ロイエド一年間・・・・『5月・・・戦ってたら怪我しちゃいました・1』



「大佐、オレと勝負しろ!!」

ひと月ぶりに東方司令部に姿を現したエドとアル。
大佐の執務室のドアを開けてエドが発した第一声がそれだった。

執務室内に居た全員が、面食らったような顔でエドををポカンと眺める。
最初にフリーズ状態から抜け出して言葉を発したのは、部屋の主であるロイ・マスタング大佐だった。

「勝負?」
「そうだ。オレと戦え!!」

ビシッとロイを指差して、鼻息も荒くふんぞり返るエド。


「・・・・・何故、愛し合う2人が戦わなければならんのかね?」

ロイの言葉に、側近達は驚きの表情で彼を振り返り、
リザとハボックは、ため息を吐き、
アルが『ええっ、兄さんそうだったの?!』と驚きの声を上げた。
エドはポカンとした顔をし、次に額に怒りマークを幾つも浮かべながら真っ赤になった。

「だ、誰と誰が愛し合ってるってるっていうんだ?!この色ボケ大佐〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

ひと月ぶりの2人の再会は、エドの絶叫で始まったのだった―――



******



ひと月前、ロイ・リザ・ハボックにエドの秘密がバレてしまった。

エドの秘密。それは『彼』が本当は『彼女』だと言うこと―――

バレはしたものの、こちらで書類偽造したわけでもなく、軍側の不備。
それを指摘して、『こっそり直して他言は無用に』と約束させた。
本当は大佐達にも知られたくなかったけれど、バレちゃったものは仕方ない。
少々開き直って、さっさとその場を立ち去ろうとしたエドだったのだが・・・

突然ロイが 『これから口説かせてもらう宣言』 をした上、
なんと、ファースト・キスまで奪われてしまった!!

男勝りで、小さい頃などは『自分は本当に男』と信じていたエド。
幼馴染の少女・ウィンリィに、プロポーズした事があるほどだ(笑)
さすがに今は『自分は本当に男』などと、つゆほども思ってはいないが、
男勝りな態度と、男言葉は変わらずそのままで。
今では、並みの男など足元に及ばないほど腕っ節が強くなり、男らしさに磨きがかかってしまっている。

だがそんなエドも、やっぱり『女の子』で。

ファースト・キスを奪われたのは、やはりかなりのショックだった。
その場は、床から練成した特大の拳でロイをぶん殴り、(側に寄るのが怖かったらしい・笑)
報告書も出さずにイーストシティから逃げ出してきてしまった。
そのまま連絡もせずに、ひと月近く寄り付かなかったエドだった。

だがこのひと月あまりの間、彼女はもんもんと一人、考えていたのだ。

練成した拳で殴ってきたとはいえ、あの後一言も言葉を交わさずに飛び出してきてしまった。
まるで、『女の子のように』顔を真っ赤にして逃げ帰って、
何度か『連絡を寄越すように』と、訪れた先で伝言をもらったのだが、無視してそのまま逃げ回っていた。

理由は他ならない・・・『ロイに会いたくない』からである。
キスされて、『これから口説く』と宣言されている相手と会う・・・・・・
それを想像しただけで、顔から火が出そうなくらいだ。
・・・多分、顔もまともに見れないかもしれない。
そんな風に、自分が彼の前で『女の子』のような行動をとってしまうのは、とても耐えられない気がした。

男勝りでも実際は『女の子』なのだから、『女の子のような行動』を取ってしまってもなんら問題はない。
だが、エドとしては『男』として生きているつもりなのだ。
それが、あの一件で突然自分の『女』の部分を自覚させられて、パニックになっているのである。

会いたくない。
だけど、逃げるのは嫌だ。
そんな心の葛藤と、このひと月の間闘っていたのだった。

しかし・・・・数日前やっと心が決まった。

『グズグズと考えて逃げるなんて、オレらしくない!!!』

こっちが悪いところなど、一つも無いんだ!!
何をコソコソ避ける事がある?!
呼び出されて顔を赤くしてアイツの前に立つのではなく、
堂々とこちらから乗り込んで睨みつけて・・・あの時言えなかった文句をぶつけてやる。
それに、やっぱり練成した拳の一発じゃ足りない気がする!
やはり直接ぶん殴ってやらねば気が納まらない。

そうだ・・・どうせなら、正面きって勝負を挑んで・・・
側近の前でボコボコにして、恥をかかせてやろう。
いくらアイツが真性のタラシでも、自分より強い女にもうあんなふざけた事を言っては来れないだろう?
錬金術の腕も上がったし、格闘だって実戦を積まざるを得ない状況で、確実に腕があがった。
大佐は管理職でデスクワークばかりしているし、体力の差があっても格闘では自分の方が強いはず。
錬金術だって、大佐は馬鹿の一つ覚えのように(笑)『焔』しか使わないじゃないか?
バリエーションにとんだ練成が出来る自分の方が有利なはずだ!!

『きっと、いける!!』

そして彼女は、顔を覗かせた『女』の部分を再び押し込めるため、自分の自尊心を取り戻す為、
ロイとの勝負を決意したのだった。



「東方司令部に行く」

突然のエドの言葉に、事の次第を詳しく聞かされていなかった弟は首を傾げた。
『戻れ』との命令も無視していたのに、今度は自分から行くと言う姉。

『まぁ、これで何があったのかやっとわかるよね?』

そう心の中で呟きつつ、アルも腰をあげたのだった。



******



そして、イーストシティに降り立った二人。

赤くなったりしないように、かなり気合を入れて再びロイの前に立ったエドだったのに、
ロイの軽口にまた真っ赤になってしまった。

『悔しい・・・・・・・!!』

そのまま膝を折ってしまいそうになったが、何とか踏みとどまった。
いや、まだ負けたわけじゃない!!
勝負してぶちのめせばいいだけだ!!

エドはもう一度、キッとロイを睨みつけると言い放った。

「オレと勝負しろ、大佐!!」
「だから、なぜ・・・・・」
「アンタがオレのプライドを傷つけたから!!」

アンタに勝って、オレは自分を取り戻す!!

ロイは彼女の言葉に目を見開き、それから少し細めて微笑んだ。

『プライド・・・か』
そして席を立ち、エドの側まで近づく。

思わず後ずさりそうになる自分を押さえつけて、エドはロイを睨みつけた。

「・・・ただ、戦うだけかい?」
「オレが勝ったら土下座して謝れ。二度とあんなふざけた事は言うな。」
「で、私が勝ったら?」
「・・・この間の事は、忘れてやる」
「別に戦わなくても、謝れと言うのなら謝る。確かに強引だったからね?
・・・・・・・でも、勝ったご褒美が『忘れてやる』じゃ嬉しくないな?」

―――「だって、私は『君にあの事を忘れてほしくない』んだから。」―――

目を見開いて息を呑むエドの頬に、ロイは手を寄せる。
だが、その手は白磁の頬に触れる前に彼女の手によって振り払われてしまう。

「じゃ、どんな条件を呑んだら、戦うんだ?!」

エドは声を落として聞いた。自分でも緊張しているのが分かる。
愛人になれとか、言いなりになれとか・・・暗い想像か頭をよぎる。

「そうだな・・・・私が勝ったら、ひと月に一度必ずここに帰ってきて2・3日滞在してくれ」
「・・・・・・・は?」

それだけ・・・?そう目で問い掛けてくるエドにロイは微笑んだ。

「もちろん滞在している期間は、存分に口説かせてもらうよ?」

とにかく君に会えなければ、それもままならないからね?
そう言ってウインクするロイに、またエドは赤くなりそうになる。

『馬鹿にしやがって、このタラシ!!本気でも何でもないくせに・・・・!』

「・・・まだ、そんなふざけたこと言ってのか。司令官ってのはよっぽど暇なんだな?」
「私は、真面目に言ってるんだがね?」
「わかった・・・・・じゃ、それで戦うんだな?」
「本当は君を傷つけたくないんだが・・・・それで君の気が済むのなら、受けるよ?」
「・・・・・たいした自信じゃねーか?言っとくが、オレは強いぜ?」
「知ってる。だが、勝つよ?勝って、私の愛が本物なのを証明して見せよう」
「・・・・・っ、場所や時間は任せる、逃げんなよ?クソ大佐!!」

そう言い放つと、エドは踵を返して部屋を出て行った。
アルはオロオロと2人を見比べた後、近くにいたリザに、
『僕達、いつもの所に泊まってますから』といい置いて、姉の後を追って走り去った。

事情をしらない、ブレダ・ファルマン・ヒュリーの顔色は、心なしか悪い。
「なぁ・・・・・大佐、今度は男の子にも手を出し始めたのか?」
小声でおそるおそる聞いてくるブレダに、ハボックは答えず複雑な顔をした。

ハボックが心の中で呟いていたのは、
『エド・・・とりあえず・・・あの場合傷つくのは普通、プライドじゃなくて『乙女心』なんじゃあ・・・?』
・・・という、一般人として、もっともなツッコミだった。(笑)

『戦ってたら怪我しちゃいました・1』・・・2に続く


戦わねば!!と思ったら、一回じゃ終わりませんでした(-_-;)
元々連載なのに、これ以上長くしてどうするよ、自分?(苦笑)
なんとなく・・・いつも書いてる男の子エドより、男の子っぽいかも?エド子。


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