ロイエド一年間・・・・『6月・・・じめじめするんだけど・1』



じめじめ、しとしと・・・・・・
この季節、アメストリスでは雨の日が続くようになる



「兄さん・・・・・いつまでそうしているつもり?」

アルフォンスの呆れたような声に、エドはノロノロと顔をあげる。
その顔は、窓の外と同じような、ジメジメといった感じ。
全くもって、兄・・・いや、姉らしくない。

「そろそろ発たないと、本当に間に合わなくなるよ?」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」

そう言ったきり、またクッションに顔を埋めてしまう。
さっきから、ずっとこの繰り返しなのだ。

『まったく・・・・・・』

アルは今日、十何回目かのため息をついた。



******



こんな事態になったのは、2ヵ月ほど前、自分が姉を一人残して外泊した事が発端だった気がする。
駅で知り合った老婆を家まで送ったら、土砂降りにみまわれ、やむを得ず姉を一人にした。
次の日もどってみると、狼狽しまくりの姉。
訳を聞いても答えず、逃げるようにイーストシティを後にした。
それからなんだか悩みまくっていたようだが、先月意を決したように、再びイーストシティ訪問を口にした。
そして訪れた東方司令部で、やっと姉の変化の理由が分かったのである。


ずっとひた隠しにしていた『女である』ことが、大佐、中尉、少尉にばれてしまったらしい。


それだけでも、姉にとっては結構ショックだったのだろうが、
中尉に聞いてみたらもっとショックなことがあったらしい。


あのロイ・マスタング大佐に、口説かれたらしいのだ。(しかも、ファーストキスまで奪われた)


今までの人生、女を口説いたことはあっても(といってもほんの4・5歳の頃だけど・笑)
男に口説かれたことは無い姉。(『男』としては、そのテのおじさんによく声をかけられるが)
彼女にとっては、未知との遭遇だったろう。
そのショックは計り知れない。

姉なりに悩んで悩んで、どうやら『なかったこと』にしたかったらしく、
先月大佐に条件付の戦いを挑んだが、あえなく敗れ・・・・・・・
戦いの前に約束させられた
『ひと月に一度イースシティに帰り、2・3日滞在する』
を、実行しなければならなくなったのである。

先月の戦いの最中にも口説かれ、また唇を奪われてしまった姉は(戦いの最中にもって、すごいなぁ)
どうにも行きたくないらしく・・・・・・・
でも、約束を破れば何を言われるか分からない為、すっぽかすわけにもいかなくて、
ギリギリまで、葛藤しているらしかった。

そんなこんなでここ一週間ほどジメジメとしていた姉だが、もう本当に時間切れである。
今日のお昼の列車に乗らなければ、イーストシティに今月中に付く事は出来ない。

「ねぇ、列車の時刻まで後30分だよ?もう、本当にここ引き払って出ないと、間に合わないよ?」
「アル・・・・・・そんなに、オレを行かせたいのか?!」

最愛の姉が、タラシの毒牙にかかろうとしてるんだぞ?弟して、体を張ってでも止めるべきだろ?!
今度は逆切れしたらしく、食って掛かってくる。

「自業自得でしょ?僕に全然相談もしてくれなくて、勝手にあんな勝負挑んじゃってさ?」
「うっ」
「相談してくれてたら、僕はあんな勝負を挑むの、止めたよ?」
「・・・・・勝てると思ったんだよ」
「兄さんは自信過剰すぎるよ。大佐の年齢、知ってる?」
「へ?・・・・・たしか、29・・・・だっけ?」
「そ、29歳。兄さんも軍属になってもう3年になるよね?軍がどんな所か分かってるでしょ?」
「うん・・・・・」
「あんなところで、あの若さで大佐の地位にいるんだよ?弱いわけないじゃない」
「うう・・・・・」
「兄さんは、もっと自分を知る必要があるよ」

腕に自信があっても、男勝りでも、あなたは確かに女性だよ?

そう言うアルに、エドはカチンとする。
「なんだよ、それ?!女が男より劣ってるって言うのか?」
食って掛かってくる姉に、アルは相変わらずピシャリと諭す。
「そん事言ってるんじゃないでしょ?僕は女の人、尊敬しているし・・・そうじゃなくて」

口説かれて動揺しているのは、女性だからでしょう?

「いくら男ぶっても、女の人なんだよ。・・・それを、あんな無茶して、まんまと乗せられて。
もっと自分を大事にしなきゃダメだよ。大佐が兄さんを弄ぶような人だったら、どうするの?」
「・・・・・・・」
「女性なのを自覚して、それでいて隠すならいろいろと防衛もできるのに、
兄さんは・・・姉さんは、ただ女の部分を押し込めて、男だと思い込もうとしてる」

男になんか、なれっこないのに。
確かに女の人なのに。

「アル・・・・・・・もしかして、怒ってる・・・・・?」
「怒ってるよ!当り前じゃない!!あなたは、僕にとってたった一人だけの姉なんだよ?大切なんだ!!
なのにいっつも先走って、無茶ばっかりして!!」
「・・・・・・・・ごめん」
「過ぎた事は仕方ないけど・・・・・・・それに、いい機会かもしれない」
「え?」
「前から僕、言ってたよね?旅は危険を伴うから、男の振りをしているのは賛成だ。
だけど、親しい人にはちゃんと性別を告白して、力になってもらうべきだって」
「うん・・・・・・・・」
「ばれちゃったことだし、この際大佐達にはいろいろと力になってもらおうよ?
大佐にってのは丁度よかったかも。あのくらい地位のある人じゃないとね。」

それに・・・バレたのなら、秘密を知っている人の前でくらいは、ちゃんと女の人に戻るべきだと僕は思う。

そんな事を言い出すアルに、エドは慌てる。

「ちょ、ちょっとまて!!じゃ、お前は大佐と付き合ったほうがいいと思ってるのか?!」
「付き合う付き合わないは、本人同士のこと。姉さんが決めればいいよ。
ただ、自分を女性だって自覚するいい機会だとは思う。
・・・・・・あんなに口説かれてれば、さすがに兄さんも『自分が女だって』自覚するでしょ?」

だって兄さんったら・・・・・・
一人の時でも裏路地入っちゃうし、柄の悪いお兄さんに自分から喧嘩ふっかけちゃうし、どんどん言葉悪くなってくし、外でもどこでもその辺で寝ちゃうし、寝ちゃうと、近くに男の人が居ようが居まいがおなか出しちゃうしっ!!!
・・・僕がいつもどの位ハラハラしてるか、わかってんの?!

今までたまっていた不満を矢継ぎ早にぶちまけられ、一時エドは怯む。
だが、アイツに『女を自覚させられる』なんてごめんだ!!とばかりに反論する。

「だ、だけど・・・お前、さっきアイツに『弄ばれる』って言ってたじゃねーか!!」

女性であることを自覚するどころじゃなく、別の意味で「女」にされそうである。

「違うよ『大佐が弄ぶような人だったら』っていったの。・・・僕は大佐がそんな人だとは思ってないよ」
「・・・・・お前、大佐の事よく分かってないんだよ〜〜〜!!」
「・・・ま、それはともかく。行くの行かないの?!逃げる気なら、とことん付き合うけど?」
「うっ・・・・・・・・」

言葉に詰まった姉は、俯いて少し沈黙した後、「行くよ」と小さい声で言って、立ち上がった。

そして、2人はイーストシティ行きの列車に乗り込んだのだった。



『じめじめするんだけど・1』・・・2に続く


今まで沈黙を保っていたアルが、ちょっと出ばってきます。
エド子のアルは、男の子エドの方のアルと基本的に同じだけれど、ちょっとクールで黒いところも出てくるかも?
何てったって、隙だらけの最愛の姉をフォローしなければなりませんから(笑)
でも、大佐VSアル・・・みたいな三角関係状態(?)は、あんまり好きではないので、
弟として、(行き過ぎな時は釘をチクチク挿しながら)後押しさせたいと思ってます(笑)


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