ロイエド一年間・・・・『3月 ・・・・・一緒にどこまでも・11』



唇を荒々しく塞がれて―――――

エドは初めての経験に、固まり・・・・・そして、恐怖した。
だって彼は、いつだって自分に優しくしか触れなかったから。
おまじないの時はもちろん、初めてのキスの時も、軍部祭りの時も、スカート姿を見られた時も。
そして、オレが自分の気持ちを自覚して、恋人としてのキスをした時だって――――

確かに、強引だったし・・・眩暈がしそうな深いキスもあったけど。
こんな風に・・・・・・・・・・・・・・・・オレを怖がらせるようなキスはしなかった。


『そんだけ、怒っているってことか・・・・・・』


震えながらも、エドは頭の中でそう考えるが――――すぐにまた思考が停止した。
ロイの手がネグリジェの肩の辺りに掛かったと思ったら、肩に感じる夜のひんやりとした空気。
肩をあらわにされたと知って、再び体が強張り・・・そこに落とされた熱い唇に、今度はかあっと熱が上がる。

「やっ・・・・・」

思わず、拒否の言葉が口から出るが、男は怯む様子も見せない。
首に肩に熱い唇を押し付け、痕を残していく彼に、エドはまた震える。
だが、恐怖に震えながらも――――――気がついた。

『この人は・・・・・・・・・・本当にオレの全てを愛してくれてるんだ・・・・・』

心の中でそう呟く。
彼の熱い唇が落とされたのは、首や生身の左肩だけではなかった。
それは鋼で出来ている右肩にも落とされている。
冷たく、無機質で、オイルの匂いがするだろう。
唇を押し付けたとしても、柔らかさなど皆無。痕だってつかないし、彼の熱も伝わらない。
そんな所に、躊躇無く触れる彼。
冷静な時なら、『気遣っている』と感じるだろうが、今は違う。
理性を飛ばし、荒々しい気持ちをぶつけるように触れてくる今だからこそ、わかるのだ。

『本当に・・・・彼はオレの全てを受けとめ、背負った罪ごと全部愛してくれている』



そう思ったら、恐怖が収まり・・・・・・・・・・・・・・力がフッと抜けた。



『言葉足らずで、傷つけちゃったな・・・・・』

そんなつもりじゃなかったのだ。
そんなつもりじゃなくて・・・・・・あの後続ける言葉があったのに。

布が擦れる感触。
夜の空気を感じる部分が広がる。
胸に直接触れてくる、熱くて大きい手の平に―――ビクリと体を揺らしてから・・・・・・思った。



震えるのは止められないけれど―――――
それでも、こんな風に触れられるのは、ある程度覚悟して・・・・・・・ここを訪れたのだ。



いくら恋愛ごとに疎い自分とはいえ、夜に恋人の家を一人で訪問すればどんな事になるのか位、分かる。
ホントはこんな風にじゃなく、すべてを話し終えてから・・・・・・
それでも大佐が求めてくれれば、渡す気ではいたのだけれど。
仕方ない。彼の気が済んでから、話そうか?
でも―――――――――


『でも・・・・・オレは覚悟してきたし、好きだからいいんだけど。・・・・・・・・・大佐は?』


こんな風に無理やりオレに触れて・・・終わった後、傷つくのはオレじゃなくて彼のほうなんじゃ?
フェミニストで、何よりオレを大切にしてくれていた彼が
今まで自分を抑え、子供のオレに合わそうとしてくれていた彼が
・・・・・・・・・・後で自分の所業を悔いる姿が見えて、エドは閉じていた目を開けた。


「誤解だよ」


聞こえた―――静かだがキッパリとした声に、我を忘れて行為に没頭していたロイはピクリと反応した。
彼女を見つめると、此方をキッと見据える金の瞳が見えて、息を詰まらせる。

「エ・・・・・・」
「・・・・・・・・すんなら、話を最後まで聞いてからにしろっ!アホ大佐!!」

頬を上気させ、白い肌に紅く花びらを散らした少女が、潤んだ瞳で―――きつく睨む。
男がおもわず息をのんだ時、ゴンと頭に響く衝撃。
その衝撃のせいか、はたまた・・・・・・?
うめき声とも、苦悩のため息ともつかない声を漏らし、とりあえず――――――――ロイ、撃沈。



******



「まずは・・・・・ごめん」
「何故・・・・・・君が謝る?」

今、責められるとすれば自分のほうだろう――――
ずきずきと痛む頭を押えながらバツが悪そうにそう言うロイに、エドは首を横に振った・・・・・

「その・・・押し倒した方じゃなくて、その前の会話の事」
「・・・・・・ああ」
「でもね、誤解なんだ。大佐を哀れんでとか、置き土産とか・・・じゃないんだ」

そんな意味じゃなくて・・・・・
これから保障の無い旅に出なきゃ行けなくなったと思ったら―――――なんだか、たまらなくなったのだ。

「折角アンタを好きだって気がついたのに・・・・・離れなきゃなんなくて」
「エドワード・・・」
「なんか、悲しくて・・・・・・辛くて」

顔を歪ませるエドにロイが腕をのばし・・・・・逃げないのを確かめてから、そっと抱き寄せる。

「でも、このチャンスを逃がす訳にはいかない。やっと・・・やっとの思いで、見つけたんだ」
「エド・・・」
「無謀なだけの挑戦じゃない。成し遂げられられると思ったから、この練成にオレは挑むんだ。
勝算は十分にあるし、オレにはそれができると思う!
・・・・・・・・でも、やっぱり帰ってこれる保障は、どこにも無いんだ・・・・」

そう思ったら、たまらなくなった。

「たまらなくなって、会いたくて帰ってきたけど・・・結局オレの自己満足だ。・・・・・自分勝手だよな」

離れなきゃいけないのなら、本当は余計な思い出なんか置いて行かない方が、相手の為だ。
そんな簡単な事も考えつかないで・・・・・ただ、ただオレは――――



「ほんの少しの間だけでも、アンタの恋人でいられたら・・・・・って」



多分、無意識にだけど―――――
きっと、この腕に抱きしめられて力をもらってから―――旅立ちたかったのだ。
それが、アンタを余計に傷つけた・・・・・・・・・・・ごめんなさい。
目に涙をためて――――唇を噛んで見上げてくるエドに。
ロイは辛そうに顔を歪めてから、彼女をかき抱いた。

「すまない・・・・・・」
「あやまんないで・・・・・酷いのはオレの方だ」
「君は酷くない―――――会わずに行かれた方が、よほど辛い」

会いに来てくれて、嬉しいよ。
耳元に呟かれたロイの言葉に、エドはふるりと震え、そして彼を見上げる。

「アンタと付き合ったまま、そんな旅に出ちゃいけないと思ったから、お別れ言わなきゃと思った。
でも・・・でもね、虫の良い話かもしれないけど・・・もしも無事に帰ってこれたら、
そんで、そんときまだアンタの隣に誰もいなかったら・・・今度はオレから言おうと思ってた」


『好きです』って・・・・・・・恋人になってくださいって。


湯気でも上がりそうなほど、顔を真っ赤にしてそう言う幼い恋人に――――
ロイは、目を見開き・・・・・そして、とろけるように微笑んだ。

彼女の必死な思いが見えて・・・・・冷静さを取り戻したロイは、優しく笑う。
『離れたくないのは、君も同じ――――』

ならば、別れの言葉など・・・・・まったく必要無い。

保障がないなんて言い訳はいらない。
元々誰の人生にだって、未来の確かな保障などないのだ―――――
だから、君はそんな事は気にせず、只いつものように旅立ち、
・・・・・・・・・・・そして、いつものように私の胸に帰ってくればいいだけのことなのだ。


だから、別れの言葉なんて・・・・・・・・要らない。
『いってきます』と、ただそれだけ言って旅立てばいい・・・・・。


そう言ってやろうと、彼女をもう一度見つめると――――エドは突然不意打ちのように、笑った。
それは、『ニッ』とでも擬音がつきそうな・・・いつもの、彼女らしい笑み。



「でもさ・・・・・・・・・・やめた!」



・・・・・・・・・はい?
ロイは、唖然と彼女を見つめた―――――



『3月 ・・・・・一緒にどこまでも・11』




うちのエド子は元気なエド子♪
いつまでも、めそめそへこたれたりしませんよv(笑)
ところで・・・この程度なら、表OKですよね??(ドキドキ)



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