「失礼致します、大佐。―――――先ほどのご依頼の件ですが・・・・・・」
資料に目を落としつつ入室したリザだったが、入った時の何処か張り詰めたように空気に、訝しげに顔を上げる。
そこには、怯えたようなハボックと、
エドを抱きしめながら、手を振り上げて指パッチン準備OKな上司。
「・・・・・何をしていらっしゃるのですか?」
「中尉・・・・・いや、その」
「ちゅういい〜〜〜〜〜〜vvv」
呆れながら声を掛けると――――うろたえる上司と、助かったとばかりに情けない声を出すハボック
。
リザはため息をつきながら言葉を続ける。
「大佐、執務室は火気厳禁でお願いします。それに、むやみに少女を抱きしめるのはいかがなものでしょうか?」
セクハラで訴えますよ?
そう不穏当な科白を言いつつ彼女はロイに近寄り、エドを解放するべく彼女の腕を引いた。
リザの腕に引かれてロイの抱擁から抜け出したエドだったが、その拍子に肩に掛けただけだった赤いコートが
はらりと床に落ちた。
現われた白い素肌に、リザは動きを止め・・・・・・・・・・・目を見開く。
が、すぐにその瞳は細く閉じられて―――――
「・・・・・・・・どういう、ことですか?」
冷気がただようような冷たい声に、ロイはダラダラと冷や汗を掻いた。
リザはそれを冷たく一瞥して赤いコートをひろうと、エドワードを自分の方に引きよせた。
自分の体で彼女を隠すようにしてコートを着せ、前のボタンをしっかりと閉めて。
そしてもう一度ロイに向き直り、ギロリと彼を睨み上げた。
「ちゅ、中尉っ!これには、訳が!!」
「どんな訳があって、執務室でエドワード君の服を剥ぎ取ったというんですか?!」
「まちたまえっ、これはもともとハボックが・・・・・・!」
「そう・・・・・・・・・・・・・・・少尉もなの。」
「ひいっ!!」
後ずさるロイと、自分に振られて悲鳴を上げるハボック。
片手でエドを自分の背に隠し、ホルスターに手を掛けるリザ。
急な展開にぼーっとしていたエドも、それを見て我に返って慌て出した。
「ちゅ、中尉!!違うんだ。これは脱がされた訳じゃなくて、オレが自分で脱いだんだよ!」
「でも、脱がなくてはいけないような状況にされたのでしょう?」
「え?・・・・・まぁ、それは・・・・・そう・・・・・かなぁ?」
でも・・・・!!と、エドが続ける前に、リザは銃を抜いて言い放った。
「大の男が2人がかりで少女に服を脱がせるように仕向けるなど、言語道断!!」
その目の色は変わっている。
「ご、誤解だ中尉!!落ち着きたまえ!!!」
「問答無用です!!」
その後、執務室にはおびただしい数の銃声が鳴り響いたのだった―――――
******
「・・・・・・・お前のせいだぞっ!!ハボック!!」
「だって、エドがあんな事するなんて、予想外っスよ・・・・・・」
次の日のロイの執務室―――――
あの後、エドはリザに連れて行かれ(昨日はリザの家に泊まることとなったらしい)
今月はもう会うことも許してもらえそうもない状況で、2人は並んで山に詰まれた書類と格闘させられていた。
ロイはもちろん、自分の分。
ハボックは自分の分+リザの分(彼女は休暇を取り、エドと一日過ごしている)。しかも禁煙つきである。
「昨日は彼女をディナーに誘うはずだったんだぞ!!
―――先月かなりいい雰囲気だったから、今月こそは決めようと思っていたのに・・・・・・・」
悔しそうにペンを握る手に力を入れるロイ。
そんなキケンな状態の上司に、禁煙で思考能力が落ち気味のハボックがいらない事を言う。
「でも、エドの半裸見れてラッキーだったんじゃないですか?」
「・・・・・・・・・・・・・そういえば、貴様も見たんだったな・・・・・・しかも谷間、まで・・・・・・」
「ひいっ!!」
余計なことを言ってしまったと思った時は時既に遅し。
昨日の怒りを思い出したロイが、発火布の手袋を嵌めて手を振り上げる。
慌てたハボックが、悲痛な悲鳴を上げながら言い募る。
「た、大佐っ!!この書類燃やしちゃったら、今月どころか一生エドに会わせてもらえなくなりますよっ!?」
ぴたっ、と。手が止まって。
その手がだんだん下がっていき・・・・・・・ロイは机に額が着くほどうな垂れた。
その、いつも自信満々の上司の打ちひしがれた様子に、さすがに罪悪感が湧く。
「あの・・・・・大佐、ほんと・・・・・すんませんでした」
「・・・・・・・・」
「大佐ぁ〜〜〜〜〜、元気出してくださいよ?コーヒーでもお持ちしましょうか?」
恐る恐る覗き込むようにお伺いを立ててみる。
「・・・・・・給湯室のではなくて、向かいにあるカフェからポットごと買って来い!」
「イ、イエス・サー!」
低い声で命じられ、ハボックは執務室を飛び出した。
廊下を走りながら、思う。
『・・・・・しっかしな、あの大佐が・・・・なぁ?』
どうにもあの少女にメロメロらしい上司に、苦笑する。
確かに可愛いしな。
体も、オレの求めるボインにはちっと足らんが。―――あれは、結構・・・って言うか、凄く・・・・・・・いいよなぁ。
彼女の白い肌を思い出して鼻の下が伸びたハボックだが、次の瞬間頭をブンブンと横に振った。
こんな顔、あの上司に見られたら今度こそ消し炭だ!!
両手で自分の頬をパン!と叩いて引き締めてから、もう一度カフェに向かって走り出すハボックだった。
その頃、ハボックと入れ替わりで執務室に入室する者がいた。