ロイエド一年間・・・・『3月 ・・・・・一緒にどこまでも・4』



取り落としたタバコを拾い上げると、
改めて感心したようにハボックは唸った。


「・・・・・それにしても、大将って・・・やっぱ女の子だったんだなぁ」
「なんだよ、それ!」
「いや、前もスカート姿は見たけどな。こんなにまじまじ見るのは初めてだし?」
「〜〜っ、アホ!まじまじなんて見んなっ!!」

そう怒鳴り返されたものの、恥ずかしいのだろう。
どこかもじもじとスカートを握り締める様は、本当に可愛い。
改めて上司の審美眼の確かさに感心しつつ、ハボックは笑った。

「いいじゃん。ホント可愛いんだし?・・・・でも、だから変なムシが寄ってくんだよな」
「ムシ?」
「さっきからナンパされてたろ?」

ただのナンパみたいだったから最初は気にしてなかったんだけどな。
たち悪いのが来たみたいだったから、つい声を掛けちまったんだ。
そう言ってハボックは苦笑する。

「あれ・・・・・・ナンパだったのか?」
「気がつかなかったのか!?」
「いや、最後のはそうかな・・・と思ったけど、他のはなんだかよく声かけられんなぁ・・・と」

エドの科白にハボックはあんぐりと口をあけて。
次に黒髪の上司を思い出して、ため息を吐いた。

「大佐が心配するわけだよな・・・・・」
「え、大佐?大佐に言われて来たのか?」
「いや、俺がここにいたのは偶然。早上がりだったからさ、帰り道に通りかかっただけだよ」

帰宅途中で商店街に立ち寄ろうと通りかかったら、この広場で旧友にばったり出会った。
懐かしさに立ち止まって話をしていたのだが・・・・・
なんとなく視線の先にあった噴水の所に座っている少女の姿が目に入って。
その場所からは背中しか見えなかったが、入れ替わり立ち代り男が声を掛けるところを見ると、
かなり可愛いんだろうと予想をつけていた。

かといって、自分には思う人もいるし。声などかける気は更々無かったので、しばし話に没頭して。
だが、友人との立ち話を終え、今度こそ買い物に・・・と再び視線を上げると
さっきの少女にガラの悪そうな男が近づいていくのが見えた。
案の定男は少女に近づき、強引に手を取ったの見て・・・踏み出したつま先をそちらに向けたハボックだった。

その時は、まさかそのかわい子ちゃんが鋼の錬金術師殿とは夢にも思わなかったのだが。
でもエドの今の話を聞いて、クリスマスの時に待ち合わせ場所にいるエドを過剰に心配するロイを思いだした。
これでは、大佐が心配するわけだ。
苦笑しつつエドをもう一度見つめて、ああ・・・とハボックはポンと一つ手を打った。

「あ、そっか・・・その格好ってことは、大佐と待ち合わせなんだな?」
「えっ・・・な、なんで?」
「お前がそんな格好してやるなんて、あの人以外にいないだろ?」

少しからかい口調で言ってやると、白い頬が薄闇の中でも分かるくらい、赤く染まった。
『ちくしょ〜、何であの人ばっか!羨ましいなぁ』
そう心の中で上官を妬みつつ・・・・・
先ほどの彼の不審な態度にやっと合点がいった。

「ああ・・・・・だから、あの人あんなにイラついていたのか」
「え?」
「今日の会議さ、東方の将軍も出席したものの内輪の会議だからな。
普通に定時で終われるはずだったんだよ」

なのに、終了ギリギリでハクロ将軍が乱入してきた。
例によってグダグダ言い出し、終了間際の会議は延長。
自分は会議に出ていなかったけれど、茶を運んだ女子職員が『なんだか大佐がピリピリしてた』と怯えていた。
多分、エドとの約束を気にしてイラついていたのだろう。

「そっか・・・・じゃあ、もう暫らくかかるかな?」
「んだな。あの様子じゃここに伝言を寄越す余裕もねぇだろうし・・・いっそ、司令部で待ってたらどうだ?」

ここに一人で置いておくのは、ちょっとマズイ気がする。
そう思いつつ勧めてみたのだが、当のエドは拗ねたように口を尖らせた。

「こんな格好で行けるか!!」
「ああ、そっか・・・・・」
「いいよ。来るって分かったから・・・気長にここで待ってる」

ありがとな、少尉。
そう言ってハボックを見上げたエドだったが、
手を振って『じゃあな』と去っていくだろうと思っていた彼は、すとんと隣に座った。

「少尉?」
「もう少し話、しようぜ?」
「もしかして、気・・・使ってくれてる?」
「―――俺だってさ、たまには可愛い女の子とデート気分に浸ってみても良いだろ?」
「・・・・『女の子』だなんて思ってもねぇ癖に?」

べーっと、舌を出して見せると、彼は困ったように笑った。

「悪かったな・・・もしかして、今までの気にしてた?」
「へっ!?あ、冗談だぜ?気にしてなんか無いし・・・つーか、かえって女扱いなんてされると困る!」
「ははは、そっか。でもなぁ・・・・・」


今は、可愛い女の子にしか、みえねぇよ?


そうからかい混じりにいったつもりが・・・・・・声が結構マジになってしまった。
それに自分で気がついて少し焦っていると、こちらを見つめていたエドの頬がほわっと赤くなった。

「ばっか、やろ・・・・・」

俯いて、恥ずかしそうに呟くエドを見ながら、ハボックはドキリと心臓が跳ね上がるのを感じた。
『うわ、めっちゃ可愛い!!!つーか、女の子とこんなイイ雰囲気になるなんて久しぶり!?
だけど、人のもん・・・・・・俺って、やっぱり女運ワリィ』
しくしくと心で泣きながら、それを誤魔化すように話題を振った。

「それにしてもさ・・・お前結構健気なやつだったんだな〜」
「は?」
「だってさ、本当はそんな格好苦手なんだろ?それを大佐のために・・・」
「えっ、いや・・・これは行きがかり上って言うか、訳あってっ」
「それに何、そのバスケット?手料理かぁ?」
「うっ・・・・・いや、その」

再び赤くなってしどろもどろになるエドに、
ハボックはホント羨ましい・・・と、上官の顔を思い出しながら笑った。

「照れるな照れるな!好きな相手の為に何かしてやりたいって思うのは当然だ。
俺なんかいつも自分の心の思うまま、女に尽くしてるぜ!・・・まぁ、俺の場合あんま報われねぇけどな?」

へたくそなウィンクをしてみせると、エドはそれを見てプッと噴出して。
『少尉って、ウインク、へったくそ〜!!』と笑い転げた。
それにつられハボックも笑い、二人でひとしきり笑った後、エドはポツリと呟いた。


「オレ・・・さ、お付き合いなんてしたことねぇけど。でもさ、なんかしてやりたいって思ったんだ」


料理だってさ、ほとんどやってないから下手糞だし。
こんな服も似合ってないとは思うんだけど、アイツ・・・こんなの喜びそうだからな。
エドは俯いたまま、そう言う。

「うん、あの人・・・喜ぶと思うぜ?」

喜ぶどころか――――その場で踊り出すかもしれない(笑)
想像しつつ笑って見せるが、エドは笑顔を返さず、静かに呟いた。

「こんなの・・・アイツにとってはおままごとかもしんね―けどな」
「え?」
「その・・・アイツ、今まで大人の綺麗な人とばっか付き合ってたんだろ?」

エドの憂いに気がついて、ハボックは少し眉を潜めた。

「・・・・・もしかして、あの人の事疑ってる?浮気とか?」
「え!?いや、そんなのは思ってないけど」
「んじゃ、昔の女関係が気になってんのか?」

大佐がエドを追い掛け回す以前の噂話を知っているだろうから、確かに不安になるかもしれない。
そう思いつつ、聞いてみるが・・・彼女は首を横に振った。

「昔の人・・・気になんないっていったら、嘘になるけど。でも、気にしても仕方ないって思ってる。
それに、別に今のアイツの気持ちを疑ってるわけでもないよ」

今は、その―――――オレの事、凄く大事にしてくれてるの、分かるし。
す・・・好きってのも、本気で言ってくれてるって、ちゃんと分かってる。
でも―――――

「でも、さ。人の心って移りゆくもの――――だろ?今は本気だけど、それが消えてしまう時だって、ある」

オレさ、また旅に出なくちゃ行けないんだ。
俯くエド見てから、ハボックは拾って持ったままだったタバコをもみ消した。

「なるほどねぇ・・・・・・それで、不安になって健気に色々やってるのか?」

つまりは―――彼女になった途端、恋人を置いて旅立たなきゃ行けないのが不安になった訳か。
モテる彼氏だから、やっぱり心配だろうし。
置いていく側としては、罪悪感みたいなものがあるのだろう。

「気持ちはわかるけど・・・・・もう少し大佐の事信じてやったらいいんじゃないか?
無理して自分を変えようとしなくたって、大佐はそのまんまのお前が好きだと思うぜ?」

確かに今まで色々と浮名を流してきた大佐だが、
こんなに一人の人に真剣になっているのは、見た事が無い。
―――――あの人のエドに対しての気持ちは、側にいた俺にはこの一年でよーく分かってる。

そう思いつつエドを見つめると、彼女は困ったように首を横に振った。

「違うんだよ、アイツの事疑ってるとかじゃなくて。
・・・・・・・側に居れる時くらい、恋人らしい事―――してやれたらなって思っただけなんだ」

でも、今までそんな事したことも無いから、良くわかんなくて。
とりあえず思いついたもの・・・・・・
女の子らしい服――とか、公園で待ち合わせ――とか、お弁当を作ってあげる――とか。
思いついた順にやってみてはいるんだけど。

「でもさ・・・良く考えたら、これって全部昔ウィンリィに無理やり読まされた少女漫画のうけうりなんだよね。
大佐みたいな大人の男の人からみれば、おままごとなんだろうなって」

さっきちょっとそう思って、言っちゃっただけなんだ。
無理・・・っていえば、ちょっと無理してるかもしんないけど、
別に嫌々やってるわけではないから―――
はにかむような笑みを見せるエドに、ハボックは『やっぱあの人ってずるい!』などと思いつつ言葉を返す。

「無理してんじゃないなら、いいんだ。――――つーか、そんな心配要らないと思うぞ?」
悪くないと思うぜ、少女漫画作戦。きっと、メロメロデロデロに喜ぶよ、あの人」

少女漫画だろうが何だろうが、エドが自分の為に何かしてくれるってだけで、大喜び間違い無しだ。


「なんたってさ、お前にベタ惚れだもんな?」


からかい混じりにそう言うと、エドはまた赤くなって。
でも、少しして凄く微妙な顔をした。

「ベタ惚れか・・・・・アイツ、惚れっぽいよな」
「は?」

エドの言葉に、ハボックはポカンと口を開けた。
確かに女をとっかえひっかえなあの人だが・・・それは、ほとんど相手から寄ってくるのだ。
あの人が『惚れてる姿』なんて、エド相手以外には見た事が無い。

「惚れっぽい??」
「だってさ・・・・・オレの事だって、女ってわかった途端だろ?」
「あ・・・」
「それまで嫌味ばっかだったのに、女とわかった途端手のひら返してさー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか、思い出したらむかついて来たな」

自分で言った言葉に、眉を寄せるエド。
ヤバイ方向に話が行き出したような気がして、ハボックは少々慌てる。

「お・・・オイオイ(汗)」
「女と見れば声かけるって、節操無すぎだよな!?」
「い、今はお前一筋だと思うぞ・・・・・・?」

恐る恐るフォローを入れながら、辺りをきょろきょろと見回す。
こんな会話の時に大佐が現れたら、攻撃の標的にされるのは絶対自分だ。

「わかってるって!でもさぁ、惚れっぽいってことは、飽きるのも早いか・・・・・・・・・・も」

途中まで冗談っぽい口調だったエドの言葉は、不自然に途切れた。
そのまま俯くエドに、ハボックはため息を吐いた。


『やっぱり男の振りしてても・・・・・中身は恋する乙女ってか』


自分で言った言葉に傷ついて落ち込んだらしい少女の頭を、いつものように撫でてやろうとして。
今日は綺麗に整えてあるのに気がついて、やめた。
行きばを無くした手を所在な下げに方向転換させて自分の頭を掻く。


ふう・・・・・と息を吐いて、ハボックはすっかり暮れてしまった空を見上げた。


「なぁ・・・・・エド」
「ん・・・・・」
「大佐がお前に交際申し込んだ時の事、覚えてるか?」
「っ、だからっ!今その事話したばっかだろっ!!」
「ンじゃ、申し込む少し前の事は?」
「・・・・・・・・・・え?」
「お前、執務室から出ようとして、大佐の横で足を止めたろ?」
「えっ、と・・・・・」

確か、あの時は――――


「あの時、大佐の横を通り過ぎようと思ったら、大佐が何か呟いて・・・・・」


それで、思わず足を止めたのだ。

「そう、それ!」
「それが・・・・・?」
「あの時、大佐がなんて言ったか、お前聞こえたか?」
「え」


――――あの時・・・聞こえなかったから、聞き返すために足を止めたのだ。


エドは黙って、問いかけた男を見上げた。
見つめると、彼も見つめ返してきて―――――――そして、ニッと悪戯っぽく笑った。



「俺は隣だったから・・・・・・聞こえたぜ?」



『3月 ・・・・・一緒にどこまでも・4』




こ、今回長かった・・・・・(汗)
でも、第一話に入れといた伏線(?)が、やっと出せる〜!
・・・・・・忘れるところだった。思い出せて良かった!(笑)



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