ロイエド一年間・・・・『6月・・・じめじめするんだけど・2』



「あら、エド君アル君、いらっしゃい」

司令部に顔を出すと、ホークアイ中尉が笑顔で出迎えてくれた。

「久しぶり、中尉。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大佐、いる?」
「ええ、居るわよ」

いるのか。(涙)
出張とか、視察とか、留守にしてくれてればよかったのに!!
『いつも 「激励」 とか何とかで突然呼び出すセントラルはどうした?!こんな時こそ呼び出せよ!!
・・・・・・・・・使えねぇなぁ・・・・・・・・・!』
セントラルの、会ったことも無い高官に胸中で悪態をつきながら、エドはガックリと肩を落とした。

「エド君・・・・・・やっぱり、大佐に会いたくなくて帰ってこなかったのね?」

まぁ、無理もないわ?
リザは、同情したように肩を竦めた。

「ここには来たってことで条件クリアにならないかな?」
「多分、顔見ないと納得しないでしょうね・・・・・・」
「やっぱり〜〜〜〜〜〜〜〜?」

いじけたようにしゃがみ込み、床にのの字を書き始めるエドに、リザは苦笑した。
『かわいいわね・・・・・・大佐がかまいたくなるの、わかるわ』
エドが聞いたら真っ赤になって激高しそうな台詞を胸中で呟いて、リザはエドの肩を叩いた。

「でも、今日来たのは幸いだったわ」
「へ?なんで?」
「エド君外を見て御覧なさい?」
「外??」

外に何かあるのだろうか?と窓をのぞいてみるものの、特に変わったものも見当たらない。
ピンと来ないエドの様子を見て、リザは付け加えた。

「違うわ。天候を見て?」
「天候?・・・・・・・・あ!!!」

外は、ここ一週間ほどしとしとと降り続いている――――雨

もしかして・・・・・・
そうりザを振り向くと、彼女は頷いた。

「そう、無能日和なのよ」

その言い回しに、思わず姉弟は『プッ』と吹き出す。
上司に・・・しかも、ここの最高司令官に向かって、この言い草。
『やっぱりこの人って最強だ』
エドは頼もしげにリザを見上げた。

「おかげで、書類が片付かなくて困っていたのだけど、あなたにとっては良かったかも知れないわ。
・・・・ゆうに、3日分は決済書類がたまっているのよ」

ああ、もちろん・・・休憩もなし・残業つきで処理した場合の日数よ?
そう言うと、リザはニッコリと微笑む。

「!!・・・・・・じゃあ、3日間は俺を構ってる暇なんか無いって事だね!?」
「ええ、そういうことになるわね」
「やった〜〜〜〜〜〜〜!!」
「多分、逃げ出して構いに来るとは思うけど・・・書類が片付かないうちは、私が足止めしてあげるわ」

そう言って銃の手入れをしだす中尉の背後に、エドは天使を見て。・・・アルは悪魔を見た。
ホルスターに銃をしまいながら、「でも」と、リザは顔を顰めた。

「でもね、あの人は女性の事となると、本当に凄い力を発揮するのよ・・・。油断できないわ?」
「え?でも・・・・・いくらなんでも、3日分の書類が1日で終わったりはしないだろ?」
「どうかしら?なにしろ『あの大佐』ですからね。・・・・・・仕事があるうちは私が近寄らせないけど、
終わった後のプライベートまでは口出しできないし、油断は禁物・・・・・」

リザがそこまで言った時、司令室のドアが勢いをつけて開いた。

「鋼のが来ていると聞いたのだが!!」
「げっ!!」
「大佐、ドアは静かに開けてください」

エドは青くなって部屋の隅に逃げていき、リザはクールに注意する。・・・・が、本人どこ吹く風だ。

「ああ、そこにいたか・・・・・・どうしたね、そんな隅っこで小さくなって?
だが、君がどんなに小さく縮こまって、他人には見付けられないほど小さくなっていようとも
私はすぐに見つけてみせるよ!」

愛があるからね?
そう言ってニッコリと笑うロイに、エドは猫のように逆毛だてて、一気に駆け寄った。

「小さい小さい連呼してんじゃねぇ!!クソ大佐!!」

エドは猛然とロイに殴りかかる。
だが、ロイは殴りかかってくる腕をあっさりと掴み、その体を引き寄せて腕の中に閉じ込めた。

「わっ?!・・・ちょ・・・っ?離せっ!!」
「おかえり、鋼の。・・・・・・待っていたよ」

久しぶりの温もりを確かめるように、ギュッと抱きしめられて、エドの体温は一気に急上昇する。
真っ赤になりながら、ジタバタとロイの腕の中で暴れてる姉を見て、アルは苦笑した。

「やっぱ、大佐の方が上手ですね?」
「自分から近寄っちゃ防ぎ様がないわね・・・・・」

呆れを含んだリザの台詞だが、手のかかる妹を見守るような優しい表情が見て取れる。

「アル君、止めに入らなくていいの?」

大事な姉があんなのに絡まれて、妬けたりしない?
そう聞いてくるリザに、アルは少し考えるそぶりをした。

「うーん。妬けないって言ったら嘘になるんですけど・・・。でも、兄さんにはいい事な気がして」
「あんな年上の無能上司に口説かれるのが?」
「あはは。無能だけの人なら、とっくにぶん殴って止めさせてますけどね?」

そうじゃないでしょう?あの人?
多分、あの男を一番理解しているだろう彼女は、小さく笑った。

「ま、実際年は離れてるし・・・兄さん・・・姉に相応しくない様なら僕が命を賭けても戦いますよ。
ただ・・・・・少し様子をみても良いんじゃないかとおもって」
「そうね。でも・・・様子を見るのは良いけれど、気をつけてあげないと。
試しているうちに取り返しがつかない事になったら困るでしょう?あの人、本当に手が早いわよ?」
「んじゃ、ちょっと釘さして来ようかなぁ?」
「そうしましょう」

2人は顔を見合わせて頷くと、未だもがくエドと抱きしめるロイの後ろから近づく。

「そこまでです、大佐」

背中に当たる硬い感触と、カチリというセーフティレバーを外す音に、ロイは動きを止める。
冷や汗をかきながら、エドから手を離し、ゆっくりとホールドアップの形に手を上げた。
その隙に、アルフォンスが姉を取り戻す。

「司令官自ら、軍部内でセクハラをするのはいかがなものでしょう?」
「中尉、これは断じてセクハラなどではないぞ?愛のこもったスキンシップというか・・・」
「一方的な愛のこもったスキンシップは、立派なセクハラです。
・・・ところで、書類の方は目を通していただけたのでしょうか?」

リザに冷たい視線で睨まれて、ロイは引き攣った笑いを返した。

「いや・・・・・・まだ終わらないのだが・・・・・・・」
「でしたら、早急に片付けてください。エドワード君と話をしたければ、全てきっちり終わらせてからお願いします」
「いや・・・しかしだな。折角ひと月ぶりに会えたのに・・・・・」
「大佐、申し訳ないですが。僕も、仕事もちゃんと片付けられないような人に兄さんを預ける気にはなれません」

もし、兄さんを誘いたいのであれば、仕事をきっちり終わらせてからお願いします。
もちろん、明るいうちの健全なお付き合い・・・・・ですけど?

つまりは、仕事を早く終わらせて明るいうちに上がれないと健全デートさえもままならないと言うことか。
いつもは礼儀正しい弟にまでキッパリと拒否されて、ロイはため息をついた。

「わかった・・・・・」

うな垂れて肩を落としたロイだったが、すぐに姿勢を正し、
他の二人が止める間も、エドが抵抗する間もなく、さっとエドの両手を取った。

「鋼の。寂しいだろうが、今日一日だけ我慢してくれ。明日にはきっと迎えに行く」
「いや、全然寂しくないし、迎えにも来なくていいから!!忙しいんなら、オレを構ってないで仕事しろ!」

中尉達の苦労を思っての台詞だったのだが、都合のよい解釈をしたらしい男は嬉しそうに笑う。

「私を思って謙虚な言い回しなどしなくてもいいんだよ?君の為の無理は苦ではない。むしろ喜びだ!!
・・・だから、安心して本音を言ってくれて構わない」
「バリバリ本音だっつーの!!(怒)それに、オレは『毎月ここに帰ってくる』って約束はしたけど、
アンタと付き合うなんて、一言も・・・・・・」
「君は本当に素直じゃないねぇ・・・まぁ、そんなところも可愛いんだが。・・ああ、もうこんな時間か。
名残惜しいが、後は明日のデートの時にでもゆっくりと話そう。では、な。鋼の」
「ちょ・・・・・!!」

勝手に自己完結して、ロイは最後にもう一度ギュッと強く手を握り締める。
そして、いやに爽やかな笑みを残して去っていった。

「しっかり、約束を押し付けていったわね」
「あれじゃあ、文句言いたいならデートに行くしかないですもんね。やっぱ凄いなぁ、大佐は」

勉強になるなぁ・・・アルは感心したように、頷いている。
エドはその言葉にギョッとした。

「あんなタラシの手管を勉強してどうするつもりだ、アル!!」
「だって・・・元に戻れたら、やっぱり女の子にモテたいし。参考までに・・・」
「アイツを参考にするな!!まっとうな人生を歩けなくなる!!」

『ああ・・・あんな奴に付きまとわれていたら、オレどころか、アルにも悪影響だ〜〜〜〜〜〜〜〜!!』

自分の身の危険よりも、最愛の弟がタラシになってしまう事を心配してしまう、超ブラコンな姉であった。



******



「おはよう、鋼の。アルフォンス君。」
「あ、大佐。おはようございます!」
『・・・来やがったな、エロ大佐・・・・っ』

次の日。
本当に3日分の仕事を一日で終え、有給をごり押しで取ったロイは、朝っぱらから宿にエドワードを迎えに来た。
宿の一階にある食堂で朝食を取っていたエドは、背後から聞こえてきたロイの声に、
昨日一方的に押し付けられた予定をキャンセルしようと、勢い込んでふりむいたのだが・・・

目が、点になった。

なぜなら、目の前が真っ赤だったから。
エドは、自分の目がおかしくなったのか?!と一瞬疑って、目を擦って、もう一度見直す。
だが、目の前のそれは消えない。どうやら幻ではないらしい・・・・

目の前の真っ赤な物。

―――それは両手に抱えきれないほどの、真紅の薔薇の花束だった―――



「君に」

そう言って目の前の男は、どこぞの貴族か?と思うほど優雅に、その大きな花束を差し出し微笑んだ。
その辺の男がやれば滑稽なだけかもしれないが、彼は恐ろしいほど板に付いている。
まさに、完璧。パーフェクトである。
唖然と見守っていた周囲の客達も、感嘆の吐息をもらした。(←主に女性)

エドワードは、咥えたままだったサラダに入っていたマカロニをとりあえず飲み込み、
まずは落ち着こうと小さく深呼吸をしてから、キッと男を睨みつけた。

「・・・・・・なんのつもりだ?」
「初デートだからね。花束は必需品かと思ったのだが・・・・・薔薇は嫌いかい?」
「好きとか嫌いとかじゃない!!・・・・・・アンタ、ふざけんのも大概にしろ!」
「私は真面目なんだけどねぇ?凄く。・・・・・私の気持ちを受け取ってはもらえないかな?」
「いらん!!」

そっぽを向くエドに、ロイはやれやれといった風にため息をついた。
そして、おもむろにその『いったい幾らしたんだ、これ?』と思うような花束をポンと床に放り投げた。
軽い音を立てて、花束は床に落ちる。
そっぽを向いていたエドだが、それに驚いて、ギョッとしたようにロイに視線をもどす。
・・・高価な花束を惜しげも無く捨てて振り向かせる・・・・・金持ちにしか使えない技である(笑)
(思わず、客達も『おおっ!?』っと、どよめいた)

「なん・・・?」
「まぁ、元々こんな物で気を引けるとは思っていないよ。
・・・・・・美しい筈の薔薇も、君の美しさの前では色を失ってしまうしね?」

公衆の面前で歯の浮くような賛辞を言われ、エドは顔色をなくした。
後でひそひそとこちらを指差し、話をしている客の視線が痛い。
『絶対、ゲイカップルだと思われてる・・・・・・っ!!』

そして、次に怒りとも恥ずかしさともわからず、頬が熱くなってくる。

『・・・コイツ前から思ってたけど、絶対神経がおかしい!!
何でこんな状況で、恥ずかしげも無くこんな事が出来るんだ?!
恥ずかしい。恥ずかしくて、死にそうだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!』

フルフルと震える姉を、弟は気の毒そうに見つめる。
だが特に口出しもせずに、とりあえず少し離れて見守った。(他人の振りをしたかったのかもしれない・笑)


「それに・・・・・」
『まだいうか!!』

ロイが更に言葉を続けようとするのを感じて、エドは拳を握り力を込めた。
次に妙な事を言われたら殴るための準備だったのだが・・・・

「それに・・・・・こんなもので、私の君への気持ちを伝えきれるわけも無い」

急に声を落として語り、真剣に見つめられ・・・・・・
エドは、今度こそボンと音がしそうなほど真っ赤になった。


ガタン

エドは音を立てて立ち上がり、むんずとロイの腕を掴む。
そして、ロイを連れて小雨振る外へと、すごい勢いで走っていった。

・・・・・どうやら、この状況にこれ以上耐えられなかったようだ。
(しかも、自分がいなくなった後何を吹聴されるかと思うと、おいてもいけなかったらしい・笑)
慌てて自分も外に出たアルフォンスは、小さくなっていく二人の背中に叫んだ。

「大佐〜〜〜〜〜!!門限は9時ですからね〜〜〜〜!!ちゃんと返してくださいよ〜〜〜〜〜?」
表情は見えなかったが、ロイがこちらに向かって手を振るのが見えた。

「傘もささないで・・・・・・風邪、引かないといいなぁ」

もうほとんど見えなくなった2人の後姿に、アルはそう呟いたのだった。



『じめじめするんだけど・2』・・・3に続く


終わりじゃないです。もうちょっと続きます。(またか・・・)
・・・なんか、リザとアルのコンビって好きかもv
自分で書いててなんですが・・・15歳の女の子が門限9時は遅い!!!
・・・・思わず6時半にしようかと思いましたっ!(多分現役の子は反論あるだろけど・笑)
アル、寛容すぎるぞ!!男の子エドならいざ知らず、お母さんは許しませんよ〜〜〜〜〜〜〜〜!!(なら、書くなよ・・・)


back     next      お題へ