ロイエド一年間・・・・『10月・・・風がいたずらを仕掛けてきた・4』

*一部アルウィンなので注意。



「あの・・・・・」

おずおずとウィンリィが声をかけると、
ロイは彼女の方に振り向き、少し困ったような顔で微笑んだ。

「ああ、すまなかったねお嬢さん。・・・・・あの子があんな風に一緒にいるのだから、故郷の友達なのだろう?」

久しぶりの再開だったろうに、水を注してしまったな。
そっとしておいてあげようかと思ったんだが、彼女の余りにも可愛い仕草に、つい・・・ね。
そう言って自分の悪戯に許しを請うように、彼は苦笑する。

「いえ、もう一通り遊びましたから・・・・・・・あの、マスタング大佐・・・ですか?」
「おや、なにか彼女から聞いていたかい?」
「いえ、一度お会いした事があるんです。あなたがエドをスカウトにきたときに。あっ私、ウィンリィ・ロックベルです」
「ああ!あの時の可愛らしい方。・・・・・こんな美しいレディになっていたのだね」

だから気づかなかったんだな。
そういって微笑むロイに、ウィンリィは少し赤面して。
でもすぐに、意を決したように彼を見上げた。

「マスタングさんは、エドの性別を知っているんですね?あの子が・・・・・?」
「彼女に教えてもらった訳ではないんだ。偶然知ってしまってね・・・・・。
私の他にこの男と、以前君の家にお邪魔したリザ・ホークアイも知っているよ。」
「ああ、あの時のお姉さん・・・・・」

彼女も知っているということに、ウィンリィは少しホッとしたような表情を見せた。
そして、少し視線を彷徨わせた後――――――

「あの・・・・・・・エドと付き合ってるんですか?」
「いや、残念ながら付き合ってはいないな」

見てのとおり、振られてばかりでね。
そう言ってロイは悪戯っぽく肩をすくめてみせる。
気さくなロイの態度に、ウィンリィは少し緊張を解いたようで・・・表情を緩めた。

「そうなんですか?別にあの子、あなたのこと嫌がってはいないみたいですけど――――――?」
「初心で照れ屋な彼女だからな、戸惑っているんだろう。私が近づくと、すぐに逃げ出してしまうのだよ」
「あー。あの子、恋愛関係に免疫がないから。少女漫画のラブシーン見せただけて逃げちゃうくらいなんです」
「そうなのかい?まぁ、そこが可愛い所でもあるんだがな」
「ですよね。男ぶっても、そういうところが妙に純情で―――――」

苦笑交じりに二人で『エド考察』を語り合ってから、彼女は少し声を落とした。

「でも、少し安心しました・・・・・あの子の秘密を知っていて、それでも手助けしてくれてる人がいて。
・・・エドったら容姿も可愛いし、中身だってあんなに可愛いのに、頑なに自分を『男』にしようとしているとこがあって。
昔から、お母さんや弟を守るのは自分だって思いが強かったから、あんな風になっちゃったんですけど、
―――――それでもこの頃、だんだん無理が出てきてるようで心配してたんです」

静かに自分の話を聞いてくれる男の顔を見上げて、ウィンリィは一つ息を吸った。

「あの・・・エドの事、好きなんですか?」
まるで自分のことのように緊張の面持ちでウィンリィは、ロイに問い掛ける。



「彼女を愛しているよ」



即答する男に、目を大きく見開いて。
彼のその態度には、先ほどエドに向けていたようなからかいを含んだ調子は見あたらず、
かえって真摯な気持ちが見て取れて―――次の瞬間、ウィンリィは柔らかく微笑んだ。
彼女の笑みに、自分も微笑で答えて、ロイはエドが走り去った方向を見た。

「さて・・・照れ屋な我が姫君を迎えに行ってくるとしようか?・・・・・君達はまだここにいるかい?」

ここに連れて帰ればいいかな?そう聞くロイに幼馴染達は顔を見合わせ、そして首を横に振った。

「沢山遊んだし、私達も帰ります。――――彼女に、『楽しかった』って伝えてもらえますか?」
「――――承知した。ハボック、彼女達を送ってやってくれ」
「イエッサー!」

女の子達のエスコートを任されて、ハボックは楽しげに敬礼する。
そして、ロイはエドの後を追って足を踏み出した――――



******



「見つけた」

探し当てた小さな背中に声をかけると、
彼女は肩をビクッと揺らし、こちらを振り向いて盛大に顔を顰めた。

「・・・・・・・・・アンタ、無駄に目が良すぎ」
「君が目立つんだよ」

セントラル公園の敷地の端。
ちょっとした高台にあるそこの手すりの向こうを見下ろすと、町並み一望できる。そんな場所。
彼女が国家資格を受ける前に、緊張がほぐれるようにと立ち寄ってロイが案内した場所だ。
『別に緊張なんかしてねーし』
こちらの心遣いにそっぽを向いて答えた彼女だったが、その風景は気に入ったようで、しげしげと見つめていた。
走り去った方向に、この公園があったのを思い出して来てみたのだが、どうやら当りだったようだった。
そこにおいてあるベンチに、ちょこんとエドは座っていた。

「あっちこっちに若い男が転がっていたが?」
「―――――持病でもあるんじゃねーの?」
「全員、金髪の美少女に声をかけたせいらしいけどね」
「そんな女、知らん」

フィっとそっぽを向く彼女の隣りに腰を降ろす。
だが、エドは頑なにこちらを見ようとはせず、だんまりを決めたままだ。
ロイはそんなエドに苦笑しつつ、思案するように空を見あげて、もう一度エドを見つめた。

「あの男達は自業自得だよ。人のものに手を出すなんてね?・・・邪魔だから、全員燃やしてきた」
「!?」

ギョッとしたように振り向くエドに、ロイは笑って見せた。

「冗談だよ?」
「・・・・・・・アンタの冗談は、笑えねーよ・・・・」
「やっと、こっちを見てくれたね。そろそろ機嫌をなおしてくれないか?」
「いつ・・・・・」
「ん?」
「いつ、オレだって分かったんだ?」
「帽子を届けようと路地の角に戻ってきた時・・・・・かな」

帽子が風に飛ばされたお陰で、君の金髪が見えたから。
そう言ってロイは微笑む。

「髪だけで?金髪の女なんて沢山いるだろ?」
「こんな綺麗な色の髪を持つ女性なんて、私は一人しか知らないよ」

エドの髪を一房手にとり、口付ける。
ロイの仕草に、エドは僅かに体を震わせた。

「そ、いうの・・・・やめろって・・・・」
「どうして?」
「・・・・・・・」

だって、どうしていいかわからなくなるんだ。
胸がドキドキして、時折きゅっと痛くて。
何も考えられなくなる――――

この頃現われる不可思議な感情。
こんな事に煩わされている場合じゃないんだ。
オレには目的があるから、それで頭をいっぱいにしなくちゃいけない。
先月も、そう心に誓ったばかりなのに・・・・・・


何で、この男はそんな決心も簡単に踏み越えてしまうんだろう――――


『・・・・・・っ』
湧き上がってくる感情にエドは唇を噛む。

この感情が何なのか、そんな事知らない。
考えちゃいけない。
知ってしまうのが・・・・・・・・怖い。
だから、蓋をしてしまおうと思っているのに・・・・

顔を歪めて俯いたエドの顔に、不意にロイの手が伸びて、長い指がエドの顎を持ち上げる。
唇を噛むのを止めさせるかのように、ロイの親指がエドの唇をなぞった。

「――――さっきも言ったがね、その服、良く似合っているよ」
「世辞はいい」
「お世辞なんかじゃないよ?・・・・相変わらず、君は自覚が足らないな」

そう言って見つめるロイに、また顔が赤くなってくる。

「じろじろ見んな」
「あんまり可愛いから、目が離れない」
「ばっ!!―――――っ、アンタには一生スカート姿なんか見せないつもりだったのに」
「それは酷いな・・・」
「だから、見んなって!!見物料取るぞ?!」
「そうだな・・・・・いいもの見せてもらったから、払おうか」
「えっ?」

もしや、文献でもくれるのか・・・?
そんな期待が脳裏を掠め、思わずエドは振り向く。
途端、間近に黒水晶の瞳が見えて――――

『!?』

目を見開くエドの背に、逞しい腕が回る。
そのまま唇をふさがれても、エドは目を見開いたまま身動きできなかった。


時が、止まった気がした―――――



******



「さっ、ハボックさんもっと飲んでー?」
「お、わりぃなお嬢ちゃん」
「酷い〜子ども扱い?!・・・・・アリスって呼んでv」
「アリス・・・・・・・・かーっ、なんか照れるな〜〜〜」
「あ、ずるーい!フローラのも飲んで?ハボックさんv」
「よーしよし。どんどんついでくれ!」

ソファーの中央に座って、両脇に美少女をはべらせたハボックは、ご機嫌でグラスを開けた。
向かいのソファーに腰をおろしたアルは、それを呆れ顔で眺めつつ、隣に座る幼馴染呟いた。

「・・・・・なんで、場末の酒場みたいになってるんだろ、ここ?」
「そーね。・・・・・自分より絶対晩婚だと思ってた幼馴染に先を越されて、ヤケになってるんじゃないの?」
「自棄酒?・・・・・・でも、あれコーラだよ?」
「あたし達未成年だし、ハボックさんはまだ業務中だし、仕方ないじゃない」
「・・・・・・の割には、酔っ払いのノリだよね」

ロイがエドを追って言った後、
『送ってくぜ。家、どこだ?』
そう聞くハボックに幼馴染が告げたのは、図書館で。
そこで本を読んでいたアルを強引に引きずりだし、彼が泊まっている宿に案内させて。
宿の下にあるレストランから色々食料を運び込ませて、小宴会みたいなものが始まってしまったのだ。
2人のはしゃぎっぷりに、『このコーラ、アルコール入りなんじゃ?』などと心配になり、
瓶のラベルをつい確認してしまう。
ただのコーラなのに安心しつつ、アルはウィンリィに問い掛ける。

「そんなに姉さんに先越されたのが悔しいのかな?」

首を傾げるアルに苦笑して、彼女は答えた。

「さっきのは冗談よ。もちろん少しは悔しいんだけど―――――嬉しいのよ」
「嬉しい・・・・・の?」
「人に頼る事をしないあの子に、寄りかからせて休ませてくれる人が出来たのを見て、ホッとしたんじゃないかな」

あの子達だって、エドの事ずっと心配してたのよ。
そう言ってウィンリィは笑う。

「そっかぁ・・・・・・・なんか、嬉しいな。」

姉を思ってくれている彼女達に、アルの声も柔らかくなる。

「それだけじゃないわよ!!」
「そーよ!」

何気にこちらの会話にも聞き耳立てていたようだ。

「エドはさ、私達にとって王子様でもあったのよ!」
「王子?」
「カッコよくてさ、頭良くて、腕っ節も強くって・・・・・男の子なんか、全然適わないんだもの」
「口調は乱暴だけど、あたし達女の子にはなんだかんだいって優しいし。男の子の格好も板についてたしね」
「結構、年下の女の子達なんか憧れていた子多いのよ」

どうやら、話に聞いたことがある『女性だけの歌劇団』にいる、男役トップスターみたいな存在だったらしい。

「奥手なエドに先越されちゃったのは、少し悔しい」
「でも、女の子として幸せになって欲しかったから、嬉しい」
「だけど憧れてたから、取られちゃったようで、やっぱり悔しい」
「つまんない男だったらぶち壊しやりたいくらいだけど、あんなかっこいい人だから、それも出来ないし」
「エドもなんだかんだいって、あの人の事好きみたいだったしね」
「うん。彼女には幸せになって欲しいから、やっぱ嬉しい」
「でも・・・・・・複雑。」

2人の幼馴染達は矢継ぎ早に交互に口を開いて・・・・・そして、本当に複雑そうな顔をして俯いた。
アルは、そんな二人にどんな風に声をかけたらいいかわからずに迷っていると――――



「「と、いう訳で!!」」

突然、2人でハモって。

「アル、ジュースとおつまみ追加!!(アリス)」
「今度はオレンジジュースがいい!!(フローラ)」
「今度は、あたしも混ざる〜〜〜〜〜〜〜!!(ウィンリィ)」

「もう、やめなよ・・・・・・」
脱力して、肩を落としつつ諌めるが、彼女達は効く耳持たず。

「ヤダ!!・・・・・ね、ハボックさん!もっと、飲も?」
「いいぜ、オレも男だ。とことん付き合うぜ!」
「やーん、ハボックさんたら男前v・・・ね、あの二人の話、もっとして〜〜〜〜?」
「よーし、じゃあ今度は暑い夏に起きた『裸の大佐にエドがドッキリ』な話を・・・・・・・・・・げふ」

明らかに、ハボックは飲みすぎである。
それでもテンションが下がらない面々に、アルは観念したように腰をあげた。
注文の品を取りに行こうと一歩足を踏み出した時、隣りから声がかかる。

「ね、アル・・・・・」
「なに?ウィンリィ―――」
「あんた達が頑張ってるの知ってるし、急かすって訳じゃないけど・・・・・・。
あんなエド見ちゃうと、あたしもちょっと悔しいって言うか、羨ましいっていうか・・・・・・・」
「??」
「だから、その――――あんたもさ、なるべく早く元に戻ってよ・・・・・・・ね」

彼女の頬がほんのり桜色なのは、気のせいだろうか?
心臓がないので自分の体にに変化はないが、あったらきっと早鐘を打っていることだろう―――――


突然のことに狼狽しつつ、もう一度コーラのラベルを見直して、アルコールが入ってないのを確認するアルだった。



******



逞しくて温かい彼の腕の中で――――


『目的を果たしたら、君にドレスを贈らせてくれないか?――――今度は、私の為だけにそれを着て欲しい』

耳元でそんな言葉を囁かれ、心臓の音が五月蝿さを増す。
全力疾走して体力が失われたせいか・・・・・・・・それとも、与えられた眩暈がするようなキスのせいか?
エドはもう逃げる事も適わず、自分の心臓の音を聞きながら彼の腕に収まったままでいる。

『今日だけ、今日だけだ――――』

そう心の中で自分に、言い訳をする。

幼馴染達と、今日は女の子に戻る約束をした。
だから、今日だけ。
明日からはいつもの自分に戻るから。



だから、今日だけは・・・・・・・・・このままで。


頬を撫でていく優しい風を感じながら、
エドは目を閉じて、温かい胸に身を預けたのだった。



『風がいたずらを仕掛けてきた・4』・・・・・終わり


ど、どうかな?萌えた?萌えました??
―――日記で『萌え場面を作る』と宣言したので、クリアできたか、少々心配になったり。(小心者・笑)
ちょっとアルウィン風味vうちのサイトの基本なので♪
これで、10月終わり。――――今回、ちょっと乙女過ぎ?


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