今月も律儀に約束を果たしに東方司令部を訪れたエドワード。
司令室にアルを残し、一人大佐のいる執務室に向かったのだが・・・
扉の前にたったとき、少し開いた扉の中から聞こえてきた声に足を止めた。
声の様子から、中にいるのはロイとハボック。
仕事の話をしていると言うよりは、雑談していると言う雰囲気だ。
『仕事じゃなきゃ、遠慮しなくてもいいだろう・・・・』
エドはもう一度ドアノブに手をかけたが、聞こえてきた会話に、再びその手を止める。
「ふと、気がついたんスけど・・・・・・」
「なんだ?」
気がついたことがあるという部下の言葉に、ロイは書類から目を離し彼を見上げた。
この飄々とした雰囲気を持つ部下は、相変わらず咥えタバコで、上司の前とは思えない態度だ。
だが、ロイは特に気にする風も無く、会話の先を促す。
「何で、突然エドなんです?」
突然出された自分の名前に、エドは息を詰める。
自分の噂話を聞いてしまうというのは、どうにも居心地が悪い。
・・・・・・が、気になる。
エドは、会話にそっと聞き耳を立てた。
「・・・・どういう意味だ?」
「今まで大佐が相手してきた女って、大人の女ばっかじゃないっスか?」
しかも、どれも美人で、フェロモン系のグラマラスな女が多かったでしょ?
いっつもオレ、悔しい思いをしてたんですよ〜〜〜。と、ハボックは泣きまねをした。
「だからオレ、大佐はオレと同じ『ボイン好き』だと思ってたんスけどね?」
ハボックの台詞に、エドの額に青筋が浮かぶ。
『つまり、暗に『俺の胸がぺったんこ』だっていってんのか?!少尉は?』
思わず握りこぶしをつくったところで、次にロイの答えが聞こえてくる。
「・・・・・そこしか見てないのか、お前は。女性の価値は胸だけじゃないぞ?」
ハボックに同意するのではなく、エドをフォローするような台詞。
なのに、エドの額には、更に青筋が浮かぶ。
『・・・・・俺の胸には、価値がねぇってか!!』
いつも、女性らしさを自ら否定しているエドなのだが・・・・
やはりぺチャパイ呼ばわりされると、なけなしの女性の部分が怒りを感じたらしい(笑)
エドは大きく息を吸い込んだ――――
******
「だからお前はモテんのだ・・・・・・・それに、鋼のは――――」
外見も中身も悪くないのにいつも振られてばかりいる部下を、ロイが呆れたように見上げて言葉を続けようとした時。
ドアがすごい勢いで開け放たれた。
「だぁれが、まな板女かっっっ!!!」
「た、大将?!」
「鋼の・・・・・」
今、噂をしていた彼女が突然現われて、2人は驚愕した。
特に、彼女の胸の事を暗に『無い』と言ってしまっていたハボックは慌てた。
「た、大将・・・来てたのか?いつから・・・・・?」
「全部聞かせてもらったぜ、少尉・・・・・」
青筋を浮かべて関節をバキバキ鳴らすエドに、ハボックは蒼白になって後退る。
「いや・・・その、けなした訳じゃないぜ?エドは成長期だから、今から大きくなるんだよな?」
「やっぱり、まな板女だと思ってんだな!!」
「落ち着けって!!・・・・・でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今はペったんこだろ?」
「なっ?!」
エドが絶句したのを見て、ロイはため息をついて部下を見た。
『だから、お前はモテんのだ・・・・・・』
部下の失言に呆れながら、間に割って入ろうかと立ち上がった時、エドは爆弾を落とす。
「ムカつく〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!そんなに言うなら、見せてやる!!」
「「 は? 」」
男2人がマヌケな声をもらして見つめる中、エドはコートと上着を脱ぎ捨てる。
唖然とそれを見ていた2人だが、彼女がタンクトップに手をかけ、白い腹がチラリと覗いた時
ハボックはハッと我に返った。
「ちょ・・・ちょっと、待て!!エドっ(大汗)」
ハボックの静止も空しく、タンクトップが床に落ちる。
思わず目を逸らそうとしたハボックだったが、目の端に白い物が映ったので、動きを止める。
目の前にさらされたのは、少女の発展途上の胸・・・・ではなく、真っ白なサラシだった。
「無いわけじゃない。サラシで抑えてんだよ!!」
言っとくけど、ウィンリィにもこの年にしちゃ大きいって言われたんだからなっ?!
そう、憤慨したようにエドは言い放って、ずいっとハボックに体を近づけた。
「ちゃんと谷間だってある、よーく拝みやがれ!!」
さらしの上部を引っ張るようにして、胸の谷間を見せようとするエドに、ハボックは赤面した。
サラシで胸は覆われてはいるものの・・・・
あらわになった体のラインは、抱きしめたら折れるのではないかと思わせるほど華奢で。
透き通るような白い肌と、鋼色の義手のコントラストは痛々しいのだれど・・・逆に艶っぽく見えて。
・・その傷跡さえ、なんだか艶かしく見えて息を飲んだ。
ゴクリ、と唾を一つ飲み込んで、ハボックは視線を泳がせた。
「分かった・・・・俺が悪かった。謝るから・・・・・服、着てくれ」
『あれ?耳まで真っ赤・・・・・・?』
真っ赤になって顔を背けるハボック。
それを見た途端、エドは急激に恥ずかしくなってきた。
さっきまでは『別にさらし付けてるし、いいや』とか思っていた。
実際、ウィンリィとかは自分より胸がでかいくせに、結構露出度の高いキャミソールで堂々と歩いている。
露出度の点では、それとあんまり変わらないはずだ。
だから平気だと思っていたのだけど・・・・・・
相手が照れると、こっちもむしょうに恥ずかしくなってくる。
『ふ、服!!』
顔を赤らめながらタンクトップを探そうとした時・・・・体を覆う布地の感触。
よく見ると、それは自分の赤いコートで。後から肩にかけられたのだと分かった。
両手で前をかき合わせるようにして振り向くと、そこには大佐。
その顔は不機嫌そのものだ。
『な、何で怒ってるんだよ・・・・?』
苦虫を噛み締めたような表情に、少々怯む。
だが、すぐにこちらも不機嫌になってきた。
まぁ・・・女としちゃあ少々はしたなかったかもしれないが、コイツに怒られる筋合いはない。
しかも、こんなに不機嫌な・・・まるで・・・・・・見たくも無い物を見せられたような顔。
『どうせ、こんな傷跡だらけの貧相な体・・・見たってつまんねぇだろうぜ』
それこそ、この男は宝石のように美しい女性の体を見慣れているだろうし。
同年代より若干大きめと言われた胸も、この男のが付き合ってきた熟した女の豊満な胸に比べれば
鼻で笑われるよう程度の物かもしれない。
それに・・・・・機械鎧のこんな体、みっともないと思ったかも知れない。
そこまで考えて、エドは急に悲しくなった。
体に傷がつくのは、女性としてショックな事。
だが、女性の心を押し込めているエドは、たいした事では無いと無意識に自分に暗示をかけていた。
弟を得るために差し出した腕。
最愛の弟の為ならば、どんな傷だろうと、自分にとってはたいした事ではないのだ、と。
その気持ちに嘘は無いけれど、面と向かってこんな顔をされると、やはり傷つく。
それを・・・・・・この男にされたのが、なんだか酷く悲しかった。
鼻の奥がツンとして、目元が熱くなってくるのを、エドは必至に抑えて俯いた。
そしてそんな思いを誤魔化そうとして、口を開く。
「エロ大佐の割には、紳士なんだな?」
「・・・・・・」
「・・・なんだよ、その不機嫌そうなツラ。つまんねぇ物見せられて気分でも悪い?」
「――――何を言っている?」
憮然とした表情のまま、そう聞くロイに、エドはますます内心で落ち込む。
それでも、ついつい虚勢を張ってしまう。
「さすがのエロ大佐も、子供の体じゃ鼻の下も伸びねぇみてえだな?」
「・・・・・・二人きりの時なら、存分に伸ばさせてもらう所だがね」
「え?」
思いがけない答えに、エドはポカンと口をあける。
ピンとこない様子のエドに、イラついたようにロイは腕の中に引き寄せた。
「ちょ・・・・!!」
「他の男の前で服など脱ぐな」
ぎゅっと抱きしめられて、エドは赤面した。
「君の肌を他の男が目にするなど、耐えられん・・・・・そいつを、燃やしそうになる」
そうエドにささやきながら、ギロリとハボックを睨む。
睨まれた方のハボックは顔面蒼白だ。
腕の中に抱き込まれ、ハボックを睨みつけるロイの顔を見上げながらぼんやりとエドは考える。
『もしかして・・・・・・・・これって・・・・やきもち?』
そう思い当たった途端、顔が凄く熱くなって・・・・・・
同時に、先ほどの沈んだ気持ちが吹っ飛んで、なんだか可笑しくなってきた。
タラシのはずのこの男が
美しい女の体など、見慣れたはずのコイツが
こんな機械鎧つきの子供の肌を他人に見せたくなくて怒っている――――
なんだか急に、14も年上のこの男が可愛いと思えてしまう。
堪らなくなってクックッと笑いながら、男の胸をポンと手の甲で叩いた。
「ばっかじゃねぇ?・・・・・こんな子供の見たって、皆なんともおもわねぇよ?」
「・・・君は自覚が無さ過ぎるっ!!実際、コイツは赤くなってるじゃないか!?」
「突然でビックリしたからだろ?なぁ、少尉?」
「うっ、あの・・・・」
「即答できんようだな・・・・・・・」
ロイが睨みつつ、発火布の手袋をつけた手を振り上げた時。
入室を告げる声と共に、おもむろにドアが開いた。