ロイエド一年間・・・・『8月・・・夏の暑さにやられて・1』



その日のイーストシティは、記録的な猛暑に見舞われていた。


先ほどイーストシティに着いたエドワードとアルフォンス。
文献が今日届くのを知っていたので、そのまま東方司令部に向かうことにした。
炎天下の中を司令部まで歩いてきたエドは、司令室に着くなり手近な椅子にドサリと腰をかける。

「あ〜つ〜い〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「兄さん、大丈夫?」
「大丈夫かぁ?エド。そんな格好してるからだよ」

上着ぐらい脱いだらどうだ?

いつもの黒の上着をしっかり着込んだ状態で『暑い』を繰り返すエドに、ブレダは呆れたようにそう言った。
もっともな意見なのだが、『そうだな』と、ホイホイ脱ぐわけにはいかない。
なにせ、エドは性別を隠して、男の振りをしているのだから。
サラシで胸を抑えているのでそう簡単にはばれないかも知れないが、やはり露出を多くすると
それだけ秘密が露見する確率も増えてくる。

もっとも、エド自身の危機感は少し薄くて。

こんなに暑いんだ、少しくらい脱いでも・・・・・・と、そろ〜りと上着のボタンを外そうとしては
たちまち弟に見咎められて、怒られる。
実は、道すがらそんな事が繰り返されていた。

「なぁんで、ここも暑いんだよ!?ここなら絶対空調効いていると思って来たのに!!」
「経費節減だとさ」
「しみったれてるぞ、アメストリス軍!!」
「国民の血税だ。そうそう無駄遣いするわけにもいかんだろ?」
「うっ・・・・・・・」

それを言われると、ぐぅの音も出ない。
少し黙りこんだエドだったのだか、また暑さに耐え兼ねて文句を言い出した。

「ああ、こんな事なら、宿にいけばよかった!!それか、図書館!!」

宿なら堂々と服が脱げるし、図書館は空調が効いているはず。
だが、またあの炎天下の中を歩いていくのかと思うと、気が滅入る。
エドの鋼の腕と足は、強い太陽の下にさらされると熱を持って火傷しそうなほど熱くなるのだ。
しかも、頼んでいた文献は持ち出し禁止なはず。読みたかったらやはり司令部に居るしかないだろう。
エドは、暑さでぼーっとする頭を机に乗せて、突っ伏した。

「そんなに辛いなら、大佐のとこに行って来れば?」

このうだるような暑さの司令部内で唯一空調が効いているところ。それは司令官の執務室。
だが、あそこには・・・・・・別なキケンが潜んでいるのだ。
弟の提案を、エドは一蹴した。

「ホークアイ中尉がいない時に、あんなキケン地帯に行けるか!!」

リザは、2時間ほど席を外しているという。
文献をもらうにはあの部屋に入らないわけには行かないから、いずれは行かなければいけないのだが、
彼女が司令部内に居ない時にあの部屋に踏み込むのは、かなりの勇気が居るのだ。
いつも彼女を伴って入るわけでは無かったが、彼女がこの敷地内に居ると居ないとではやはり安心感が違う。
そんなエドの台詞を聞いて、ブレダは口を開く。

「・・・・・なぁ、聞いてみたかったんだけどさ」

突然声を顰めてにじり寄ってくるブレダを、『暑苦しいから、寄るな!!』押し戻してから聞き返した。

「何を?」
「お前と大佐、どこまでいってんだ?」
「へ?どこまでって・・・・・ああ、一緒に公園とか食事なら行った事あるけど?」

天然ボケなエドの答えにガックリしながら、ブレダは言い直した。

「そうじゃなくて・・・・・・・キスから先、進んだのか?」
「なっ・・・・・!?」

口をパクパクさせながら絶句するエド。
それを面白そうに眺めながら、ブレダは続けた。

「いや、軍部祭りでキスは見たけど、あれから三ヶ月たっただろ?そろそろ次のステップに進んでんのかなーと?」
「次の・・・・・ステップ・・・・・・・・って?」
「んーと、子供のお前さんにこんな事聞くのもどうかと思うが、ま・・・・男同士だし?」

エドを男と信じているブレダは、男同士の猥談のつもりで彼女の肩にガシッと自分の肩を組ませてニヤリと笑う。
エドが『暑苦しい!!』と再び抗議する前に、ブレダは声を落として聞いた。

「大佐と・・・・・寝た?」
「なっ?!」

またもや絶句したエドは、今度は盛大に真っ赤になった。

「そのようすじゃあ、まだか・・・?」
「・・・・ブ、ブレダ少尉の、ばっかやろう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「うわっ!!」

エドは肩を組んでいたブレダを思いっきり突き飛ばすと、部屋の外へかけて行ってしまった。
尻餅をついて、したたか腰を打ったブレダは、腰を擦りながら起き上がる。
それに手を貸しながら、アルは苦笑した。

「ブレダ少尉・・・・・あれでも結構純情な兄なんで、からかわないでやってくださいよ?」
「はは、わりぃ。しかし、大佐にしちゃあ・・・・・苦戦、してんのかな?」

エドワードが開け放っていったドアを見ながら、ブレダはそう呟いたのだった。



******



「はぁ・・・ったく・・・ブレダ少尉の奴・・・・・走った・・・せいで・・・余計に暑くなったじゃねぇかっ!」

エドはキョロキョロと周りを見回しながら、膝に両手をついて細かく呼吸を繰り返す。
少し息が整ってきてから、首筋に浮かんだ汗を手で拭いつつ文句を言った。

「ったく。・・・・・・・あんな事聞くなんて、しんじらんねー!!」

そんな事、あるわけがないじゃないか?!
自分は別にアイツと付き合っているわけじゃない!!
そう、赤くなった顔で激高する。

『まぁ・・・・・・・キスは、何だかんだいって、帰ってくるたびにどっかにされてる気はするけれど。
・・・・唇にも、2回されちゃったし・・・・・・・・』
エドは、さらにかぁっと顔を赤らめる。

一度目は女だとバレたその日。
2度目は軍部祭りでの、アイツ曰く『祝福のキス』。
・・・・・よく考えれば、唇にされたのはどっちも人前だった!!

『やっぱ、アイツってろくでもない!!!』

いっつも、人の気持ちなんかお構いなしで!
強引で!!
しかも、催眠術とか使うしっ!!
いっつも人の事からかって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本気でもないくせに。

知らず知らずの内にエドの顔は俯いていく。

『君が見極めてくれたまえ』
アイツはそう言った。
あの後、いろいろと考えてみたものの・・・・・やはり、あの男が自分を好きになる理由など思い浮かばなくて。

『やっぱり、面白がってるだけ』

という結論に到った。
真面目な気持ちじゃなければ、手加減する必要もないし、アイツの遊びに付き合ってやる義務もない。
だから、とっとと切り捨ててやろうと思っているのに―――

それなのに、いつも逃げ切れない自分がいる。

あんなタラシに付きまとわれて、迷惑極まりないと思っているのに。
いつだって、ちゃんと警戒してから近づくようにしているのに。
それなのに、いつの間にやら相手のペースに乗せられていて・・・・・・

ふと気がつくと、アイツの腕の中におさまっていたりするのだ。

大人と子供の差か?
経験の差か?
それとも、単純に男女の筋力の差なのだろうか?
・・・・・腕にはおぼえがあるはずなのに、何故かいつも敵わない。

ただ力だけじゃなくて、何か・・・アイツには人を逆らわせないようなオーラみたいなものがあるのかもしれない。
あの黒い瞳がいけないのだ。
あの目で見つめられると、一瞬動きが止まってしまうから。

しかも、腕の中に一旦おさまってしまうと・・・・・・妙な気分になる。

心臓がばくばくして息苦しくて、早く離れたいと心底思うのに
・・・・・・・心のどこかで、心地いいと感じる自分もいて
2つの矛盾した気持ちに戸惑って、どうしていいかわからなくなるのだ。

「やっぱ・・・・・あれも催眠術・・・なのかなぁ?」

エドは、そうポツリと呟いた。



それにしても、見覚えのない廊下だ。
どうやら夢中でメチャクチャに走ってきたら、迷ってしまったようだ。
東方司令部に出入りするようになってから3年も経つが・・・・いつも行くのはお決まりのコースだけ。

受付と食堂と資料室と司令室。
そして、大佐の執務室。
エドの立ち寄る所はそれだけだ。
知らないところがあっても無理からぬことだろう。

司令室がある棟とは、別の棟なのかもしれない。
そう思いながら廊下の先に目を向けると、廊下の突き当たりの扉の向こうから人の話し声が聞こえた。

「・・・・・どうせなら、東方司令部探検してやる!!」

エドは、その扉に向かって走り出した。



『夏の暑さにやられて・1』・・・2に続く


こんな寒い時に、暑い話を書けと言われても・・・・・・
やっぱり季節を合わせて始めるべきだったろうか?ロイエド一年間!!(苦笑)
やっぱりこの時期は暑い話より、クリスマスの話が書きたいです・・・(12月某日・記)


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