ロイエド一年間・・・・『10月・・・風がいたずらを仕掛けてきた・3』



エドは自分の視線の先に『ある人物』を見つけて、さっと顔を正面に戻した。


『嘘だろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!』


心の中でそう絶叫してから、『いや、本当に見間違いかも・・・・』と、手で顔を隠しつつもう一度見る。
確認の結果――――――――やっぱり、全く見間違いなどではなく・・・・・・・

焔の大佐が、そこにいた。(・・・ついでにハボック少尉も・笑)



エドの胸中には、『何故ここに?!』という疑問と共に、
やっぱ、こんな格好するんじゃなかった!!という後悔がぐるんぐるんと渦巻いている。
後悔先に立たず・・・・・と言う言葉が重く圧し掛かる。

『いや、まて・・・・・気づかれなければいい事だ!!』

ここは、道路脇のテーブル。だが、道路に背を向ける位置で自分は座っている。
いつもとは全然違う服装だし、髪も下ろしているし。
声を出さず、顔を見られなければ、まず気づかれないはずだ!
そう思うが早いか、エドはテーブルに置いてあったウィンリィの帽子を引っつかんで被り、俯いた。

「エド?!」
「しっ」

突然自分の帽子を引っつかんで被ったエドに、ウィンリィは面食らったように瞬きをした。
だが、エドに静かにするように言われ、口をつぐんで周りを見回し・・・こちらに向かってくる青い軍服を見つけた。

「もしかして、あの軍人さん達・・・・・・知り合い?」

小声で話し掛けると、エドはこくんと頷いた。
驚いたように2人の様子を窺っていたアリスとフローラも、大体の事情は察したようで。
ウィンリィに目ばくせされると、さり気なく指し示す方向を見て、納得したように頷いた。

察しの言い彼女達がさり気なくエドを隠すようにして、違和感がないように、当り障りのない会話をする。
そんな中、エドだけはドキドキと煩い鼓動を押し隠しながら、一言も発しず息を詰めていた。
彼との距離がどんどん縮まる。

「あ・・・・曲がるわよ?」

ウィンリィの声に、帽子の影からそーっと覗くと・・・店の手前の角に彼らが曲がる所だった。
・・・・・忘れていたが、あの方向には中央司令部がある。ロイ達はそこに行く途中だったのだろう。
彼らの姿が完全に路地に消えてから、エドは大きく息を吐いて力を抜いた。

良かった・・・・・・

洋服も違う、帽子を被ったままの後姿で彼が自分と分かる可能性はほとんどないのだが、
妙に感のいい男だから、なんだか心配だった。
背中越しとはいえ、接触は無いに越した事は無い。
エドはもう一度息を吐き、背筋を伸ばした。

「わりぃけど、アイツがこの町にいるならオレはここまでだ。この店のトイレでも借りて着替えて―――」

そう、幼馴染達に声をかけた時、また強い風が吹いた。
煽られて、エドが被っていたウィンリィの帽子が飛ぶ。

「あっ、帽子!!」

慌てて立ち上がろうとした時、横から声がかかった。

「ね、彼女達どこから来たのー?」
「可愛いね。俺達と遊そぼーよ?」

『うわ、頭悪そー』
動きを止めて振り向いた先にはニヤついた若い男4人組。
・・・・・・全員、みるからに脳みそが軽そうである。
馴れ馴れしく近づく男達を、幼馴染達は眉間に皺を寄せて見上げている。

『さぁすが【美少女カルテット】。・・・いや、オレは入ってないからトリオか?―――食いつきがいいぜ』

・・・自分が声をかけられたときはナンパと気づかないくせに、人がナンパされて困っているのは分かるらしい。(笑)
可愛い幼馴染達を守るのは、やはり『用心棒役』だった自分だろう。
そう思いつつ、エドはカタンと音をさせて立ち上がった。

「あんたら・・・・・」

そこどいてくんねぇ?
そう言い終わらないうちに、男が口笛を吹く。

「ヒュー♪こっちの彼女、すっげぇ可愛い!!」
「・・・・・は?」
「滅多に見ないほどの上玉・・・っと・・・いや、可愛い子だな♪」
『・・・上玉?可愛い??』

自分はナンパされたメンバーに入っていないと思っていたエドは、思わず呆けてしまった。
その隙に左手を男に取られる。

「ちょ!!」

意外に力がある男にガッチリと手を取られ、容易には振りほどけない。
それを見たウィンリィが、怒り心頭といった感じで立ち上がった。

「エドを離しなさいよ!」
「はーい、君達もいこーぜ?」

4人いた男達がそれぞれ一人づつにつき、強引に手を引っ張る。

「ね、いいとこ連れてってやるからさー?」
『・・・の、やろー!!』

左手を取られているとはいえ、自分の敵じゃない――――
服が汚れてしまうのをほんの少し寂しい気持ちになりながら、エドは右手で拳を作って相手の腹に目標を定めた。
その時――――



「悪いが彼女たちには先約があってね。お前達と遊ぶ暇など無いよ」


後から聞こえた声に、ギクリとした。
振り向けずに固まると、後ろから腕が伸びてきて自分の左手を掴んでいる男の腕がひねり上げられる。

「って!!なにしやがん・・・・・!!」

男は自分の腕を捻り上げる男に向き直って罵倒しようとして、言葉を詰まらせた。
青い軍服に顔を歪ませる。
この国の軍隊の力は大きい。チンピラなどが歯向かえる相手ではないのだ。
その間にハボックが残りの3人を幼馴染達からひっペがす。

「彼女達は私と約束していたんだよ・・・貴様達などに譲れんな」

放り投げるようにロイが男の腕を離すと、男はよろめいて尻餅をついた。
そして、舌打ちを残してそ男達はそそくさとその場を走り去ったのだった――――



******



「あの、助けていただいてありがとうございます」
「いや。これだけ美しい花が揃っていれば、悪い虫が群がるのも無理が無い」

礼を言う幼馴染達に、ロイはニッコリと微笑んでみせる。
ウィンリィはエドの事を気にして緊張しているようだが、後の2人はそんなロイにポーッとなっている。
そんな中、エドだけは数歩離れてた位置にいて、俯いて顔を見られないようにしていた。
ロイに背を向けたまま、冷や汗をかきつつ『気づきませんように』と、心の中でひたすら祈る。
幸い、ロイはアリスやフローラと談笑していて、こちらをあまり気にしていないようだ。
それに、ほっとしつつも・・・・・なんだか、ムカついてくる。
複雑な気持ちになりながら、とにかくこの男が立ち去るのを待つ。
すると、ロイは思い出したように左手に持っていたものを差し出した。

「ああ、先ほどこれが私のところまで飛んできたのだが、君達のうちの誰かのものではないかね?」
「あ!!私のです。ありがとうございます」

ロイが差し出した帽子を、ウィンリィが受け取る。
風に飛ばされた帽子は、どうやらロイが曲がった路地に飛んでいってしまったようだ。

『アレのせいで、こいつ戻ってきたのか・・・・』
忌々しく思っていると、彼は幼馴染達との談笑を軽く締めくくり、にこやかに別れの挨拶をする。
アリスとフローラが名残惜しげな瞳で見送る中、ロイがハボックの方に向き直った。

「ハボック。私は用事がある、お前は先に帰ってろ」
「へ?司令部にかえるんじゃなかったんスか?」
「デートの予定を思い出したんでな」

ニヤ・・・と笑うロイにハボックはゲンナリとした顔を向けた。

「東方に今日のうちに帰るんじゃなかったんスか?」
「予定では明日帰る筈だったんだ。仕事が早く済んだから今日にしようと思っただけだから、かまわんだろ?」
「・・・・・・宿舎には帰ってこれるんでしょうね?」
「ふむ、それは相手次第だな・・・・・」

2人の会話を聞きながら、エドは沸沸と怒りが湧いてくるのを感じた。
どうやらこれからデートの約束があるような口ぶりのロイ。しかも、泊まりかもしれないらしい。

『やっぱり、からかってただけじゃねーか』
毎月恒例になった口説き文句は、やはり自分をからかっていただけだったのだ。
この様子では、会う相手全員にあんな事を言いまくっているに違いない――――
そう思うと、悔しくて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして、なんだか悲しくて。
エドは、俯いたまま唇を噛んだ。



「私はもちろん夜も一緒に過ごしたいけれどね。・・・・・・どうする、エドワード?」
「!?」


不意に後から肩を抱かれ、耳元に囁かれて、エドは跳び上がった。
慌てて振り向くと、間近に意地悪な笑み。
(『へ?大将?!』などと、後でハボックが面食らったような顔をしている。)

「な、ななな!!」
「やっとこっちを向いてくれたね」

ずっと背中を向けているから、避けられてるのかと思って傷ついたじゃないか?
ニヤニヤと笑いながらそう言うロイに、カッと血が上る。

「避けてたんだっつーの!!わかってたんなら知らんふりしとけよ、馬鹿!!」
「そんなことできるわけが無いじゃないか?・・・・・だって、私の為に着てくれたんだろう?」
「う、自惚れんな!!誰がアンタなんかの為に・・・・・!!」

肩に置かれた手を振り払って、拳をふりあげると――――あっけなくその手を取られて抱き込まれる。
慌てて、彼の胸に両手をつけて突っ張り、顔を見上げると。
―――――さっきのニヤついた笑いではなく、優しい笑顔。


「よく似合っているよ。とても可愛い」


周りを歩く他の男に見せるのが悔しいくらいだ。
そう言ってこめかみの辺りに軽く口づけされて、エドは赤面した。
真っ赤な顔をロイに見られたくなくて、顔を背けた先にいたのは幼馴染達―――全員、目が点である。
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!』
いたたまれなくなって、ロイを押し返して引き剥がして。

そして、エドはどこともなく走り去ってしまった。



「・・・・・また、逃げられてしまったな」

ロイは苦笑と共に、エドの走り去った方を見つめる。
そしてそのロイの横顔を、ウィンリィもいまだ驚愕の表情のまま見つめていたのだった。



『風がいたずらを仕掛けてきた・3』


3で終わろうと思いましたが、長くなったのでいったん切ります〜;
・・・・・このシリーズ、エド子が走り去ってばっかりです(苦笑)


back     next     お題へ