ロイエド一年間・・・・『3月 ・・・・・一緒にどこまでも・3』



「じゃあ・・・・・行ってくるから」
「うん。いってらっしゃい」


部屋のドアを開けて片足を出しかけたエドだったが、そこで動きを止めて後ろを振り返った。

「昨日も言ったけど―――――――遅くなっても心配・・・」
「大丈夫だよ!」

そう付け加える姉の声を途中で遮って、アルは明るい声を返した。

「今日ね、中尉が夜勤だっていうから、夜は司令部に行って夜通しブラハと遊ぶ事になってるんだ!」
「え・・・・・そうなのか?」
「うん。だから、帰ってきても僕の方こそ居ないと思うけど、心配しないで?」
「あ・・・うん。分かった・・・んじゃ、行って来るから」

そう言うと、姉はやっと部屋を出ていった。
その後姿に手を振りながら見送って、ドアが閉められしばらく経った後、アルは苦笑した。

「そんなに気にしなくても良いのになぁ?」

どうにも僕を一人にしてしまう事に躊躇する、姉。
恋人に会うときぐらい、その事で頭をいっぱいにしても良いだろうに?
いや恋人に会うからこそ、自分だけ幸せに浸るのに罪悪感を感じてしまうのだろう。

「もっと、自分の幸せを考えても良いのに・・・」

罪を犯したのは、姉さんのせいだけじゃないのにな。
何度言っても、僕の方が持って行かれた部分が多いから、どうしてもその気持ちが消えないようだ。

「それにしても・・・・・大丈夫かな」

アルは、昨日からの姉の態度に、不安げな声を漏らした。
スカート  家へ行く約束  そして、先ほど抱えていったバスケット。
僕に気を使いながらも―――恋人の為に昨日からいろいろと慣れないことを頑張っている姉。
それだけなら、いい。
恋人の喜ぶ顔が見たいのは当然だし、
いろいろやってあげたいのも、分かる。
だけど、昨日から何度も見せる切ない表情が気に掛かる。


どこか、思いつめたような・・・・・・・そんな顔。


でも、僕には何も言えない。
姉がそんな顔をしている理由が、なんとなく想像できるから。



『神様』



アルは心の中でそう呟いて、天を仰ぐ。
いつもは無神論者だし、罪を犯した自分には祈る権利もないのかもしれないけれど。
こんな時は、祈らずにはいられない―――――――



******



待ち合わせた広場の噴水の淵に腰をかけて、エドはロイを待っていた。
クリスマスに設置されていた大きなもみの木はもう当然なく、あの時よりはずいぶん寂しい印象。
だが、ここは定番の待ち合わせ場所のようで・・・
設置されたベンチやエドが座っている噴水のほとりにも、待ち合わせ中と思われる人が何人もいる。
それ以外にも商店街の近くということもあり、通りすぎていく人も沢山。
その人達が何故か皆チラチラとエドに視線を寄越していく。
エド本人もその視線に気がついており、彼女は冷や汗を掻いていた。

『な、なんか見られてるような・・・・・まさか、鋼の錬金術師ってバレてるんじゃ?』

こんな場所で待ち合わせたのが悔やまれる。
いや、約束した時はいつもの格好で来るつもりだったのだから、どこでもかまわないと思っていたのだ。

『なのに、突然こんな格好でくることになっちゃったからな・・・・・』

次々寄越される視線に、エドは所在なさげに俯いた。
バレたらどうしよう? いや、軍の書類はすでに訂正してあるから、バレてもマズくは・・・・・ないか?
それでも、なんだか居たたまれない気分。
やっぱり、いつもの格好で来れば良かった!!
―――――そもそも、今日はスカートなど穿くつもりは無かったのに!
エドは泣きたい気分で、さらに俯いた―――――


なぜ彼女が今日再びスカートで現れたのか。
それは、ここに来る少し前の事――――――



「あの〜」
「あら!昨日の・・・・・」
「すみません、昨日は服預かってもらっちゃって」

昨日、通りかかったブティックに飛び込み、服を見繕ってもらって着替えたエド。
その時脱いだ服は、邪魔だったのでここに預かってもらっていたのだ。
その為、今日は着るものがなく・・・・・予備に持っている黒いシャツと替えの黒いズボンだけ。
靴もいつものブーツがないから、宿のおばさんが息子が昔履いていたスニーカーを貸してくれたのだ。

「いえいえ。・・・・・はい、これ。預かっていたものよ」
「ありがとうございます。あ、靴・・・ここで、履き替えていっても良いかな?」
「ええ、かまわないわよ?でも―――――」
「え?」
「そのバスケット、お弁当よね?もしかして、これから彼氏の家に行ったりする?」
「へっ!?な、なん・・・・・!?」
「図星みたいね」
「―――――どうして、わかって・・・・・・///」
「簡単よ」

だって、もう夕刻よ?まだ寒い時期だし、これから外でピクニックなんてしないでしょ?
だとしたら食べるのは、どこか室内。・・・・・となれば、彼の職場か彼の家よねー?
そう言って彼女は笑った。

「あなたに素敵な彼氏が居るのは、昨日見ちゃったしね?」

パチンとウィンク付で言われて、エドは真っ赤になった。
昨日のロイとのやり取りを見られていたのだ。
・・・・・まぁ、この店のまん前でだったのだから、当然といえば当然だが。

『だから、路上でベタベタすんなっていったのに!!』

エドはいたたまれない気持ちで、俯いた。
それを見て、店主は慌てたように声を掛けてきた。

「ごめんなさい!からかうつもりじゃないのよ?あんまり微笑ましかったから、つい」
「・・・ううん。いいんだ」

人目も気にせずベタベタしてくるアイツが悪いんだよ。
そういって気まずそうに笑う彼女を見て、店主はしばし考え込むような仕草をした。

「ねぇ、この預かっていたコートを羽織るんじゃなくて、今日も着替えていったら?」
「えっ!?でも・・・・・」
「お金ならいいのよ。気分を悪くさせたお詫びに、服を貸してあげるわ」

そう言って、ずんずん店内に進みいろいろ物色しだした彼女に、エドは慌てた。

「あのっ」
「んー?」
「お金の事じゃなくてっ!・・・昨日は人目のあるとこでベタベタしてきたから仕方なく着たんだよ!」

今日は、家に行くんだし、暗くなってきたから人目もあんまり気にしなくても良いから、別に着替えなくても。
服を探す店主の後ろについて、エドは必死にそう訴えるが、彼女は手を休めることなく呟いた。

「でもね、せっかく彼氏の家に行くんだから・・・・・おしゃれさせてあげたいじゃない」

あの初々しさからいくと、オツキアイは浅いはず。
きっと、彼の家を訪問するのも初めてなのだろう。
昨日見せられた鋼の手足のせいだろうか?普段は少年のような服装をしているようだけれど。
着飾れば、これ以上ないってほど、キュートで可憐な少女なのだ。
そんな彼女が彼の家に初訪問。
会って間もないものの、商売抜きで応援してしまいたくなってしまう。

「あの、でもっ・・・・」

それでも躊躇する彼女に、店主はやっと手を止めて、振り向いた。


「それに、きっと彼も喜ぶわよ?」


そう言って微笑んで見せると、
可愛いお客は、うっすらと頬を染めて――――――しばし考え込むような仕草をした。

「喜ぶ・・・・・かな?」
「もちろんきっと大喜びよ?間違いないわ!!・・・・・ね、着替えてみない?」

良い反応に、店主はもう一押しとばかりに太鼓判を押してから、再びお伺いをたてる。
すると少女はしばしの間の後、こくんと可愛らしく頷いた。


『も〜!!本当に、なんて可愛いのかしら!?』


彼氏もかなりいい男だったから、二人並んだらホント絵のようだわね!
『やりがいあるわ!』
店主は腕まくりで、再び服を選び始めて。
―――――そして今に至る。



『やっぱり、着慣れないオレなんかがこんな服着たから、どこか違和感あるのかな?』

店のお姉さんにのせられちゃったのが悔やまれる。
『喜ぶわよ?』と言われ。
昨日着替えた時のアイツの喜びようを思い出して、つい頷いてしまったのだ。
エドはスカートをそっと摘むと、ため息を吐いた。
それとも、やっぱり鋼の錬金術が本当は女だったと、正体がバレて?
いや、その場合皆オレのことを男だと思ってただろうから・・・・・
もしかして、『女だった』と思うよりも、『女装なんかして変態だ』とか思われてたりして!?
思わず頭を抱えた時に、声が掛けられた。
顔を上げると、知らない顔。

「お嬢さん、どなたかと待ち合わせですか?」
「?・・・はい」

答えると、残念そうな顔で去っていく。
何なんだろう?そう首を捻っていると、また別の男。
断ると、また違う男と言った具合で、次々と声を掛けられた。

「いいじゃん、つきあってよ?」

いいかげん辟易してきた辺りに柄の悪い男が声を掛けてきて、
強引に手を取られて、とうとうエドはぶち切れ寸前。
右手で拳を作り、相手を睨みつけた。

「離・・・」

離せ。と言い終わる前に、突然後ろから言おうと思っていた台詞が聞こえてきた。

「離せよ。嫌がってんのに、見苦しいぜ?」
「んだと、コラ?・・・・・!!」

柄の悪い男は声が掛けられた方をすごんで振り向いて、絶句した。
振り向いた先には、青い軍服。しかも自分より頭一つ大きいくらいの、長身。
分が悪いと見た男は、チッと舌うちをすると、そそくさと手を離して逃げていった。
エドはポカンした顔で、軍服の男を見上げた。
それに気づいた男は、ニッと咥えタバコのままで人好きするような笑顔を見せる。

「大丈夫か、お嬢さん?」
「・・・・・少尉」
「へ!?オレの事知って・・・・・?」

もう日が暮れかかって、薄暗い。
ハボックは少女の顔を確かめようと、少し身を屈めてまじまじと見つめて―――――――絶句した。


「・・・・・・大将?」


今度はハボックがポカンと口を開けた。
その拍子に、タバコが口から落ち、二人の間の足元に転がる。
日が暮れかけた、薄闇の中・・・・・落としたタバコの火種の赤く浮かび上がった。



『3月 ・・・・・一緒にどこまでも・3』




ロイに会わせる前にハボさんに会わしてしまった。
燃やされる前に、逃げた方がいいよ〜?(笑)
ああ、やっぱり長くなるかも・・・・・でも、お許し沢山頂けたし、頑張ります♪



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