ロイエド一年間・・・・『3月 ・・・・・一緒にどこまでも・2』



「見てるな」
「見てますね」


ハボックとファルマンは何気ない風を装い、少女を観察する。
二人の観察している少女とは、エドワード。
一月振りに司令部を訪れた彼女は、来るなり司令官執務室を目指して去っていき・・・
かなりの時間がたった後、やっと帰ってきた。
側近たちが詰めていた作戦室に大佐と共に戻ってきた彼女は―――――なんというか、なんといったらいいのか。
この前までは『腕白な男の子』にしか見えなかった彼女が、
今はどこか『色っぽさ』まで漂わせていた。

『アンタいったい執務室でエドに何したんすか〜!?』

エドを見た途端そう側近達が一斉に心の中でツッコんだくらい、彼女の様子は違っていた。
(多分中尉がここにいたら、間違いなく大佐に向けて発砲することだろう)

そんな側近達の叫びはもちろん二人には聞こえるわけもなく。(ロイは知ってるけど無視していると思われ)
ロイは仕事を片付けるために、部下たちに指示を与え始め、
エドはというと椅子に後ろ向きに跨り、背もたれにもたれ掛かかるように座って、
ロイの仕事する様をぼんやりと眺めている。
その彼女の姿を盗み見つつ、側近達はひそひそと会話する。

「・・・・・なんつーか、『乙女』?」
「なんでこの前まで女性だって気づかなかったんでしょうね、私」

ぼんやりと、うっとりと?
そして、どこか切なげに見つめるその姿はどう見ても恋する女の子で。
他の二人の加わって、4人の側近たちは驚きをこめてその横顔を見つめたのだった。



******



「鋼の?」
「へ?・・・・・うわっ」

ぼんやりと椅子に座ったままこちらを見ている彼女に近づく。
間近に来てもボーっとしている彼女に、ロイは訝しく思いながら顔を寄せて名を呼んだ。
途端にハッと我にかえったようで、エドは椅子から落ちそうになった。
それを手を添えて支えて座りなおさせてやって、自分も彼女の隣の椅子に腰掛ける。

「仕事が終わったよ?どうしたんだね、ぼんやりして」
「えっ、いや・・・あの・・・・・」
「私に見とれていたかい?」

しどろもどろに返していると、ぱちんとウィンク付でそう言われて、エドは赤くなりながら噛み付いた。

「ち、ちがっ!!アンタってどうしてそういうっ!!」
「ははは、鋼のは可愛いなぁ」
「可愛い、言うなっ!!」
「本当に可愛いんだから、仕方ないじゃないか?」


バカップル・・・・・・


その部屋の誰もがそう内心でツッコむ。
だが、二人の世界に入っている彼らには関係無い事のようで、そんなじゃれ合いのようなやり取りがしばし続いた。
『もう、よそに行ってやってください!!(涙)』
そう誰もが心の中で涙を流しつつ叫んだ辺りに、やっとロイが立ち上がった。

「じゃあ、行こうか?」
「は?まだ昼前じゃないか!」
「今日仕上げなくてはいけない分の書類は終わらせたよ。もちろん中尉も了承済みだ」
「え・・・・・・っと、どこに?」
「もちろん、デートに、だよ」

そう言って手を差し出すと、ロイは微笑んだ。



******



店から出てきた少女のスカートが風に煽られ、翻る。
その様子を、ロイは驚いた表情で見つめていた。

「・・・・・なんだよ、その顔」
「いや、その―――――」
「どーせ、似合わないっていいたいんだろっ?」

すねたように口を尖らせてフイとそっぽを向いてしまう彼女に、ロイは慌てたように近づいた。

「すまない。あまりに美しいので、見とれてしまった」
「・・・・・別に、お世辞なんて言わなくてもいいし」
「お世辞なんかじゃない!本当に、美しいよ・・・」

心底そう言って、うっとりとした表情でエドの頬をなでると、撫でられた頬がほわりと薄く色づく。
その様子に目を細めてから、ロイはまた口を開いた。

「・・・だが、美しさ以外にも驚いたのも事実だな。前はスカートを穿くのを嫌がっていただろう?」

ロイは疑問を込めて、そう言った。
以前、彼女は女性らしい格好をするのを嫌がっていた。
それなのに今日は―――――

デートしようと微笑んで、彼女を街に連れ出した後。
二人で街を並んで歩いていたら、急にエドが立ち止まったのだ。
『どうした?』と聞いてみても、うつむいたまましばらく考え込んでいたのだが、
急に『少し、あそこで待ってて!!』と、街路樹の下に設置されているベンチを指差された。
突然の事に面食らっていると、彼女は立ち止まった場所にあった店に駆込んでいってしまったのだ。
そのまましばし待たされて・・・・・迎えに行こうかと迷い出したあたりに店のドアが開いた。
それを見て、店の前まで戻って―――――驚いた。

店から出てきたのは、いつもの赤いコートのエドワードではなく。
春を思わせる、淡いピンクのワンピースを纏った、可憐な少女だったのだ。
店の人が選んでくれたのか、機械鎧が隠れるように配慮してある、可愛い服。
今日は良い陽気とはいえまだ肌寒い季節なので、上に白の可愛いカーディガンを羽織っているのだが、
それがやわらかな春の風に煽られ、解いた金髪と共に、羽のようにふわりと揺れた。

「・・・・・いいじゃん、別に」
「もちろん私としてはすごく嬉しいがね。どう言う心境の変化かな?」
「――――――――――――――だって、アンタべたべたしてくんだもん」
「は?」
「〜〜〜だからっ!オレ、いつもの格好なのに、人目も気にしないでくっついてくるじゃん!
不自然この上ないんだよっ、アンタきっと明日からショタコン疑惑をかけられるぞっ!!」

真っ赤になってそう怒鳴り返す彼女に、ロイは目を丸くして。
そして、それはそれは嬉しそうに微笑んだと思うと、エドを抱き寄せた。

「た、大佐!!」
「私のことを気遣ってくれたんだね」
「だ、だからっ、あんまくっつくなって!こんな人目のあるところで!」
「おや?そうしても良いように、こんな可愛い格好をしてくれたんだろう?」

嬉々として余計にべたべたしてくる男に、エドは諦めたようにため息をついて。


「・・・・・ショタコン疑惑は消えても、ロリコン疑惑が浮上するかもしんないぞ?」


そう、一言だけ返したのだった。



******




楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
―――――――夕食が終わり、歩いて宿の前まできてから、エドはロイを見上げた。

「じゃ、これで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に、帰るのか」
「何だよ、その間は?」
「だって、楽しい夜はこれからじゃないか!」
「オレ、未成年だし」

しれっとそう言うエドに、ロイは深く深くため息を吐く。
それを、ちらりと横目で見てから、エドはボソリと呟いた。

「やっぱさ・・・・・子供とじゃ『オツキアイ』も楽しくねーだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・何を言い出すんだね」
「大人の女の人ならさ、この後酒の席に付き合ったり・・・いろいろと楽しめるだろ?」
「別に酒なんかいつでも飲める」

他の誰とでもない、君と一緒にいれるのが楽しいんだ。
言った途端ぴしゃりと返して、真摯に見つめてくる黒い瞳を、エドはじっと見つめ返した。

「本当に?」
「もちろんだとも。別に酒場などに行かなくても、一緒に夜を楽しく過ごす術は沢山あるよ。
――――――――例えば、君が私の家に来てくれるとか?」

ロイはにっこりと笑ってそう言った。
もちろん本気の誘いだが、彼女は常々中尉に『大佐の家に一人で行ってはダメ』といい含められている。


『誰が行くか!?エロ大佐っ!!』


当然、そう罵倒されるだろうと覚悟しつつ、そう返された時の次の一手を考え始めたロイだったが。
すぐに反応が返ってこないことに訝しがりつつ、エドを見ると―――――俯いた、顔。

「鋼の?」
「――――今日は、さ・・・アルにも言って来なかったし、宿の女将さんと約束があるからダメなんだけど」
「?」
「明日なら、いいよ」
「!!」

驚愕に目を見開くロイ。
エドは、唖然と見つめてくる視線が居たたまれないといった風に、顔をそむけて。

「明日は会議があるって聞いたから昼は無理だろ?夕方、クリスマスの時待ち合わせた場所で待ってるから」
「エド・・・・・」
「じ、じゃあ・・・また明日なっ!」

赤い顔でそう言って、彼女は宿の中に駆込んでいった。
後には、いまだ呆然としたままの男が残った。



******



「あ、兄さんお帰りなさい」
「ただいま、アル」

エドが部屋に帰ると、ベットに座って本を読んでいた弟が顔を上げ、ちょっと驚いたような仕草で出迎えた。

「割と早かったね?」
「・・・・・うん、今日はさ、おばさんと約束してるから」
「ああ、そう言えば。行く前になんか話してたよね?・・・・・それにしても」
「ん?」
「可愛いね、それ。すごく似合うよ!」
「!!」

言われて、ワンピースを着たままだったのを思い出し、エドは顔を真っ赤にして慌て出した。

「や、これはっ・・・・なんというかっ!!」
「別に、慌てる事無いじゃない。そっちが本来の兄さんの姿なんだし?」
「ほ、本来って・・・オレ、昔からこんな格好した事無いじゃんか」
「それに、恋人に会うのにおしゃれしたいってのは、女性として当たり前でしょ?」
「こ、こっこっ・・・・・こ?」
「ニワトリみたいだよ、兄さん」

おかしそうにそう言う弟に、エドは顔を真っ赤にしつつ拳を振り上げて。
殴りかかろうとして、足を踏み出したら、スカートがまとわり着いて。
それで、自分の格好をまた意識してしまったらしく、ますます真っ赤になって固まって。
―――――そんな姉の姿を見て、弟はまたクスリと笑いを漏らした。

『本当に可愛いよね、姉さんって』

なんか、まだあの人にあげるのもったいなかったかな―?
そんな事を考えつつ、姉をこんなに可愛くしてしまった人物を思い出し、苦笑しかけて。
そして―――――――笑いを消して、遠慮がちに切り出した。


「あのさ、大佐と話しできた?」
「え?」

声を掛けられて、やっとフリーズ状態から抜け出したエドは、弟に視線を合わせて。
すると、どこか心配げな彼の姿が目に入った。

「・・・・・その、話したいこといっぱいあったんじゃないかと思って」
「あ、うん。―――――まだ。今日は遊んだだけで終わっちゃったから。
・・・・・・でさ、明日また会ってきて良いかな?」

その、夜しか空いてなくて、遅くなるかも・・・だけど。
俯いてそう言う姉に、弟はなるべく明るく笑って見せた。

「もちろん!僕がいくらシスコンでも、やっと実った姉さんの恋路を邪魔したりしないよ!
気が済むまで泊まりで語り合ってきたら?」
「ばっ、ばかやろっ!兄をからかうなっ!」

冷やかしのような弟の言葉に、今度こそ近づいて座ったままの弟の頭をゴンと叩いて。
―――――――――そして、腕を回してぎゅっと抱きしめた。



「ごめんな」



謝る事なんて・・・そう言いかけた時、もっと力を込められて。
アルはそれ以上は言わずに、自分も姉の背に腕を回したのだった。



『3月 ・・・・・一緒にどこまでも・2』




皆さん、長い話はお好きですかー?
・・・・・・好きと言ってください、助けると思って。(涙)
(どうしても、長くなってしまうらしい)



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