ロイエド一年間・・・・『9月・・・アルフォンスに気づかれたかも・1』



「兄さん今日の夕食、たい・・・・・」


ドサドサッ

「な・・・・・なんだ・・・・っ?」
「・・・・・鯛ってお魚と羊のお肉と、どっちがいいかって宿の人が」
「あ、うん、そっか・・・・・に、肉がいいかなっ?」
「・・・・・・・分かった、そう言ってくる」

アルフォンスはドアの方に歩きかけて、立ち止まった。

「あ、それはそうと・・・さっき外に出たら、たい・・・・・」


ドサドサッ・バサッ

「あ、あははっ、わりぃ・・・ちょっと本落とした・・・・・で・・・・・・・・・・・・なに?」
「・・・・・・・道路に、タイヤ痕がくっきり付いてて。さっきの事故の時のかなーって」
「そ、そっか。うん。たぶんそうじゃないかなっ、スゲェ音だったし」

しどろもどろに返事をする姉を見て、アルフォンスは何事か考える素振りをして。
そしてもう一度口を開いた。

「ねぇ、兄さん。明日、たい・・・・」
「・・・・・・今度は何だよっ?!タイヤキか?タイ料理かっ?」
「ううん。明日辺り、大佐のとこに行かない?」

ドサドサッ・バサッ・ガッターン・バキッ

「兄さん・・・・・・・少し、落ち着きなよ」
本を落として椅子から転げ落ち、更に転んだ拍子に床にエルボーを食らわせてしまい、
床に穴を開けた姉に、アルは深いため息を付いたのだった。



******



先月東方司令部に行ってから、姉は挙動不審になった。

ぼーっとしたり、ためいきついたり・・・・・・・一人で顔を赤らめていたり。
そして、やたら「たい」のつく言葉に、過剰反応を示す。
これらを考え合わせてみるに、出た結論はひとつ。
『これって・・・・・やっぱり、アレだよねぇ?』
自分の考えに確信をもちつつ、アルは考える。
今まで傍観していたけれど・・・・・それなら、僕も行動を起そう――――と。
その考えにいたリ、先ほどの提案をしたのだが。

「な、なんで、たい・・・・・その、司令部にいかなきゃなんだよ?!」
「ひと月に一回行くことになってるじゃない。ここイーストシティに近いし」
「確かにそうだけど、まだ前回訪問してから13日しかたってないじゃないか!!」
「・・・・・日にち、ちゃんと数えてるんだねー」
「・・・・・・・」
「ま、兄さんは後で良いって言うなら、ここで調べものしなよ?僕だけちょっといってくるから」

エドはアルの提案に目を丸くした。
軍属でない弟が自分抜きで司令部を訪問するなんて、何の用事があるというのか?

「お前、何しにいくんだよ?」
「・・・・・実はさ。ちょっと大佐に相談にのってもらうと思って」

エドはその発言に、またまた目を丸くする。

「・・・・なんか、悩み事でもあるのか?」
「ん・・・・ちょっとね」
「オレじゃ・・・・・・?」
「ごめん。ちょっと兄さんじゃダメなんだ。大佐じゃないと」

『オレに相談できないこと?』

エドは少なからずショックを受ける。
何てったって、母が亡くなってから姉弟2人いつも支えあいながら寄り添って暮らしてきたのだ。
その弟が何らかの悩みを持っているのにもかかわらず、自分には相談できないという。

「・・・・・なんでオレじゃダメなんだよ?」
「・・・・・男の人に相談に乗って欲しいんだ」
「だったら、ハボック少尉とかのほうが・・・・・」
「うーん、恋愛関係だから大佐の方がいいと思うんだよね。経験豊富でしょ?」
「恋愛?!」

エドはその言葉に愕然として、弟を見詰めた。
では、弟は今恋をしているというのだろうか?
全然そんな素振りを見せないから気が付かなかったが・・・・・・・
旅の途中で会った誰かに惚れてしまい、今の自分の状況を思い合わせて、人知れず葛藤していたのか?
多分、こんな鉄の体では告白も出来なかったに違いない―――――
自分は恋愛関係には疎いし、相談されても適切なアドバイスは出来ない。
それに・・・・・アルも思春期の男の子だし、やはり自分には相談しにくい事もあるのかもしれない。
エドは気付けなかった不甲斐なさと、こんな体にしてしまった責任を感じて、力なく俯いた。
一抹の寂しさを感じながら、エドはアルの提案に頷いた。

「わかった・・・・・行こう」
「うん、ごめんね?」
「いや、オレこそ・・・・・ごめん」
「兄さん?」

なにやら落ち込んでしまった姉にアルは少々慌てるが。
顔を覗き込んだ瞬間、姉は思いつめたように『待ってろ、絶対オレが元に戻してやるからな?!』
などと、力を込めて言ってくる。
『なにか、誤解してる・・・・・?』
疑問に思いつつも、背伸びをして頭を抱きしめようとしてくる姉に、体を屈めて応えたのだった。



******



「こんなに早く会いに来てくれるとは・・・・・・嬉しいよ、鋼の」

執務室のドアを開けると、面食らったように目を見開いたロイだったが、
次の瞬間、表情を緩ませて目を細めると、たっぷりと甘さを含ませ目の前の金色に声をかけた。
『そんなんじゃねー!!』
そう声を荒げて、赤くなりながら食って掛かってくると思いきや?
彼女は何か思いつめたような顔で、ロイのデスクに近づいた。
回り込んでロイの横に立ったエドは、おもむろにロイの右手を取る。

「・・・・・っ、はがね・・・の?」

小さく細い両手でギュッと握られ、ロイは動揺した。
しかも、彼女は緊張しているようで・・・顔は白く・瞳は潤んでいる。
『これは・・・・・・・もしや』
浮かんだ答えに、ロイはフッと微笑む。
そして、自分も握り返そうと左手を寄せた時、彼女が口を開いた。

「大佐、アルの相談に乗ってやってくれ」
「・・・・・・は?」
「オレじゃ、ダメなんだ・・・・・・・・・・アルの事、頼むよ」

エドは真剣な表情でそう言うと、さっさと手を離して出て行ってしまった。
あっけにとられているとまたドアがノックされ、当の弟が顔を覗かせたのだった。



「それで・・・・・相談というのは?」

肩透かしを食らったロイは、訳がわからぬままアルに椅子を勧めた。
アルは丁寧に礼を言って座ると、早速切り出した。

「兄さんには『相談』っていいましたけど・・・・・本当は確認に来たんです」
「・・・・・・確認?」
「大佐、兄さん・・・いえ、『姉さん』を口説いてますけど、『本気』でしょうか?」
「・・・・・それか」

ロイはやっと合点が言ったようで、そう呟いた。
姉のエドワードをこの上なく大切にしているこの弟、いつかは直接話す時があるとは思っていた。
だが、彼はいままで自分の行動を容認するように、傍観していたはずだ。
何故急に、しかもわざわざ訪問してきてまでの確認なんだろうか?
疑問に思いつつも、ここは真摯に答えるべきだろうと、姿勢を正した。

「・・・『本気』だよ。もっとも、彼女には未だ『からかってる』と思われているようだがね」
「嘘じゃありませんね?」
「誓って。私は彼女を一過性の恋人として求めているわけじゃない。
真剣に求めている・・・・・・・・・・・・・・・・私の『伴侶』として。
・・・・・・もし、誓いを違えたと思ったら、君が制裁をくれてもかまわんよ」
「・・・・・」

真剣な瞳の告白をじっと聞き入って。
沈黙のままロイを見詰めていたアルフォンスだったが
しばらくして、ホッと息を吐いたようだった。

「よかった」
「何故突然?・・・いや、いつかは君と2人で話すべきだとは思っていたが」
「僕は、姉が男性に口説かれるのもいい事じゃないかと思っていたんです。
姉はあの通り少々男勝りで。女性らしい心を思い出すのに、いい刺激かな・・・・・と」

姉が嫌がってるなら別だ。殴り飛ばしても止めさせる。
だが、嫌がる素振りは見せても、・・・・・大佐には嫌悪感を感じていないみたいだったし。
だから、傍観していた。
今までは―――――。

「今までは・・・・・まぁ、あなたが冗談半分にちょっかい出してるのでも、良かったんです。
だって、姉の中のあなたの位置が・・・『恩人』『友人』の域をでていなかったから」

自分の中の相手の位置が深刻でなければ、もしもの時も傷は少ない。
後戻りのできる範囲。
だけど、これ以上は―――――

「姉の中の、あなたの位置が変わってきている」

もし冗談だったら、これ以上は踏み込まないで欲しい。
姉の傷つく姿は見たくない・・・・・・これ以上。
だから、あなたの気持ちを確認しに来たのだと、アルフォンスは言った。



『アルフォンスに気づかれたかも・1』・・・続く


ロイVSアル?
でも、別にうちの義兄弟は険悪ではありません(笑)
・・・・・・・・ロイが浮気でもしない限りは。(クス)


back      next     お題へ