じた違和感に首を傾げた。
顔を覗き込んで見ると姉は何故かショックを受けたように固まっている。

「兄さん、どうしたの!?なにかあった?」

慌ててそう聞く弟に答えることなく、エドは急に立ち上がり走り出した。

「兄さん!!」

弟の静止も聞かず、エドは真っ直ぐに先ほどの軍人たちのところまで走り、一人の腕を後から掴んだ。
突然腕を掴まれた男は驚いたように振り返る。

「うわっ!?・・・・・・って、なんだ子供か」
「おい、きさまいったい何のつもりだ?悪戯にも程が――――」

掴まれた方は子供なのを確認してホッとしたような表情になり、
もう一人は眉を顰めて、掴んだエドの手を引き離そうと腕を伸ばした。
だが、触れられる前に男の鼻先に何かが突きつけられる。
それは、エドがズボンのポケットから取り出した銀時計で――――――

「な、なんだ?・・・・・・っ、これは!」

目を見開く男を睨みつけるような鋭い瞳で見つめながら、エドは口を開いた。


「鋼の錬金術師だ。―――――――さっきあんたらが話していた話、詳しく教えてくれ」


二人の軍人は唖然と顔を見合わせると、慌てたように敬礼したのだった。



******



「兄さん・・・・・大丈夫?」


東方に向かう列車の中で―――
列車に揺られながら、アルは遠慮がちに姉に声をかけた。


「―――大丈夫だろ?あのゴキブリ並にしぶとそーな大佐が、簡単にくたばる訳がねぇ」


不安げな弟の声に、エドはそう言って笑みを浮かべて見せた。

あの後、電話をした方の男に話を聞いたエドだったが・・・あれ以上の話は聞けなかった。
どうやら、その『従兄弟』とやらとの電話中にその事故が起こったらしく、
『司令官が怪我をしたらしい、悪いが切るぞ!』との言葉を最後に、電話は切れたようだった。
その二人と分かれて、すぐに東方司令部に連絡をとろうと電話をかけた。
だが、よほど混乱していたのかなかなか繋がらず、やっと繋がったと思ったら子供の声だったので切られてしまった。

少し落ち着いた辺りにかけなおすか!?

爪を噛んでイライラとうろついていると、東方行きの列車が着いたことを告げる駅のアナウンスが聞こえて。
そのまま走ってその列車に飛び乗り、今に至っていた。

「大体、司令官が何で怪我なんかしてんだっつーの!
いつもみたいに、えらそーに執務室で踏ん反り返ってれば良かったのにさ。
日ごろの行いが悪いから、こんなことになったんだぜ?きっと。
けど・・・・・ほんと、アイツって悪運強そうだから、たいした事ねぇに決まってるよ」


だからさ、心配しなくても大丈夫だよ?


エドはそう言って微笑んで見せてから―――――窓の外をじっと見つめた。

アルはそんな姉の横顔を眺めて、密やかにため息を吐いた。
確かに大佐のことはすごく心配だが――――今自分が『大丈夫?』という言葉をかけたのは姉に対してだ。

東方行きの列車に飛び乗った姉を慌てて追いかけて自分も乗り込み、その姿を探すと―――
先頭車両の一番前の席に座っている姉を見つけた。
その顔は色を失ったように真っ白で―――
強く握り締めて白くなった手は、小刻みに震えている。
まだ影もみえないと東方を探すように、じっと窓の外を見つめている姿が痛々しい。

それで思わず『大丈夫?』と声をかけたのだが、『大佐の事』と勘違いした姉は
こちらを慰めるように軽口を叩いた挙句に、安心させようとして微笑まで見せてくれた。
――――こんな時、『やはり僕だけじゃダメなんだ・・・・・』と思い知らされてしまう。

やっぱり、兄さんが心の底から甘えられる人が
こんな時に不安をぶつけて泣ける人がいてくれたらと、切に思う。



『無事でいてくださいね、大佐―――――』



アルはそう心の中で呟くと、自分も窓の外を見つめた。






新年を迎えて最初の月の終わりの日
エドは押し寄せる不安を胸に、また東方を目指す。

もう会わないと決めた筈の、あの男に会うために――――――



『1月・・・また新しい一年が・3』




●アル 『大佐、大丈夫ですか!!』
●ロイ 『アルフォンス君、そんなに私の事を心配してくれてるのかい?(ちょっと感動)』
●アル 『もちろんです!!だって、あなたが死んじゃったら、また新しく恋人候補を選出しなくちゃいけなくなりますし』
●ロイ 『・・・・・私の身を心配してくれてるんじゃないのかね・・・・?』
●アル 『・・・?だから、『あなたの身』を心配してるじゃないですか?あなたがいなくなったら兄さが悲しみますし。
ああ、本当に(兄さんが)心配です〜〜〜〜!!大佐、来月まで絶対無事でいてくださいね!!』
●ロイ 『・・・・・・・』

と言う訳で、大佐!アルもこんなに心配していることですし、ちゃんと来月まで生きててください。(笑)
こんなとこで切って申し訳ないですけど、後は『2月』に続きます〜!(汗)



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