ロイエド一年間・・・・『7月・・・ふとあることに気づく・2』



ハボックとアルが気を利かせて退室していったのを見送ってから、ロイは答えを返した。


「本気だよ。」
「嘘くせえ。」

「・・・速攻で否定しないでくれないか?大体、信じないならこの質問の意味は無いだろう?」

ガックリしたように肩を落として言うロイに、エドもなるほど・・・・と、顎のあたりに手を当てた。
本人に聞けはスッキリすると思ったが、言葉を額面どうりに受け取れないので、確かに意味が無い。
考え込みだすエドワードを眺めて、ロイはまた口を開いた。

「君は・・・何故、突然そんなことを聞こうと思ったのかな?」
「え?」

ロイの言葉に、エドはキョトンとしてロイを見つめた。
ロイは椅子から体を起して立ち上がって歩きだし、彼女の前で止った。

「私が『本気』だったら・・・・・付き合ってもいいと思い始めた?」
「なっ?!ち・・・・ちがっ!!」
「ふむ・・・・・先月のデートは失敗かと思っていたが、それなりの収穫があったようだね」
「違うって言ってんだろ!!・・・さっきも言ったろ?アンタがオレを好きになる理由が見当たらないから、
ちょっと気になって・・・・」
「恋とは、メリットだけを求めてするものではないんだがねぇ・・・しかし、君は面白いな?」

男の口から出た言葉に少しムッとして、エドは睨みあげた。

「・・・なにがだよ?」
「男の振りをしている時は自信満々なくせに、本来の性である女性として・・・となると急に自信を無くす」
「・・・・・・客観的に見て、そうだろ?オレに女の魅力なんて・・・ねぇもん」
「全然客観的じゃないよ。君は自分を良くわかっていない」

ロイはそう言うと、エドを覗き込むようにして顔を近づけた。

「君は、魅力的だよ?もちろん、女性として」
「っ!!・・・・・アンタなぁ、タラシの礼儀だかなんだか知らないけど、嘘つくのも大概に・・・」

否定の言葉を言い募ろうとするエドワードの頬を、暖かい物が包む。
ロイの両手だった―――

「ちょっ・・・・!!」

慌てるエドの頬を大きな手で優しく包んだロイは、額がくっつくほど顔を近づけて
そして彼女の金の瞳をじっと見詰めた。
漆黒の瞳に間近で見つめられ、エドは息を飲む。

「本当だよ、エドワード。君は、美しい・・・・・そして、魅力的だ。
確かに今はまだ子供かもしれないが・・・君はすぐに誰も敵わない位、美しくなる。」
「・・・そんな先のことなんて、わかるかよ・・・」
「分かるよ。私には未来が見えるんだ」

ロイはそう言って微笑む。
彼の瞳を見つめていたエドは、その笑顔に少しドキリとして・・・・・・
それでもわざと胡散臭そうに睨んでから、視線をはずした。

「・・・・・そんなの、信じると思ってんの?」

ロイは頬に当てていた手を、するりと滑らすようにはずす。
その感触に、思わずエドは目を瞑る。
そして今度は体中が暖かい物に包まれた感覚に気付いて目を開けると、目の前に広がる・・・青。
抱きすくめられていると分かって、頬が急激に熱くなる。
離れようと、身をよじると・・・・耳元に囁かれる、声。

「本当だよ?私を信じなさい」

その、甘い声に身を震わせると、次いで額に柔らかい感触。
驚いて顔を上げると、いつもより優しい色をした瞳。



「君は」

頬に柔らかい感触。

「とても美しい女性になる」

また、反対の頬に。

「美しさだけではなく、英知や強さ・・・そして優しさも兼ね備えた、すばらしい女性に。」

次は瞼。

「そして・・・・予言するよ」

最後に、また瞳を覗き込まれた。


「近い将来・・・きっと、君は私に恋をする」



『その自信は、どこから来るんだ?!』

そう、罵倒しようと思っているのに、声がうまく出なくて・・・・・・
ゾクリとするような甘い声と、情熱的な黒の瞳は・・・・まるで、麻薬のようだと思う。
エドは頭の中がぼんやりと霞がかかっていくようで、正常な判断が出来なくなっていくのを感じた。

―――甘い、甘い・・・・・痺れ。

それでも、何とか声を絞り出した。

「アンタに・・・・・?」
「そう、私に。」

答えるロイの声は優しくて。
そして、彼の顔が近づいてくる。
ロイの唇が、自分の唇に向けてゆっくりと降りてくるのを、ぼんやりと眺めながら。
エドは、酔ったようにぼーっとしつつ、どこかうっとりとした表情で瞳を閉じかけて・・・・・

シャラ・・・・

身じろいだ時、ポケットから銀時計の鎖が滑り落ちる感触。
そこで、ハッとした。

「うわっ!?」

目の前の男の顔に驚いて・・・・
我に返ってたエドは、夢中でロイの胸を押し返して、数歩後退った。

『な、何?!・・・・・・オレ???』

赤面しながら、頭の中の霞を追い払うように頭を振った。
あまりに勢いをつけて振ったので、ちょっとクラクラしてよろけそうになる。
それを、ロイが腕を伸ばして支えた。
また、腕の中に収まってしまったエドは、未だパニック状態の頭でこの状況を考える。

『オレ、いったい何してたんだ?!』

・・・・・・・・・・大佐に見つめられてから、何がなんだかわかんなくなって。
いつの間にか顔中にキスを落とされて、最後にはオレも受け入れるように目を閉じてっ・・・・・?!

カアッと顔中を赤く染めながら、とにかく逃げ出そうと手を振り払い、ドアに向かって駆け出そうとしたが・・・
また腕を捕まれて、引き寄せられた。
そして、耳元に囁かれる。


「さっきの答え。・・・私が『本気』かどうか、君自身が見極めてくれたまえ」


そう言って口の端を持ち上げて笑うロイを、真っ赤な顔で睨みつけて・・・
エドは今度こそ、その手を振り払い駆け出して行った。

エドが走り去ってから、ドアの後から出てくる2人の人影。
ハボックとアルフォンスだった。
退室したものの・・・・・心配なのと、興味深いのとで、ドアの隙間から様子を窺っていたのだ。
(デバガメとも言う・笑)

「落ちそうだったな・・・・・」
「落ちそうでしたねぇ・・・・」

チラリとまた室内を覗くと、微笑を浮かべる男の顔。
・・・・・逃げられたのにもかかわらず、余裕があるのが憎らしい。

『・・・あの色気の無い状況を、一転してあそこまで甘い雰囲気に持ち込むなんて』

ハボックは上司の手腕に驚きながら、少し心の中でやっかんで。
アルは、少し複雑ながらも・・・・・素直に感心して。
そして、同時に同じような事を胸中で考えていた。

『恐るべし、ロイ・マスタング!!・・・ぜひ、技を伝授してもらいたいっ』

自分の知らぬまに『恋愛教祖』となりつつあるロイは、ドアから視線を外すとデスクに戻り
そして、書類に再び目を通し始めたのだった。



******



そんなこんなで・・・・・・・・
ハボックとアルフォンスは、あの二人が『すぐにでもカップルになるのでは?』そう、考えていたのだが・・・
次の日、司令室でエドが呟いた言葉を聞いて、顔を見合わせた。

「ちっきしょう・・・・・アイツに催眠術の心得があるとは・・・・・誤算だったっ!」

今度は、催眠攻撃にも気をつけないと!!
そういいながら、『催眠術入門』を熱心に読むエドを見て、自分達の考えが間違っていた事を知った。

『エド・・・それ、乙女として・・・・・どうよ?』
『そこで催眠術だって思っちゃうとこが、兄さんのダメなところだと思う・・・・・・』


あの男の腕をもってしても、これか。


『本当に恐るべしなのは、エドワード・エルリックの方かもしれない・・・・・』
二人は、同時にため息を吐いた。


どうやらこの少女が恋を知るのは、まだまだ先のことらしかった―――――



『ふとある事に気づく・2』・・・終わり


どうにも乙女になりきれない、うちのエド子でした(笑)
ロイは、あんなにフェロモンだしまくりで頑張ってるんだけどなぁ?

頑張れロイ、もっと精進してください(笑)


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