ロイエド一年間・・・・『9月・・・アルフォンスに気づかれたかも・3』



「というわけで、大佐にお願いしてきちゃいました」

どこかすっきりとしたような口調のアルフォンス。
だが、リザは少々眉を寄せたようだった。

「本当によかったの?早計だったのではない?」
「でも、やっぱり確認しておきたかったし・・・・・・・・。
いろいろ考えたんですが、兄さんには大佐くらい強引な人の方が良いと思うんです」

アルはそう言って苦笑すると、肩を竦めた。

「しかしなぁ・・・大将まだ15だろ?そんなに真剣に考えなくても・・・・・」
「兄さん・・・・・・この頃、綺麗になってきたとおもいませんか?」
「え?ああ、そうだな・・・・・もともと別嬪なんだろうけど、子供っぽさがぬけてきたせいかな?」
「・・・・・・・一年位前から、やたら怪しい視線を感じるようになってきたんです」

身体的に女性としての特徴が出てきた頃から、姉はよく声をかけられるようになった。
女性だろうと勘違い(本当は勘違いじゃないけど)している者や、
男性と分かっていて声をかける者まで。それこそ、沢山。
だが、姉はそんな視線や色恋を含んだ誘いに酷く鈍感で、その上自分の魅力に全くもって気づいていない。
自分の変化に気づかず、未だに自分は『完璧に男の子に見える』と信じているため、
女性として性的に求められるなどと思ってもみないらしい。
さすがに軍関係者の前では気をつけているものの、それ以外ではかなり無防備。
自覚がないのと、なまじ腕に自信があるのとで、彼女自身は危機感をあまり感じていないらしく。

――――――正直、見ているこちらの方がハラハラしどうしなのだ。



「なのに兄さんったら、酔っ払いに囲まれてても平気だし、野宿も平気だし・・・寝るとお腹出すしっ!!!」

以前、ある宿に夜チェックインした時のこと、下の飲み屋兼レストランで食事をする姉を残して、
遅くまで開いているという近所の薬屋に買い物に出た事があった。
帰ってきてレストランを覗いた時、アルは思わず悲鳴を上げそうになった。
あろう事か・・・・酔っ払いが騒ぐ店内の長椅子で、姉がグースカ寝ていたのだ。
疲れていたので、食事を済ますと急激に眠くなったのだろうが・・・・・
無防備に眠る姉のタンクトップは捲りあがっていて、白い腹が出ていた。
幸いサラシの部分まで出ていたわけではないから、女とばれた訳ではないようだったが。
それでも、酔っ払い達の視線は確実に姉の腹に注がれていた。
少年の微笑ましい寝顔を見ている・・・・・・・・・・・というのではない。

確実に、色欲を含んだ視線。

宿の女将さんが睨みを効かせてくれていたのと、自分が出かけていた時間が短かったので事なきを得たが
・・・・・あの時の衝撃は忘れられない。
酔っ払いを無言の威嚇で追い払って、女将さんに視線でお礼を言い、早々部屋に連れ帰った。
次の朝、こってり説教したのだが・・・・・どうにも、姉はピンと来ていないようで。
説教が効かないならと、とにかく今は姉の側をなるべく離れないようにして旅をしている。

でも、それも限界がある。

やっぱり、ここは姉にちゃんと自覚を持ってもらうべきだろう。
自分の言葉が効かなくても・・・・・・恋人の言葉なら耳を貸すかも知れない。
さすがにちゃんと恋人が出来たなら、もう少しそういう視線にも敏感になるだろうし。
・・・・・実際、大佐に迫られるようになってから、少しは女性の自覚が出てきたのだ。

「やっぱり、ちゃんと精神的に甘えられて、姉にしっかり注意もしてくれる人が欲しいんです」
「甘え・・・・・られるか?かえって喧嘩になったりしねぇ?」

甘やかそうとして突っぱねられる光景が目に浮かぶ。
心配そうなハボックに、アルは笑って見せた。

「まぁ、そこは大佐の手腕でなんとかしてもらうってことで」

あんなに反抗ばっかりしてるように見えますけど、結構姉さん大佐のことを頼りにしてるんですよ。
――――――かなり、以前から。
まぁ、本人認めないとは思いますけどね・・・・・ずっと一緒にいるから、分かるんです。
穏やかな調子でそう言うアルに、ハボックは違和感を覚えて・・・・・尋ねてみた。

「なぁ・・・・・もしかして、『候補』ってのは嘘で、最初からお前大佐狙いだったんじゃないか?」

ハボックの言葉に、アルはちょっと動きを止めて。
そして、返事を寄越した。


「さぁ?どうでしょうねぇ」

もちろん、表情は読めない。
ハボックは、少々顔を引き攣らせつつ、呟いた。



「アル。お前って・・・・・・・・たまに黒いよな・・・・・・・」

その言葉にアルはにわかに慌てだして、ガシャンとと体を鳴らした。

「えっ!!どこかに黒サビがっ!?・・・おかしいなぁ、昨日オイル塗ったばっかりなのに〜〜〜〜」

どこ?どこですか?
ガシャガシャと腕やわき腹など必至に見ているアルフォンスに、リザとハボックは顔を見合わせた。
黒いのか、天然なのか・・・・・?
『教えてくださっいってば〜』と、情けない声を出しながら背中を見るアルに、ハボックは呟いた。

「・・・・・・・もっと奥の方だよ」

ハボックの答えに、腹を開けて中を覗きこむアルフォンスだった。



******



「大佐・・・・・・・」
「鋼の?入っておいで?」

執務室のドアを遠慮がちに開けたエドは、ロイの言葉に軽く頷き身を滑り込ませた。

「アルは?」
「ああ、彼は先ほど出て行ったよ・・・・・今は多分司令室じゃないかな?」

なにやら落ち着かない様子でキョロキョロしているエドに、ロイの顔に笑みが浮かぶ。
先ほど弟から聞いた話が本当ならば、彼女の気持ちは既に自分の手の中。
後はどうこの少女に自覚させていくか。
側に近づくと、なにやら思いつめたような瞳で見上げてくるエドの頬に手を当てた。

「どうした?なにやら落ち着かないようだが・・・・・」

優しく、そして甘く囁くとエドはエドは視線を少し彷徨わせて・・・
そして、意を決したようにロイを見上げてきた。

「大佐・・・・・・・・・オレ、大佐にお願いがあるんだ」
「お願い・・・・・?」

なかなか人を頼ろうとしない彼女の科白に、ロイは目を見開いた。
『これは・・・・・・・こちらから自覚を促すまでもない・・・・・か?』
驚きつつも話の先を促すと・・・・・・・

「オレに・・・・・・・・・・」
「うん?」
「もっと、文献まわしてくれっ!!」


ずでっ


おもわずずっこける、ロイ。
そんなロイをエドは不思議そうに眺めた。

「大佐・・・・・なにしてんの?」
「いや・・・・・予想した科白と全然違っていたもので・・・・・ところで、何故?」
「一刻も早くアルを元に戻してやりたいんだ」

今までアンタに頭を下げるなんてごめんだと突っぱねてきたけれど、そんな猶予はもうないのだとエドは唇を噛んだ。

「アルの相談って・・・・・女がらみだったんだろ?」
「え?・・・・・ああ、まぁ・・・・そうだ・・・・が」

女がらみと言うより、姉がらみである。
だが、ロイの言葉を肯定と取ったエドは、拳を握り締めた。

「やっぱりっ!!・・・・・・・可哀想に、アルっ」
「可哀想・・・・・・・??」
「旅の途中で出会った女の子に恋をして、自分の体のことで悩んでるんだろ?!」
「は??」
「誰だったんだ?西方のデイジー?北方のアニー?南方のヘンリエッタ?!」
「いや、そうではなくてだね・・・・・・」
「ああっ、もしかしてメリーベル!?きっとあの子だろっ?白いフリフリレースのフレアワンピースに頭にリボン!!
あの少女趣味丸出しのファッションがアルのハートにクリーンヒットしたに違いないぜ!!なあっ、そうだろう?!」
「鋼の・・・・・少し落ち着きなさい、違うから。」
「・・・もしかして、口止めされてんのか?そっか・・・オレに心配かけたくなくて・・・・・アルっ(ホロリ)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・少し人の話を聞きなさい」

こめかみの辺りをおさえつつ、ロイは窘めるが、ブラコン姉さんは止まらない。

「わかってるよ!!オレに心配かけたくないから、他人のアンタに相談なんか持ちかけたんだろう?
アイツ、優しいから・・・・・・・・・・・!」
「いや、君の弟は決して優しいだけの男ではないぞ?!」

先ほどの会話を思い出して引きつり加減で言うロイに、エドは力強く頷いた。

「わかってる!優しいだけじゃなくて、思いやりもあるんだよな!!」
「・・・・・・・・(だめだこりゃ)」

ブラコンにつける薬なし!
ロイの頭にそんな言葉が浮かぶ。

「アルが口止めしてんなら、どの女かは聞かないよ。でも・・・オレの出来ることをしてやらなくちゃ。
一刻も早く元の体に戻してやって、大手を振って告白しに行かせてやる!!」

というわけで、文献をくれ。
恋愛の甘さどころか、兄弟愛に燃えた瞳で手を差し出すエドに、ロイは盛大なため息をついた。
『アルフォンス君・・・・・君は私達の仲を応援したいのか、邪魔したいのか・・・どっちなんだね?』
心の中でそう呟きつつ、肩を落とした。



******



司令室を出たアルフォンスは、中庭でブラックハヤテ号と遊んでやっていた。
くんくんと鼻を鳴らしながら擦り寄ってくる犬を撫でながら、姉と大佐のことを考える。

姉が大佐に惹かれ始めている・・・・・そう気づいたのは、少し前。

おそらく、姉にとっては初めての恋。
そのうち自分自身も気づくだろうけど・・・・気づいても、諦めてしまおうと思うに違いない。
目的の為に費やす時間を削ってしまうのを恐れたり、僕に遠慮したりするに決まってる。
だから、おせっかいながらも・・・僕が応援してやらなきゃ!!と決意した。
そう決めたものの、あの人を信じていいかやっぱりチョット心配だから・・・確認しに来てしまった。
でも・・・・・大丈夫そうだ。
僕の感は結構当たるから―――――
だから、きっと・・・・・・・・・大丈夫。

大佐なら、甘やかす時には甘やかして、諌める時には諌めてくれる。
それが出来る人だと思う。
僕達の罪を知っていて、なおかつ導いてくれる人。
人の死を・・・・・・・・・・それにともなく痛みを知っている人。
姉を支えられるのは、そんな人なんじゃないかと思っていた。
『ちょっと年が離れてるのがネックなんだけど・・・・・』
それでも、お互いの気持ちが向いているなら、問題ないと思う。

『母さん・・・・・・・いいよね?』

姉さんが幸せなら、寄りかかる所が出来て少しでも心が軽くなるなら、僕の寂しさなんか幾らでも我慢できるから。

―――――――でも。
アルは空を仰いで・・・・・カシャンと音をさせて肩を竦めた。

『それでもチョット意地悪しちゃったのは・・・やっぱり、寂しいからかなぁ』
まぁ、いいよね。大事な姉さんをあげるんだから、少しぐらいの嫌がらせは許してもらおう。
引きつった大佐の顔を思い出して、クスクスと笑っていると、後からバタバタをかけてくる音。



「アル〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!ここにいたのか!」
「兄さん・・・・・」

自分に飛び込むようにして突進してくる姉を受け止める。

「ほら、新しい文献!!これ読んで次の行き先決めようぜ!!」
大事そうに抱える本を見て、アルは微笑む。


「兄さん、なんだか凄く元気だね・・・・・」

やっぱり、大佐に会えたからかな〜?恋の力って偉大だな〜!!
・・・・・来てよかった♪これからも応援してあげようっと!

―――――アルフォンスは、感心しながら、そう心に誓って。


「お前こそ、なんだかスッキリしたって顔してるぜ?」

人に相談して落ち着いたんだな、きっと。
後はオレが一刻も早く元に戻してやるだけだ!!頑張らなきゃ!!
・・・・・・・そのためには、自分の事なんか考えてる場合じゃねーよな。
ここしばらく抱えてる胸のもやもやなんか、忘れてしまわなきゃ。
大佐の事を思うたびに、心の中に現われる妙な感覚の理由・・・わからずじまいで、気になるけれど。
さっき大佐にあったときも何とか普通に振舞えたし・・・・・大丈夫。

―――――エドは、そう再び決意して。



そうして、姉弟はニッコリと笑いあった。


嗚呼、お互いを思いやる美しい姉弟愛!!

・・・・・・・・・・・・・でもお互い思いやりは、ビミョーにズレていたのだった。



『アルフォンスに気付かれたかも・3』・・・おわり


一進一退(笑)
アルの性格が、自分で書いててわけわかんなくなってきたような・・・(汗)
とりあえず、二人の恋は応援しているらしいです(笑)
今回、ロイエドの絡みが少なくてごめんなさい。
つーか、今回のロイ・・・・・かっこわるっ!!(苦笑)


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