ロイエド一年間・・・・『5月・・・戦ってたら怪我しちゃいました・2』



「オイ・・・・・なんでこんな事になってんだ?」
「それは、こっちが聞きたいくらいだよ・・・・・」

ここはセントラル練兵場。
戦闘訓練を行う、このだだっ広い場所は、今異様な熱気に包まれていた。
祭りやぐらのようなやぐらが組まれ。
戦う場所に縄張りがなされ、その向こうには軍人が鈴なり状態である。
しかも、一番良い場所にはひな壇が設けられ、将軍クラスの人物が並んでいた。

ひな檀の近くにでかでかと掲げられている看板には、こう書いてあった――――



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『模擬戦闘 焔VS鋼!!』

●焔の錬金術師ロイ・マスタング大佐と鋼の錬金術師エドワード・エルリック氏による、模範戦闘。

●裏タイトル・・・・・『愛は拳で手に入れろ!!』
       ロイ・マスタングはエドワード・エルリックを落とせるか?!二人の愛の行くえを見守ろう!

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「・・・仮にも『裏』とつくなら、こんなに堂々と掲げんなよ・・・・」
「まったく、同意見だ」

広い練兵場のど真ん中で、ロイとエドは同時にため息を付いたのだった。



******



エドがロイに戦いを申し込んだ次の日、ロイの執務室を訪れた者がいた。
ロイの親友であり、同じ軍に身を置く、マース・ヒューズ中佐だ。
彼は執務室に入室するなり、開口一番にこう言った。

「よぉ、ロイ!今度はショタコンに走ったって?」

ゴン。
思わず机に頭をぶつけてしまった。

「なんだ、それは?」
「まーた、また。とぼけんなって、セントラルまで噂で持ちきりだぞ?!」
「噂?」
「ああ。『女タラシのロイ・マスタング大佐が、今度は男の子に手を出し始めたらしい』ってな!」
「・・・・・その噂はどこで?」
「俺の情報網をなめんなよ?昨日その情報を聞いて・・・」
「聞いて?」
「今日の午前中に俺がセントラル中に広めた!!」
「・・・・・・」

ガッハッハ!!
さもおかしそうに笑うヒューズに、ロイは無言のまま、発火布の手袋を嵌めた右手を上げた。

「うおっ!?ロ、ロイ落ち着けって!!」
「落ち着いていられるか!ったく、余計なことを・・・・・」

そこまで口に出して、ロイはふと考えた。
これは、自分にとっての追い風になるかもしれん・・・
ひとつ、利用させてもらおうか?
ロイは振り上げた手を戻し、ニヤリと笑った。

「仕方ない、許してやろう。だが、換わりにお前にやってほしいことがある」
「・・・・・なにさせるつもりだよ?」
「何事も等価交換だよ、ヒューズ・・・・」
「これだから、錬金術師ってやつは・・・・・・」

ヒューズは、嫌そうにため息をついた。



******



その時にエドワードが本当は女性なのをヒューズに打ち明け、書類の改ざんを依頼。
おまけに、エドと戦う場所の確保を頼んだのだが・・・・・・

『失敗した・・・・』

あのお祭男が、ただ練兵場を借りるだけで済ますわけが無いとは思っていた。
だから、奴に頼めばある程度ギャラリーがついてくるのも予想の範囲内だった。

実は、エドワードは結構軍部内で人気がある。
特にエドを男と思っているある種の輩は、かなり本気で狙っている者もいると聞いていた。
見かけにあわず腕っ節が強いのと、地位が高いのとで、なかなか手を出せる者もいなかったようだが・・・
下士官辺りには無理でも、ある程度の地位にいる『お稚児趣味』のオヤジ供はなかなか厄介だ。
だからこそ、この機に乗じて『私のモノ』と知らしめてやれば、ある程度けん制になる。
その辺を好都合だと判断したロイだったのだが・・・・

チラリ、と用意されたひな壇の最上段に座る人物を見上げる。
壇上には絨毯が敷かれ、豪華な椅子が用意されている。
そして、その椅子に座るのはキング・ブラットレイ大総統、その人だった。

『まさか、大総統まで引っ張り出してくるとは・・・・・』

確かに、お祭好きの筆頭だろうが、あんなものまで呼ぶことは無いじゃないか・・・
こちらに近づいてくるヒューズを睨みつけた。

「よぉっす!お二人さん、調子はどうだ?」
「ヒューズ・・・」
「中佐・・・・・」

二人の錬金術師に睨みつけられて、ヒューズは肩を竦めた。

「そんな睨むなよ・・・・こえーなぁ?」
「何故、大総統までいるんだ?!」
「模擬戦闘申請したら、ついてきた」
「菓子のおまけじゃあるまいし・・・・・」
「まぁ、いいじゃねぇか?お前にとっては好都合だと思うぜ?」

そう言うと、ヒューズはロイを手招きする。
ロイが顔を顰めながら近づくと、耳元で内緒話をするように声を落とした。

「実はよ、エドを狙ってる奴ってさ、上層部にもいるんだよ・・・」
「なんだと?!」
「流石に将軍クラスじゃ、お前もエドを守ってやるの、骨が折れるだろ・・・・?」
「そう・・・だな」
「だろ?だからさ、大総統に『エドはお前のモノ』って認めさせてやるんだよ。
そうすりゃあ、あの狸供も迂闊に手出しできなくなんだろ?」
「ふむ」

確かに上層部こそ、そんな趣味の輩が多いと聞いた。
女性と知れても、やはり危ないことになってしまうだろう。
ここはヒューズの言う通り、害虫駆除のチャンスかもしれん。
ロイは無言でヒューズを見、ヒューズも無言で頷いた。

「何2人だけでコソコソ喋ってやがるんだ?」

まさか、親友だからって有利に運ぶように便宜はかってんじゃねぇだろうなぁ?
そう、ジロリと睨むエドに、ヒューズは両手をあげて見せた。

「睨むなって!俺は中立だよ?大丈夫だ」
「そう?だったいいんだけど・・・なら、さっさと始めようぜ?」
「おお、やる気満々だな!!」
「あったりめーだ!今日こそ大佐のスカした面を、ぶん殴ってやるんだからな!!」

息巻くエドに、ロイは苦笑した。
『ったく、人の気も知らないで・・・・・しかし、どうしたものかな?』
公衆の面前で戦うのは、確かに先のヒューズの提案どうり、いい案だ。
だが、適当に手を抜けるほど、エドは弱くない。
本気で遣り合ったら、双方怪我することは必至だ。
エドを傷つけずに、敗北を認めさせるにはどうしたらいいか・・・?
・・・だが、分は自分にある。

『勝負』とは、ただ力押しだけではないんだよ?鋼の。

ロイは、ニヤリと笑った。



******



「赤コーナー!!
女だけでは飽き足らなくなって、美少年にまで手を出し始めた男!!ロイ・マスタング!」

「なんて奴だー!!この外道!!!」
「なら、俺の彼女は返せ!!」
「女を独り占めしておいて、俺たちのアイドルにまで手を出すなー!!」
「滅べー!!」

ヒューズの紹介に顔を引き攣らせながらも、その他の罵声はきっちりシカトするロイ。

「青コーナー!!
タラシに見初められた、薄幸の美少年!!エドワード・エルリック!」

「うわ、本当にちっちゃくて可愛い!!」
「大佐が手を出す気持ちわかるな〜!!」
「頑張って、貞操をまもれよ〜!!」
「L・O・V・E ラブリーはがねー!!」

「・・・やっかましい〜〜〜〜〜っ!!ちっちゃいって言うな!!!」

さっきから聞こえる聞き捨てならない言葉に、『軍って、変態の巣だったのか?!』と怒りをあらわにする、エド。

「はっはっはっ、二人の行く末は私が見届けようではないか!!」

そして、大総統の豪快な笑いとともに、二人の戦闘の火蓋は切って落とされたのだった。



******



「ちっ、いきなりかよ?!」

次々襲いくる焔と爆風に、エドは右へ左へ、フットワークを効かせて回避する。

『とにかく、接近戦に持ちこまねーと・・・』

離れていたら自分に分がないことを知っているエドは、焔を避けながらジリジリとロイに近づいて行く。
爆炎で上がった土ぼこりと煙で視界が悪くなってはいるが、その方が好都合だ。
まぁ、あっちも予想してるだろうが、かく乱する手も考えてある。
エドは、ニッと口元を歪めるように笑うと、煙に紛れるように足を進めた。

「近づいてくるな・・・・・」

焔を次々に練成しながら、エドが近づいて来るのを、ロイは感じていた。
自分の練成は遠方を攻撃しやすいのを知っているし、彼女は体術が得意だ。
接近戦に持ち込みたいのだろう。
だが、こちらとしても近づけてから、決着をつけたほうが好都合。
まずは、懐に飛び込ませてやるか・・・・・
ロイは、ニヤリと笑い、また彼女が近づきやすいように、派手に爆煙をあげた。

お互いの思惑が一致し、そして二人の距離は一気に縮まった。

「そこか・・・・・・・!!」

何者かの気配にロイが手を振り上げると、そこにはコートを着たエドのダミー。
ご丁寧に、『スカ』の文字まで書いてある。

「ひっかかったな!!」
「!!」

反対方向から飛び出してきたエドは、ロイの発火布の練成陣を破り取った。

「・・・っ、しまった!!」
『もらった!!』

ロイの声に、自分の勝利を確信し、口元に笑みを浮かべかけたエドだったが、
彼の顔を振り返って、その笑顔が凍りつく。
ロイの顔は、余裕の笑みを浮かべていた。
ポケットから出した左手には、練成陣―――

「などと、焦った振りをしておいて・・・実は、左手も発火布だ」

うそ〜〜〜〜〜〜っ?!
焦りをあらわにする彼女に、ロイは綺麗にウインクして見せた。

「言ったろう?『必ず勝つ』と。悪いね、この勝負いただくよ。ハニー?」
「だ、誰が、『ハニー』だっ?!・・・・・っ!!」

何とか反撃にでようとしたエドだったが、攻撃に移る前に『パチン』と音が鳴る。

ドオン!!

爆音とともに、自分の体が宙に舞うのが分かった。
痛みもないとこをみると、直接自分に攻撃を加えず、足元の辺りを吹っ飛ばしたのだろう。
だが、このまま地面に叩きつけられたら、マズイ!!
何とか体制を立て直そうとするが、うまく行かず・・・衝撃を予測して思わず目を瞑る。
だが、予想したような衝撃はくることなく、『ドサリ』という音と共に、何かに受け止められた感触。
恐る恐る目を開けると・・・・・自分を受け止めて微笑むロイの顔が見えた。

「怪我はないかい?」
「・・・・・やれよ」
「?・・・何をだい?」
「・・・だから、とどめ刺せっていってんだっ!!」

彼が受け止めてくれなければ、地面に叩きつけられ、動けずに勝負は決まっていただろう・・・
だから、まだ動けても、この勝負は自分の負けだ――――
なら、とっとととどめを刺せと、エドは悔しそうに唇を噛んで言い放った。

「じゃあ、この勝負は私の勝ちって事かな?」
「・・・・・ああ」
「なら、遠慮なく・・・・」

ロイの言葉にエドは目を閉じて、体に力を入れる。
だが、痛みのかわりに感じたのは、唇に柔らかい感触。

「!!!」

思わず目を見開くと、間近に男の伏せられた長い睫毛が見えた。
血が逆流したかと思うほど顔を真っ赤にして、男を引き剥がそうと胸を押すが、ビクともしない。
それどころか、ますます唇を押し付けられて、エドはたまらず再び目を閉じた。

ギャラリーの歓声も遠くなっていって、頭の中が真っ白になった気がした―――



『戦ってたら怪我しちゃいました・2』・・・3に続く


戦闘シーンなんか思いつくわけも無いので(苦笑)うちのエド子はここで軍部祭って事で。
ヒューズさん、初めて書いちゃったよ!!なんか、動かしやすくていいキャラですね(笑)
ロイ、タラシ全開で行きますよ〜♪(止めれ)
何気に、エドがアイドル状態になってしまいました。(^_^;)
でもって、また続いてしまいました・・・・・・・(苦笑)


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