ロイエド一年間・・・・『6月・・・じめじめするんだけど・3』



「・・・9時5分前か。完璧だな。」

これで、アルフォンス君にも好印象だ。
ロイは、エドが泊まっている部屋の前で満足そうに一人悦にいっている。
(どうやら、アルは味方につける事にしたらしい)

「・・・・・・思いっきり、連れまわしやがって・・・・・・」

エドは、ぐったりしたように背中を丸めて、恨みがましくロイを見上げた。

「おやおや、若い者がだらしの無い?」
「うっせー!!アンタが元気すぎるんだ!!」
「しかし・・・・・こんなに走り回る羽目になったのは、他ならぬ君のせいだと思うのだが?」
「うっ・・・・・・・」

痛いとこを突かれて、エドは言葉に詰まった。



******



彼女としては、勢いでロイを連れてでたものの、まともに『デート』なぞするつもりなど無かった。
ある程度宿から離れたところで、ロイを撒くべく、裏路地に逃げ込んだ。
メチャクチャに走って『もう大丈夫だろう?』と一息吐いて後を振り向く。人影はない。
ああ、追ってこないと安堵した時に、前から掛けられた声。

「鬼ごっこは終わりかい?」
「!!」

おそるおそる振り向くと、ロイが前方の壁に背を預けてニヤニヤと笑っている。

「なんで・・・・・っ?!」
「一応、私はここの司令官だからね?・・・・・地理は一通り頭に入っているんだよ」

どうやらまともに追いかけてきたのではなく、到着地点を予測して待ち伏せていたらしい。

『ちっ!』
エドは、舌打ちをしてまた走り出す。
今度は簡単に予測されないよう、道ならぬ道を通ったり、店の中を通り過ぎて裏口から出たりしながら走った。
しばらくして、膝に両手をつき、ゼイゼイと肩で息をしながらようやく立ち止まって呟く。

「今度こそ・・・・・・」
「今度こそ、なんだね?」
「ひいっ!!」

聞こえてきた声に、エドは思わず悲鳴を上げる。
そして、またおそるおそる声の方をふりむくと・・・・・・・・・・・・・・スカした顔。

「酷いな・・・・・人をばけもののように」
「なんでいるんだよっ!!」
「私はこの町の人に愛されているようだよ?」

道行く人に尋ねると、皆親切に君の行き先を教えてくれるのだよ。
日ごろの行いのせいだね?ロイは自画自賛しながら、うんうんと頷く。

「ち・・・・・」
「ち?」
「ちっきしょ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

エドは髪を掻き毟ってそう叫ぶと、また駆け出していってしまった。

「おやおや、諦めの悪い・・・・・・・だが、逃がすつもりは無い」

ロイはニヤリと笑うと、エドの後を追う。
・・・・・そして、また『追いかけっこ』が始まったのだった。



その後、何度も同じことを繰り返しては捕まり・・・・・
流石のエドも観念した。
重いため息を吐いて肩を落とすと、本当に体が重いのに気がついた。
小雨とはいえ、傘も差さずに走り回っていたので、服がじっとりと濡れて重くなってしまっていた。
(半分は汗だと思われる・笑)
コートの裾を持ち上げて、エドは更にため息を吐く。
それに気がついたのか、ロイが一点を指差した。

「風邪を引くから着替えた方がいい。新しい服を買ってあげよう」

そう言って指差されたのは、どう見ても女物の服を売っているブティックで。
下心みえみえの男を一発殴ってから、錬金術で服を乾かした。

「ケチ」

ボソリとロイが呟く。
その呟きに、エドは青筋を立てて怒鳴った。

「誰が『ケチ』かっっ!!・・・スカート履いた女がいいなら、その辺で引っ掛ければいいだろうが!」
「スカートを履いた女が見たいんじゃなくて、スカートを履いた君が見たいんだよ」
「ああ、そう。その夢、一生叶わねーから、とっとと棄てろ。」

取り付く島もなく、ツンとそっぽを向く彼女にため息を吐くと、ロイはブティックの隣にある雑貨屋に入っていった。
それをキョトンと見送っていたのだが・・・・・
『この隙に逃げようか?』と、そろりと足を踏み出した途端、戻ってきてしまった。
その手には、男物のダークカラーの傘が1本。
エドの前まで来ると、その傘を広げてさしかけた。

「折角乾かしても、そのまま歩いたらまた濡れてしまうだろう?」

微笑むロイを、じとりと睨む。

「・・・・・・・つーか、何で一本なんだよ・・・・」
「持ち合わせが無くて、一本しか買えなかったんだ」
「あんな花束買って来た奴が言うなっ」
「まぁまぁ」
「・・・って、さり気に肩抱くなっ!!オレも傘買って来る!」
「無駄遣いはいけないよ。ほら、小雨だから一本でも充分二人で使えるじゃないか」
「・・・・だからっ!!あんな花束に無駄遣いする奴が言うな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」



そして、
どんよりとした雨雲よりも、さらにどんよりとした暗雲を背負ったエドと
苦手な雨の中だと言うのに、ありえない程機嫌のいいロイは
あいあい傘で時間ギリギリまでデートを楽しんだのだった。(ただし、楽しそうなのは一人だけ・笑)



******



「楽しかったね?」
「・・・・・楽しそうだったな。――――――アンタは。」
「明日はどうする?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!?明日はもう発つ!!速攻で!!」
「もう行ってしまうのか・・・・・残念だな。では、また来月だな」

来月はどこに行こうか?
早くも来月のプランを考えてニヤついている男に、ギョッとする。

「ちょ・・・オレは、来月も付き合うだなんて言ってねーだろ?!」
「何故?」
「なぜって・・・・」
「・・・そんなにつまらなかったかい?」

眉を顰め、悲しそうな顔で覗き込んでくる。
その表情は、まるで叱られた犬のようで・・・・・

『うっ。・・・んな顔、すんなよ〜〜〜〜〜』

エドは、突然の見たことも無い表情に少し怯む。
全く面白くなかったのなら、スッパリと切り捨てる所だが・・・・

・・・・・実は、結構楽しかったのだ。

良くは知らないが、今日の連れて行かれたのは一般的な観光名所だったと思う。
だが、エドにはどこも初めての場所ばかりだった。
イーストシティは何度も訪れてはいるが、軍部と図書館、そして宿の往復だけだ。
そんなところに行く機会も、行こうと思ったことも無い。
でも、今日はロイと二人、そんなところを歩いて回った。

美しい建築物や、眺めの良い景色。花の公園。
どれも雨に濡れてはいたけれど、とても綺麗だった。
案内されたレストランの食事は美味しかったし、疲れた時連れて行かれたカフェのデザートは絶品で。
いつも『美味しい』とか『栄養がある』などは二の次で、『すぐ食べれてとりあえず満腹』な食事ばかりしているから、
つい、夢中で食べながら『美味い!!』を連発してしまった。

歩きながら交わされる会話も、仕事の時の嫌味っぽい口調ではなくて、休日でリラックスしたような話し方。
だから、話しやすくて結構喋った気がする。
しかも相手も国家錬金術師だから、錬金術の討論する時は熱がこもった。
いままでアル以外で自分と対等に話ができる人物はなかなかいなかったので、新鮮だった。

それに・・・・・・・・やっぱり、何をやってもスマートで。

濡れないように、こちら側に傾けられる傘。
さり気なく車道側にまわって歩くし、ドアはいつも開けてくれる。
わざとらしい仕草なら『レディファーストなんて冗談じゃない!!』と食って掛かるところなのだが、
さり気ないので、その時は気付けないで・・・・後で『ああ、そうか』と気付く感じ。
本当に、呼吸するように自然にそれが身に付いているのだろう。
『さっすが、タラシ・・・・・』
怒るどころか、妙に感心してしまったのだった。

走り回った後に連れまわされて、かなり疲れたことは事実なのだが、
そんなこんなで、実は・・・・・・・・・・・楽しかった。
ただ、そんな気持ちを表に出せはえらいことになりそうなので、始終しかめっ面で過ごしたが。

そんなことが頭をよぎり、少し怯んでしまったエドだったが
『ここでつけ上がらせてはいかん!!』
と、表情を引き締めた。



「その辺の女が喜ぶことで、このオレが喜ぶと思うなよ?」

ふんぞり返ってそう言い放つと、ロイもなるほど、という顔になる。

「それもそうだな・・・・・・では、新しい情報があるのだけどね?もちろん『石』の。」
「えっ、マジ!?」
「ああ、もう遅いし・・・・明日ここを発つ前に司令部に寄りたまえ」
「わかった、寄るから!!」
「・・・なんか、私とのデート中より、よっぽど嬉しそうだねぇ」

ため息を吐くロイに、ここぞとばかりニヤリと笑った。

「そのとーり!!・・・だからさ!オレの気を引きたきゃ・・・・こんな無駄な労力使うより、
せっせと賢者の石の情報なり文献なりを回してくれ」

そうすりゃあ、もう少し優しくしてやってもいいぜ?
不敵に笑うエドに、ロイは顔を顰めた。

「等価交換で君を手に入れるつもりはないんだよ」
「なんだー?野望の為には手段を選ばないとか何とか言ってなかったっけ?らしくねぇなぁ?」
「それとこれとは、違うよ」


――――愛と等価なものなんて、ありはしない――――


急に熱い視線で見つめられ、エドは言葉に詰まった。
『な、なんだよ・・・・・急に・・・・・・』
さっきまでの様子とうって変わった態度に、どうしていいか分からなくて・・・エドは視線を背けた。
そのまま黙っていると、不意にロイが口を開く。

「おや、もう時間だ。・・・では、私はこれで退散するよ」
「えっ?!・・・・・ああ、うん。」
「ではな、鋼の。楽しかったよ・・・・私は。」
「・・・・・・」

『別に・・・オレだって、楽しくなかったわけじゃ・・・・・・』

そう思ったけど・・・・・やはり言えなくて。
エドが俯いた時―――――ふわりと空気が動いた気がして、少し顔をあげると


頬にやわらかい、感触。


「おやすみ・・・・・エドワード」

そして、ロイは踵を返して、帰っていった。



******



「あ、兄さん帰ってたんだね?」

ドアが開きアルが顔をのぞかせたが、エドを見て怪訝そうな顔をする。
俯いたままなんだかぼーっとしている、姉。

「兄さん?」
「あ、ああ、ただいま!!・・・疲れたよ」
「あはは。お風呂、入ったら?」
「ああ、そうするー」

バスルームにそのまま入ると、ドアを閉めて。
そして、頬に手をあてた。
そして俯いたまま、呟く。

「・・・・・・・おやすみのキスされたの、久しぶり・・・・だな」

洗面台鏡に映ったエドの顔は、真っ赤だった――――



『じめじめするんだけど・3』・・・終わり


終わった〜!
初デート編はいかがだったでしょうか?
ギャグにするか迷ったけど、結局最後は『乙女なエド』になってしまった。(笑)
なんか、すぐ落ちそうですねぇ、エド(^_^;)
いやいや、まだ先が長いし、まだ落ちるわけにはいか〜〜〜〜ん!!頑張れエド!!(笑)


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