『この人はオレの全てを受けとめてくれる・・・・・・・』
そう、気がついて。
そして、エドは決意した。
彼に全てを伝えよう・・・・・誤魔化す事、なく。
どう言い出そうかと少し思案してから、ふとあることを思い出して。
やっぱりここは一言言ってやってから――――と、鋼の錬金術師は俯いて悪戯っぽく笑う。
「アンタがそんなに前からオレを思ってくれていたなんて、思わなかった」
ロイの腕の中でエドはそう呟く。
「エドワード・・・・・・」
「女と知った途端手の平返すなんて、どれだけ女たらしなんだと・・・呆れてた」
「エド・・・・・・・・」
ロイの声に少し情けない響が混ざる。
エドはそれに内心でクスクスと笑いつつ、続ける。
「しかもさ、あの『おまじない』。あん時温かい気持ちになったのに・・・そんなヨコシマなオチだったのか？」
じゃああの時は騙されたのか？と、抱き寄せられていた胸を押し返す。
少し身を離して口を尖らせると、ロイはとうとう困ったように眉を下げた。
「う、まぁその・・・・・・・・・・・・・・・・・すまん」
その弱りきったような顔に、エドは堪えきれず噴出した。
だって、あのいつもスカした顔の大佐が。
いつも人より一歩先にいて、人を凹ます男が。
『わけが分からない』と思っていた彼の心情が、今は手に取るように分かって。
――――――――――笑わずには、いられない。
「エ、エドワード？」
拗ねられる・・・と思いきや。
プッっと噴出したと思ったらそのまま肩を震わせて笑い転げる彼女に、さすがのロイも困惑。
恐る恐る顔を覗きこむと―――――エドは目じりに浮かんだ涙を指でぬぐってから、ふわりと微笑んだ。
その顔に見とれていると、胸にぶつかる衝撃。
自分の胸に再び飛び込んできた少女にロイが驚く中、
エドはロイの胸にすりっと頬をすり寄せてから、男の顔を見上げた。
だって、初めて見た弱った彼の表情は、なんだか可笑しくて・・・・・・・・・愛しくて。
『おまじない』のキスをもらった時よりも、ずっとずっと心が近くなった気がして、嬉しくて。
思わず、素直な言葉が口からこぼれ出る。
「大佐、好き」
驚きの表情。
「・・・・・・・好きになってくれて、見守ってくれて・・・ありがとう。すごく嬉しい」
「エドワード」
言葉の意味を理解して、男の表情も歓喜に変わる。
次に優しい笑みを浮かべて、彼の唇が少女のそれに向けてゆっくりと降りてくる。
――――――だが、少女はそれが触れる前に、自分の指でそれを止めた。
「エドワード？」
――――訝しげな、ロイの声。
エドは、ゆっくりとロイの唇にあてていた手を下ろし
一度、目を細めるような仕草をしてから、もう一度ロイを見つめ直し、口を開いた。
「実はね」
「・・・うん？」
「今日――――――――――アンタに別れを告げる気で、ここに来たんだ」
ロイの目が大きく見開かれた―――――――――
『３月 ・・・・・一緒にどこまでも・９』