ロイエド一年間・・・・『12月・・・空から色々降って来た・4』



「大佐、どういう事かご説明を・・・・・ああ、やっぱりいいです」



どす黒いオーラを背中に背負って。
厳しい顔で事の真相をの説明を求めてきた・・・と、思ったら――――撤回され。
科白が終るかどうかのタイミングで取り出されたのは、やっぱりというか、なんというか・・・黒光りする鉄の塊で。

「ちょ・・・中尉!落ち着きたまえ!!」
「エド君が泣いているというだけで万死に価します。もう説明も必要有りません」
「ちゅ、中尉!!街中での発砲はマズイっスよ!?」
「少尉・・・・・それはそうね?では、そこの裏路地で。ちゃんとサイレンサーもつけなくては」
『人知れず、ひっそりと殺っちまう気っスか〜〜〜〜!?』

慌てるハボック。
ザッと一気に血の気が引いて顔面蒼白になるロイ。
思わず逃げ出したい衝動に駆られるが・・・リザの後の小さな影を見て、ロイは唇を引き締めた。
一歩前に足を踏み出し、まずはリザに声を掛けた。

「少し鋼のと話をさせてくれ。――――その上でやはり私に落ち度があったなら、遠慮なく撃ってもかまわんよ」
「・・・・・・・」

リザはじっとロイを見つめ、そして銃を下ろした。
いつもと様子が違うロイに、さすがに感じるものがあったらしい。

「頼む」
「・・・・・・・・・分かりました。でも、エドワード君が話をする気があるか」

ロイには厳しい口調のまま、でもエドを振り返った時は心配げな表情で彼女を見下ろす。
リザの了承を得て、ロイはもう少し彼女に近づいた。



「鋼の」



呼ばれて、細い肩がビクリとゆれる。

「逃げ出した理由を教えてくれないか?私と会う前に何があった?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・エドワード」

やはり答えようとしない彼女に、ため息混じりの声でロイがファーストネームを呼ぶ。
するとエドはまたピクリと反応してから、おずおずとリザの背中から出てきた。
だが、やはりロイの方を見ようとはしない。
それでも地面を見つめながら、やっとエドは口を開いた。

「・・・・・ごめん。約束の時間に遅れて」
「そんな事はかまわないが・・・・・いったい、なにがあったんだ?」
「・・・・・なにもないよ」
「そんな訳はないだろう?君は私に『アンタのせいだ』と言った。・・・私に関係あることだろう?」
「―――言い間違えた。『アンタのせい』じゃなくて、結局『オレのせい』なんだ」


そうなんだ、結局オレのせい―――――
オレが、しっかりしてればいいだけの事だった。


エドは一度言葉を切って、唇を噛み締めながら瞳を閉じる。
そして、ゆっくりと目を開けた後――――――意を決したように、口を開いた。

「ほんとにごめん。―――悪いけど・・・・・もうひとつ約束破るよ」
「何を・・・・・?」
「もう、ひと月に一度は帰ってこれない」
「なっ!?」
「気に入らないなら、後見を外れてもくれてもかまわない・・・・・・・・
でも、虫のいい話かもしれないけど―――――――今、秘密ばらすのだけは勘弁してくれ。
・・・・全て終ったら、オレだけなら制裁受けてもかまわないから。今は、許して」
「・・・・・・・・・・・何を、言っている?」

あっけに取られたようなロイの声が、その科白で怒気を帯びる。
怒気混じりのその声を聞いて、エドはやっとゆるゆると顔を上げた。
だが、その顔を見て・・・・・怒りに歪んだロイの顔が、また戸惑いの表情に変わる。



――――思いを必死に隠そうとしている、切ない顔。
        そして、その瞳からはまた一筋ポロリと、涙が零れ落ちた―――――



「もう、仕事以外ではアンタに会わない」



そう言って、エドはまた走り出した――――
咄嗟に後を追おうとしたロイだったが、その腕をリザが止める。

「大佐。ここは、私が」

先ほどの怒りの表情ではなく、真剣に見つめる彼女を見つめ返して、ロイは姿勢を戻した。
このまま追っても、彼女は理由を言わないだろう。
それどころか、余計に追い詰めてしまうだけ・・・・・・・・・・ならば。

「鋼のを、頼む」
「はい」

辛そうにそう言う上官にリザはしっかりと頷き、そして後を追って走り出した。



「何があったんスか?」

リザの後姿を遠くに見ながら、ハボックはボソリとロイに声を掛ける。


「こっちが聞きたいくらいだ」


返ってきた答えは、珍しく覇気のない上官の声だった。



******



「見つけた。ここにいたの・・・・・」
「!?―――――――中尉」


商店街の外れの公園の植え込みの影に、蹲る小さな影を見つけた。

声を掛けると驚いたように見上げてくる琥珀の瞳はやはり濡れていて――――――
リザは回り込んでエドの前まで来ると、地面に膝をついてバックからハンカチを取り出す。
それで優しく涙を拭いてやってから、微笑んだ。

「ここは寒いわ、いきましょう?」
「え?どこへ・・・・・」

行く・・・という言葉に、ビクリと肩を揺らして。
不安そうに見上げる瞳に苦笑しつつ、リザは優しく声を掛けた。

「心配しないで、大佐のところじゃないわ。私の家へよ?」
「え!?・・・・・・・・で、でも、イブだし・・・・・迷惑だよ!!」

だって、さっきハボック少尉とデートだったんだよね?
自分がリザの楽しい時間をぶち壊してしまったんだと、また泣きそうになるエドにクスリと笑ってみせる。

「デートなんかじゃないのよ?確かに食事はするつもりだったけど・・・・・・・
あなたをさがしていたの。ハボック少尉はそれに付き合ってくれていたのよ」
「え、オレ!?なんで・・・・・?」
「イブの食事は大佐に譲ったけど・・・・・その後は私の家に泊まってもらいたくて。
――――あなたと二人で、イブの夜を楽しくお話しながら過ごせたらと思っていたのよ」

小さいけれどちゃんとツリーも飾ったし、二人で食べようと思ってクリスマスケーキも焼いたのよ?
そう頬を撫でると、エドはやっと笑顔を見せた。

「手作り!?すごい・・・・・オレ、中尉の焼いたケーキ食べたい!!」
「ふふ、今回のはちょっと自信作なの。クリスマスだから、ブッシュ・ド・ノエルにしたのよ」
「あの切り株の形のだね?うわ〜!!・・・・・・・・・でも、本当にいいの?オレが食べても?」

自分を気遣って予定を変えてしまったんじゃないかという疑いを拭い去れなくて、エドは心細そうに見つめてくる。
そのエドを安心させるように、リザは力強く頷いて見せた。

「もちろんよ?あなたの為に焼いたんだもの!
・・・さ、立って?食事の用意はしていなかったから、途中でターキー買って帰りましょ?」
「・・・・・・うん!!あのね、オレ、トマトのピッツァも食べたい!!」
「いいわねv・・・・・ああ、シャンパンも買わなきゃ!」

やっと立ち上がって笑ったエドのコートについた泥を掃ってやって。
そして、二人はりザのアパートに向かって歩き出したのだった―――――――



******



食事を終えて。

二人はシャンパンのグラスを片手に話に花を咲かせていた。
エドはリザの焼いたケーキを美味しそうにおかわりして、まだ頬張っている。
そんな彼女を優しく見つめながら、リザはとうとう切りだした。

「エド君。・・・・・嫌なら無理にとは言わないけれど、良かったら泣いていた訳を教えてくれないかしら?」

その言葉に、エドのフォークがピタッと止まる。
そのまましばし固まったままのエドだったが、リザは急かすことなく根気良く待った。
するとカランとフォークを置く音がして、やっとエドが顔を上げた。

「オレね・・・・・・」
「うん?」

言いにくそうに、つかえつかえ・・・・・視線を落としたままのエドが呟くように言葉を紡ぐ。


「オレ・・・・・・・・・・・・・・・・女に、なっちゃったんだ・・・・・」
「!?」


リザはその言葉を呆然として聞いた。

女になった?
初潮がきたっていうこと??
いえ、それはもう済んでいる筈だわ。
―――――――――――――と、言うことは・・・・・・・・。



・・・今、ここに司令部の人間がいれば、確実に顔色を失って10メートルくらい一気に後ずさっているだろう。
そのぐらい、今リザの怒りのオーラはMAXになっていた。


あの腐れ大佐っ!!!『16歳になるまで待ってください』ってあれほど言ったのに!!
いえ、待って・・・・・あの時、大佐は『私と会う前に何があった』と聞いていた。
ということはあの時二人は会ったばかりで、会った時には既にエド君はこの状態だったということ?
つまりは、相手は大佐ではなくで、行きずりの・・・・・・・・・!?



『許さない!!』



俯いたままのエドを前に、リザの怒りはついに今までMAXを越えたのだった・・・・・



『空から色々降ってきた・4』





ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!
今回で終りたかったんだけど、終りませんでした。
それどころか・・・・・・理由をちゃんと説明するまでに至りませんでした(大汗)
嘘つきでごめんなさい(T_T)



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